1章~圧倒~
一身上の都合が辛い・・・。
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スキル 大魔導
・魔法を極めし者。
その魔力、混沌を無に帰す。この世界の理すらも。
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・・・意味分かんない。
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俺たち、というより俺は順調に薬草を集められていた。
一応、俺はラケルさんに鑑定をしてもらっている。
俺自身、鑑定を持っていて、ラケルさんの手を借りなくても良いのだが、
急に鑑定するとあれだし、何より頼めばラケルさんがやってくれる。
ラケルさんはきっと・・・俺のスキルを知ったのだろう。
おそらくラケルさんは盗賊では無い。
俺と同じ、隠蔽スキルを持っているに違いない。
本当のジョブは魔法使いとかそこらへんだと思う。
そうでないと、俺の頭を読んだことを説明できない。
あれは魔法の一種だと思うようにした。
したけど・・・。
(ラケルさんは俺のステータスを言う気配が無いな)
ラケルさんは俺のステータスを明らかに知っているはず。
なのにワダツミさんとかに言わない。
(何か言わないことで利点が・・・?)
それよりも。
アルバザード平野で現れると言われていた‘グリーンデビル’はいっこうに現れない。
周りにはモンスターはおろか、動物の数も減ってきた。
まぁ、出会わないだけ吉か。
「おっ、薬草っぽいもの発見」
そうこうしているうちに最後の薬草を発見、鑑定してもらい、薬草は規定数集まった。
「よしっ!モンスターと会わないうちにとっとと帰るぞ」
ワダツミがそう言うと周りのハンターもそれに反応する。
その後もワダツミはベラベラとしゃべる。
「いやぁー。一時はどうなるかと思ったが、何てことはなかったな」
しゃべり続ける。
「グリーンスライムも大量発生どころか一体も見当たらねぇ。何だよ。誤報か?」
しゃべりまくる。
「とりあえず帰って飯でも食うか!今日は何もなく帰れそうだしな」
・・・ワダツミさんよぉ。それ、フラグっていうんでっせ・・・。
怖いね。本当に怖い、フラグって。
案の定、手伝ってくれたハンターの一人が遠くを見て叫ぶ。
「で、出たァァァ!!!グリーンデビルだァァァ!!!」
おいおい・・・マジかよ・・・。
俺はこのテンプレ的な状況に若干冷静であったが、それでも、やっぱり緊急事態は怖いものだ。
俺はおそるおそる振り返り、その‘グリーンデビル’を見た。
ソイツはゆっくりとこちらに近づいてくる。
俺はゆっくりと、図書館で見た本の文献を思い出す。
グリーンデビル。その体、全ての攻撃を通さず。
会えば最後、恥を捨て、背を向けて走れ。
幸い足は遅く、追いかけてはこれない。
ゆっくりと近づいてきてくる。
プルンッ。プルンッ。
グリーンスライム。その体、全ての攻撃を通さず。プルンッ。
会えば最後、恥を捨て、背を向けて走れ。プルンッ。
幸い足は遅く、追いかけてはこれない。プルンッ。
ゆっくりと・・・プルンッ。
グ、グリーンスライム。そのプルンッ。全ての攻撃をプルンッ。
会えばプルンッ。恥を捨て、背を向けてプルンッ。
幸い足はプルンッ。
・・・・・ミキ?プルンッ。
いやもうね。いかに格好良くしようとしても駄目なものは駄目なんだよ。
やっぱり人間素直が大事なんだよな。
もうぶっちゃけちゃおう。
俺たちの目の前にいるモンスター、グリーンデビル。
又の名を、スライム。
「くっそ!何で最後の最後に!」
「おい!みんな逃げる準備をしろ!置いて行かれるなよ!」
俺がちょっとばかし呆然としている間、さすがハンター。てきぱきと逃げる準備をしている。
唯一、ラケルさんは動じてなかったけども。
「おい!何してるアレド!死にたいのか!」
ワダツミがそう叫ぶ。
いや、だってさぁ・・・。スライムだよ?
‘全ての攻撃を通さず’か・・・。
確かこの大陸はあまり魔法は使わないんだよな?
だからか。
俺が退魔師としての人生を歩んでいたときの異世界で、スライムは雑魚中の雑魚だった。
なぜなら、スライムは魔法が関連した攻撃をすれば一瞬で魔力暴走が起き、爆発する。
そんな単純なことが分かってないと言うことは、やっぱりラ・ジュールではそれだけ魔法が普及していないのんだな。
俺はゆっくりと歩き出す。スライムを倒そうと。
と、ここで俺は気付く。
(あれ?スキルってどう使うんだ?)
俺はとりあえずステータスを頭の中で開き、とりあえず魔法に関連してそうな‘大魔導’というスキルを開く。すると・・・
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スキル 大魔導
・魔法を極めし者。
その魔法、混沌を無に帰す。世界の理すらも。
使用可能魔法
・炎系魔法
ファイアボールーファイアウォールーライジングサン
・氷系魔法
アイスニードルーアイスエリアーコキュートス
・雷系魔法
サンダーボルトーサンダーグランドーテンペスト
・土系魔法
ストーンエッジーストーンハンドー地殻変動
・闇系魔法
ダークアイーダークオーラーデッドオアデッド
・光系魔法
ライトアーマーーライトブリンガーー始まりの時
・混沌魔法
カオスオブキルーエンペラーオブカオスーザ・カオス
・改革魔法
ユニバース
Lv5・・・混沌魔法の開放
Lv10・・・改革魔法の開放
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・・・意味分かんない。
いやまぁ、確かに退魔師だったころは本気で世界を変えようと思ってたけども。
さすがに意味分かんない。
しかも最上位スキルになった途端急に中二病中二病しすぎだろ!
もういいや・・・。諦めよ。
それよりもどうやって使うのかを考えなきゃだよな・・・。
とりあえず頭の中で唱えてみるか?
(スキル、大魔導)
そう唱えた瞬間、俺のまわりから莫大な量の何かがあふれ出す。
「な、何だ!?アレドから光が・・・!?」
「光・・・?どこに見えるんだ?それよりも早く逃げろ!アレド!」
(あぁ、この感じ、魔力だな)
俺は確かに実感していた。
後ろではワダツミらがわちゃわちゃ言っているが、魔法には適正があるので見える人と見えない人がいてもおかしくない。ワダツミは適正が低かったのか?
(じゃあ、とっととやっちゃいますか)
俺は目の前のプルンプルン迫ってくるスライムに対し手を開き、
俺のお気に入りだった魔法を唱える。
「『火の精霊よ。我が呼び声に応え、戒めを燃やせ・・・』」
魔法詠唱するほど、俺の周りに魔力が集まってくる。
そして、解き放つ。
「『ファイアーボール』」
瞬間、もはや魔力の塊でしかないファイアーボールが近くに存在する草を焼き焦がしながらスライムに接近していく。
スライムは気付く。これは死そのものだと。
だが、気付いてもスライムの移動速度ではその炎球を避けるには遅く。
目がかすむほどの爆発が起きた。
後に残されたのは、スライムがいたとされる地点から約半径5メートルに及ぶクレーター。
そして、クレーターの淵に立っているアレドのみだった。
「・・・・・何だよコレ・・・」
その場にいた誰かが呟いた言葉は、爆発地から絶え間なく出続ける黒煙によってかき消された。
ようやく黒煙が収まった頃、ワダツミがようやく口を開く。
「な、なぁ・・・アレド、これってもしかして・・・」
「あぁ・・・魔法だよ」
一瞬にして呆然としていたハンターたちの顔が緊張感のある面持ちへと変わる。
当然、ワダツミも。
「・・・魔法がこの大陸で嫌われているのは分かる。でも、スライムーーーじゃなかった、グリーンデビルを倒すにはこの方法しか無い」
「・・・どういうことだ?」
「グリーンデビルは攻撃が効かないんじゃなく、物理攻撃が効きにくいんだ。その気になれば物理攻撃を用いて倒すことも可能っちゃ可能だが、めちゃくちゃしんどい。スライムはほぼ魔力が自然に集まってできたものだから、魔法をぶつけてあげればすぐに倒せる。だから多分、ア・シュガルでは雑魚として、グリーンデビルじゃなく、スライムとして呼ばれていると思う」
「・・・ハッ。結局はそういうことかよ」
ワダツミはしかめ面をつくり、
「結局てめぇも魔法の力を信じ切ってるってクチだな?刀のことを知っていたから、こいつは話の分かる奴かと思った俺がバカだったぜ。信じてたのによ・・・」
俺が腰掛けている、牡丹が少し悲しんだような気がした。
「い、いや、そういうわけじゃない。俺は別に武術をバカにしているんじゃなく、どちらともいいと言っているんだ。きっとア・シュガルには魔法攻撃が効かないっていうモンスターがいるはず。そんなモンスターを倒すことはラ・ジュールのハンターにとって造作もないことだろ?武術と魔法、どちらかがいいわけじゃないんだ」
「俺から言わせてみれば、武術と魔法、そのどちらも劣っているんだけどな」
「・・・・・」
ワダツミらハンターたちが黙る。
しばしの沈黙のあと、一番最初に口を開いたのは・・・
「そろそろ帰らないかい?薬草も集まったんだしさ」
ラケルさんだった。
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帰路の間、ハンターたちと俺は一度も言葉を交わさなかった。
その後は本当に何もなく、無事ラ・ファンに帰ることができた。
そのまま冒険家ギルドへ直行。
ギルドの中にはいると、ナンディが心配そうな顔をして待っていた。
「あっ!やっと帰ってきましたか!心配したんですよっ!」
「あぁ、いや・・・ごめん。これ、依頼された薬草」
「1,2,3,4,5・・・はい、確かにいただきました。これでクエストクリア、そしてぇ!念願のランク3となりましたっ!」
パチパチとギルドにいたハンターが拍手を送ってくれる。
・・・1回目は確かに嬉しかったのに、2回目は何だか素直に喜べない。
状況が状況だからか・・・。
と、ここでワダツミが口を開く。
「・・・おい、ナンディ」
「はい?何でしょう?」
「アレドに追加報酬、10000アストくれてやってくれ」
「追加報酬?えっと・・・10000アストがもらえるモンスターは・・・」
追加報酬早見表のようなもので探す。
どうやらナンディが見つけてしまったらしい。
「えっ!?うそっ!?えっ!?倒しちゃったんですか!?グリーンデビル!?」
ザワリと。ギルド内が大きく波打つ。
「・・・うん・・・まぁ・・・」
「何モジモジしてんだ。胸張れ、胸を!」
ワダツミは俺の背中を叩く。
「もしかして俺がお前のことを嫌ったかと思ったか?バカか、感謝こそすれ、嫌うわけないだろ。あんまり俺たちを舐めんな。なぁ?」
後ろのハンターたちもみな頷く。
「お前はそれぐらいのことをしたんだ。誇りを持て!」
「・・・・・ッ!」
ーーー誇り。
いつのまにか、忘れていたソレ。
誰かを助けた。
ただそれだけのことで誰かに誇れる。
自分自身を誇れるーーー。
自分の胸の中にあふれる感情に名前を付けられないまま悩んでいると、
「まぁまぁ!とりあえず祝勝会やりましょ!そのときにでもアレドさんの伝説聞かせてくださいよ!」
ナンディが俺の背中をグイグイ押し、ギルド内の大テーブルに案内する。
そこにはちょっとしたごちそうが。
「えっえーっ。それでは今からアレド・ソウファールのランク3昇級おめでとうパーティーを開催します。みなさんコップは持ちましたね?それでは!」
『乾杯ッ!!!』
ギルド内のハンターがまるで自分のことのように騒ぎ出す。
・・・。
まぁ、とりあえず。
ランク3昇級おめでとう、俺。