まじめな看護婦さん
これは、看護師の従姉から聞いた話です。
従姉の勤務する病院には、ある怪談があります。
今から約二十年前、K病院にNさんという看護婦さんがいました。
Nさんは、とても責任感の強いマジメな方だったそうで、入院患者の方からも人気があったそうです。
ある日、Nさんは幸せそうに言いました。
「わたし、結婚するんです」
当時を知る、Nさんの後輩だった方は、Nさんが本当に幸せそうに見えたそうです。
ですが――
端的に言うと、Nさんは結婚詐欺にあったのです。相手の男は、Nさんが結婚資金にと貯めていたお金を全て持ち出し、姿をくらましました。
騙されたNさんは絶望し、一人、マンションの自室で首を吊ったそうです。
おかしな出来事が病院内で起きるようになったのはそれからです。
ある日の夜、ナースコールが鳴ったので、夜勤中の看護婦さんが病室に向かいました。
すると、患者さんにこう言われたのです。
「さっき来た看護婦さんに直してもらいましたよ」
患者さんは、高齢のおばあさんです。ずいぶんと遅い時間だったこともあり、看護婦さんは深く考えず、勘違いか間違いだったのだろうと思いナースステーションに戻りました。
おかしな事は、数日おきに起きたそうです。
検温に行くと、
「あれ? さっきも来なかった?」
と患者さんに言われたり、
「今日はお二人じゃないんですか?」
と言われたそうです。
さすがに看護婦さんたちも気味が悪くなってきた時です。一人の看護婦さんが、ある事に気づきました。
おかしな事が起きる日は、もしNさんが存命だったなら、Nさんが夜勤当番の日だったのです。
Nさんが夜勤の日、ある看護婦さんが夜回りに出ました。
すると、向こうの廊下から足音が聞こえてきました。看護婦さんは恐ろしくなって立ち止まります。
足音が聞こえます。
足音だけが聞こえます。
それほど長い廊下ではないそうです。すぐ姿が見えていなければ、おかしいそうです。
足音がすれ違いそうなほど近くから聞こえた時、看護婦さんが、誰かがいるような気配がする場所に、おそるおそる訊きました。
「Nさんですか?」
足音が止まります。
「Nさんは、もう病院に来なくていいんですよ。もう、お休みになられていいんですよ」
看護婦さんがそう言ったからか、それからもう、おかしな事は起きなくなったそうです。
病院は一度建て替えられ、病室棟があった場所は現在、リハビリセンターになっているそうです。
ですが、時々、本当に時々だそうですが、真夜中のリハビリセンターから足音が聞こえたり、窓に人影が映ったりするそうです。
今も。