表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレしか自慢のない俺、風俗にイったはずが異世界に行くことになった  作者: きし
第九章『新世界の王は破壊に接吻を』
35/63

 アキホは老婆の姿で森の中を進んでいた。側には、ギララ族の耳の代わりにエルフのように耳が伸びたアキラ、浅黒い肌は白くなりアキラと同じく耳を尖らせたゼルの両人が付き添う。


 「そろそろ、エルフ達も動き出す頃だわ」


 既に役に入ろうとしているのか、アキホは意識してしゃがれた声を出していた。


 「作戦開始」


 アキホの呟きに応答するようにして、後方から馬の蹄の音が聞こえてくる。それは、アキホを追う傭兵達の馬の音だ。

 包帯だらけの顔の隙間からアキホがゼルとアキラに目配せをすれば、二人共役柄を演じることに徹する。


 「追っ手です。私にお乗りください、族長」


 頷いたアキホをアキラが背負えば、力強く走り出した。アキラと並走するように無言のままのゼルも駆け出す。

 アキラの足は確かに速く、俊足と呼べるものだった。しかし、本気のギララ族に比べれば十分の一も本気を出していないと言えるが、今のアキラはエルフ族だ。足の速いエルフ族ならでは、相応の速度はアキラなりの演技だった。

 アキホはアキラの耳に口を寄せる。


 「もう気づいているエルフはいる?」


 「よく訓練されているよ、姉上。三人程、僕らのことを窺っているようだ」


 アキラがエルフ族に姿は変わったとしても、ギララ族特有の超感覚は消えることはなかった。

 ギララ族は聴覚、視覚、運動能力が発達している。ウルフェス族もそれに近いが、ギララ族の場合は見ること聞くことに特化して空間認識に長けた種族である。アキラがここでアキホを背負ったのも、どんな姿だろうがアキホに密着したいというアキラの気持ちが通じたわけではなく、アキホがアキラをレーダー代わりにするのに必要なことだった。


 「四十秒を切った、そろそろ準備して」


 追いかけてきていた馬とそれに乗る男達の姿が見えたかと思えば、矢がアキラを目指して真っ直ぐに飛んできた。

 外す予定の矢だが、うっかり当たってしまう可能性もゼロではない。アキホは最大の危険の中で最小の安全を強固なものにするため、腕の良いと評判の傭兵を雇ったが、それでも矢が脇を通り過ぎる為に肝を冷やしてしまう。


 「エルフ達に動きは無いの?」


 「こっちをじっと監視しているだけみたいだ。僕らのことを怪しんでいるかもしれない」


 「それなら、ゼル!」


 僅かに首を傾けたゼルが、後方に手を伸ばした。そこに出現するのは――魔法陣。

 この一年間の間にリーアから教わり、いくつかの魔法を操ることがゼルは可能になった。強力な魔法はできないが、簡単な攻撃魔法なら供え持ったエルフとしての特性も力を貸し簡単に発動することができるようになっていた。

 既に詠唱すら必要としないゼルは、魔法陣の中から稲妻を放った。放たれた魔法陣は傭兵達の前方を一瞬にして焼き焦がし、傭兵達の歩みを止めた。だが、それもほんの僅かな間の出来事だった。事前にゼルの攻撃を聞いていた傭兵達は、熱気の漂う地面を馬を操り乗り越えた。


 「これでいい?」


 「上出来よ、ゼル。これでも動きが無いなら、直接集落に向かうしか無いのだけれど……」


 傭兵達の方を振り返ったアキホの目の中に眩い閃光が飛び込んでくる。即ちそれは、作戦成功を証明するかのようなその光は、エルフ達から放たれた魔法の矢。

 アキホ達の前方に矢を持った二人の男のエルフが現れた。


 「こちらへ」


 短くそれだけ言ったエルフに言われれば、アキホは頷いた。

 一人のエルフの男は傭兵達へ向けて、さらに矢を構えようとする。もう一人のエルフに案内されて歩きながら、無事に傭兵達が逃げ出せることを祈りながら、アキホは振り返ることなく鬱蒼とした森の中へと踏み込んでいった。




                                             ※




 アキホ達がエルフの森に向かってから数時間後、傷付いた傭兵達が屋敷で治療を受けていた。

 リーアは治療に専念し、街から事前に医者も呼んで来ていたので大事にはならずに済みそうだと保は一安心していた。しかし、幸いにも皆生きて帰って来たが、最初の命の危機は回避できただけに過ぎない。まだまだこれから先、困難が待っているのだ。下手をしたら、人が死ぬことも……と想像したところで頭を振って嫌な予感を無理やり頭から追い出した。


 「みんな、大丈夫そうか?」


 目立った傷を魔法で治癒したリーアが傭兵達を休ませていた客間から出て来た。


 「タモツお兄ちゃん、待っていたのか」


 「他にできることもないし、こんな時に土いじりなんてできないだろ」


 それもそうか、と薄く笑うと客間の扉の前の壁に背中を預けた。


 「タモツお兄ちゃんは、私に大丈夫かと聞いたが、事態はそれほど良くはない。明らかに彼らの意思に揺らぎが見える」


 「……何となく想像はつくが」


 「本気で命を奪おうとするエルフ族に初めて遭遇したのだろう。エルフ族に対して偏見を持たない者達を集めた唯一の失敗だな。エルフ族の魔法の恐ろしさを身を持って知ったのだろう。傭兵達はいざとなれば自分達で戦うつもりだったのだろうが、力の差は一目瞭然だ」


 「下手に自信がある奴らだけに、余計に堪えたんだろうな……。だが、奴らには次の段階まで一緒に来てもらわないといけない。報酬をめいいっぱい上げてでも、残ってもらうようにしよう」


 リーアは保の提案に頷くと、そこで初めて血に濡れた手や服を思い出したのか、頬を赤らめた。


 「手を洗って、服を着替えてくる」


 「ついでに飯でも食べてこいよ。ミストさんが用意して待っているぞ」


 「……了解した」


 リーアの背中を見送ると、傭兵達と取引を行うために保は客間へと足を進めた。

 まだ始まったばかりなのだ。こんな所で躓くわけにはいかない、何よりもアキホはもちろん保達もお金の為に動いているわけではない。より良い未来を求めるからこそ、動いているだけなのだ。

 言い値でもいい、いくらになろうと構わない。例え屋敷の家財道具全て奪われても、この作戦は勝利に導こう。保もリーアも己の使命を全うする為に戦いを始めるのだった。




                                       ※ 



 「お疲れでしょう。詳しい話はまた明日お伺いしますから、今日はこちらを使ってください」


 「すまないねえ」


 人間に矢を構えていた時の殺意はどこへ置いてきたのか、紳士的な動作でエルフ族の男がアキホの手を取り、木材で作られた家の中へと案内した。


 「エルフ狩りに合ったのですか? 災難でしたね」


 ログハウスのような家の中は一部屋だけだったが、頻繁に掃除をされているのか清潔感を与える。

 ベッドが四つ置かれ、小さな窓と一人分の椅子とこじんまりとした机が置かれているだけだった。それでも広さから考えれば、当初の想像よりも警戒されていないように見受けられた。


 「何から何まで……。いいのでしょうか、私達のような余所者を集落まで連れて来るなんて……」


 エルフの男は人懐っこい笑顔と共に首を横に振った。


 「我らはエルフ族が他種族よりも上に立つことを望んでいます。であれば、同じエルフ族に対しては絶対的な信頼と敬意を称しています。これから詳しい話をしていけば、族長がどういう判断を下すか分かりませんが、今は私と貴方達は親愛なる家族と言えましょう」


 「家族……。常々、こちらの族長のお話はお聞きしていました。この集落を信じてやって来て正解だったようです」


 「貴女は、すぐにでも集落の仲間になる日も近いようですね」


 エルフの青年は去り際に、「お世話に任命された、ククトです」と名乗った。

 ククトに丁寧にお礼を言ったアキホは、ようやくといった様子でベッドに寝転がると足を投げ出した。


 「ぷはっー! 疲れたー」


 「あ、あ、姉上!」


 姉の気の抜けた姿にアキラが一喝するのかとゼルの視線が動く。


 「そ、そんな風にしたら、スカートの中身が見えちゃいますよ!?」


 「……アキラは変わらないね。何だか、ホッとするよ」


 ゼルの物言いに不満そうにアキラが腕を組んで、フンッと鼻を鳴らした。


 「当たり前だろ。僕は姉上に、自分らしさを貰ったんだ。どんな時でも、僕は僕らしくいるつもりさ」


 「まあまあ、ゼル。今は自分を失わないことが重要よ。……きっと、このエルフ族に居る時間は私達にとって大変なものになるはず」


 寝かせていた体を起こしながらアキホは包帯の隙間から釘を刺すような目でゼル見た。


 「覚悟している」


 「いいえ、私達のやろうとしているのはこの集落のエルフ族を裏切る行為。全力で裏切るのが私達の役目よ。……この先の平和を手に入れたいなら、絶対に彼らに流されては駄目よ」


 お前の覚悟は甘いと暗に言われたような気がしたゼルは、ムッとして言い返そうとするが「待て、ゼル」というアキラの一声に口を閉ざした。


 「姉上と話をするなら、また今度だ。どうやら、食事を持ってきてくれたようだ」


 ゼルは晴れない心のままで言いかけた言葉を飲み込めば、ベッドの一つに腰掛けた。ふとアキホの視線を感じて、そちらを見る。


 「ごめんね、ゼル。全てが終わるまで、私のことを信用して」


 あの穏やかなゼクスィでの日々を思い出させるようなアキホの優しい瞳を見れば、ゼルはいつしか自分の中に渦巻いていた疑念を忘れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ