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「お約束」な少女漫画  作者: 相田 渚
第三章 ずれた物語と修正された物語
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夏祭り2

ぴーひょろと陽気な笛の音と和太鼓の祭囃子がどこからともなく流れ、人々の喧騒を一層賑やかしている。

赤々と火が灯る提灯にぼうっと照らされた参道の両サイドには、こってりしたソースの少し焦げた匂いや、ベビーカステラのふわっとした甘い香りを漂わせた屋台がずらりと立ち並んでいる。

威勢のいい声で呼びかける屋台の店員、きゃあきゃあと浴衣姿を楽しむ女の子の集団、小銭を握りしめてバタバタと走り抜ける小学生達。

ノスタルジックなお祭りの雰囲気を楽しんでいると、近くでぐぅとお腹の音が聞こえた。


「あ、あのね、今日の浴衣どうしようって悩んでてお昼食べてなくてそれで鳴っただけなの」


かあっと顔を赤らめた百瀬が誰に聞かれたわけでもないのに言い訳を述べた。


「女の子は時間がかかるから大変だね。でも百瀬さんがたくさん悩んでくれた分、今かわいい浴衣姿が見れたってわけだ」


恥ずかしげに肩をすくめた百瀬に、王崎が言う。

続けて、茉莉花はまず何か食べることを提案すると、百瀬はずらりと並ぶ屋台にきょろきょろと目をやる。


「うーん、たくさん屋台あるから迷っちゃう。唐揚げ棒とかたこ焼きとか焼きそばとか…。でもベビーカステラとかチョコバナナとか甘いのも食べたいなぁ」

「そんなに食ったら太るぞ」


腕組みをして悩む百瀬に、速水がすかさずニヤニヤと意地悪げな笑みを浮かべて言う。


「全部食べるわけじゃないから大丈夫だもんっ。でもお祭りといったらたこ焼きと焼きそばかなぁ。あ〜でもさっきからイカ焼きのいい匂いがしてる…。どうしよう」

「…まぁしょうがねぇから、何個か半分食ってやってもいいけど。」

「本当!?ありがとうっけーちゃん!じゃあね、たこ焼きと焼きそばと焼きとうもろこしとベビーカステラはんぶんこしようね!」

「別に俺もちょうどたこ焼きとか食いたかったし」


ぷくりと頬を膨らませて怒ったかと思えば、速水の素直じゃない申し出に、百瀬は一転して笑顔を見せた。

その笑顔は可憐な少女らしいもので、速水が顔をうっすらと赤くする気持ちもわかるが、話している内容が内容のため食い気しか感じられない。

しかも陽が落ちているとはいえ、クーラーもなくこんなに蒸し暑い中がっつり食べようとする百瀬の強靭な胃袋に、茉莉花は尊敬を覚えた。


そう感じたのは王崎も同じだったようだ。

一度別れて各々が望む物を買って再び合流してみると、速水と百瀬が焼きそばやたこ焼きや焼きとうもろこしを手にしているのに対し、王崎は茉莉花と同じかき氷を購入しただけだった。


「王崎君と茉莉花ちゃんはかき氷なんだね」


はふはふと焼きそばを食べながら百瀬が言う。

その横で、焼きとうもろこしを片手に持ちながら速水がたこ焼きを食べている。


「暑いからまずかき氷を食べて涼もうと思って。百瀬さんは食べたいもの全て買えた?」

「ううん、ベビーカステラが見つからなかったから後で買うつもり。でもかき氷もおいしそう」

「私は定番のイチゴ味がおすすめ」


百瀬にかき氷のカップを見せた後、茉莉花はストローでできたスプーンを口の中へ入れた。

しゃりしゃりとした氷が口の中で溶けるのがひんやりとして気持ちがいい。

もう少し食べたら頭が痛くなるかも、と思いながらも冷たく甘いイチゴ味がおいしくて手が止まらない。


茉莉花と同じようにかき氷を食べている王崎を眺め、それから自らと百瀬の食べ物を見て何かを思いついたのか速水が王崎に向かってにやりと口元を吊り上げた。

百瀬以外にからかうような顔をするのは彼にしては珍しい。


お祭りの雰囲気のせいか、浴衣姿の百瀬のせいか、それとも百瀬と食べ物をシェアできている優越感からか知らないけど、テンション高いな速水君。


そう思いながら茉莉花は、いつもの仏頂面と違う表情を見せる速水を眺める。


「お前舌だしたら恥ずかしいことになってるぞそれ」

「あぁブルーハワイ食べてるから、きっと舌は青くなってるだろうな」


速水の幼稚な絡みにも、べっと舌を出して笑って見せる姿が爽やかだ。

舌の色が青くなるのは恥ずかしいけど、この味好きなんだよねと照れくさそうに笑う姿から目が離せなくなり見つめていると、茉莉花の目の前にすっとスプーンが差し出された。


「茉莉花ちゃんも欲しいのかな?どうぞ」

「えっ」


あっと小さく漏れた百瀬の声や、一瞬にしてあがった体温のせいで手に持つかき氷のカップから滴がぽたりとたれていることをどこか遠くに感じながらも、いつもより近い距離にいる王崎を見ながら、ゆっくりと差し出されたかき氷を口にする。


冷たいはずのかき氷は、茉莉花の体温が高いせいかろくに感触を確かめる間もなく溶けていき、後にはブルーハワイの甘いシロップの味がほんのりと舌に残った。


「王崎君、私もブルーハワイ食べてみたいなぁ」

「いいよ。皆実はブルーハワイ好きなんだね」

「わーありがとうっ!おいしいね。ってそうじゃなくて、今食べるんじゃ意味がなくて…1回王崎君が食べてくれないと…」

「うん?あぁまだ焼きそば食べきってないから味がわからなくなるの心配してるのか?それなら少し百瀬さん用に残しておくけど」

「うぅん、そうでもなくて…ううん、ありがとう王崎君」


茉莉花の後すぐに百瀬にも同じことをしたように、本当に王崎は2人がかき氷を欲しがっていると思い純粋に自身のスプーンを差し出しただけなのだろう。


そうとわかっていてもなお、茉莉花は唇に指をあてて先ほどのスプーンの感触とかき氷の味を思い出し、胸をときめかせた。

頬や掌の熱は未だ下がらず、自分のかき氷のカップが、ぬるく感じられる。


「何ぼーっとしてんだ。氷溶けかけてんじゃねえか。速く食べろよ」

「速水君」


速水に指摘されたとおり、茉莉花の手の熱によってかき氷が半分液体になっている。


「そういう速水君は、たこ焼き半分食べた後は焼きそば?」

「まぁな。亜依と交換したんだ。亜依とな」

「ふぅん。はんぶんこできてよかったじゃない。後は王崎君に変な絡みしなければよかったのに」

「うっせぇ」


チッと舌打ちする速水に、茉莉花はくすりと笑った。

眉間に皺を寄せて凄んでも、口の端にかわいらしくついているソースで台無しだ。

小さな朱色の巾着からティッシュを取り出し、少し背伸びをして口元を拭う。


「百瀬さんのところに行く前に、綺麗にしないと」

「言えば自分でやったっての」

「自分じゃ見えないでしょう。しかも食べ物で手がふさがってるのに」


口でそう言いながらも、茉莉花が拭きやすくなるよう少し屈むところが速水らしい。

拭かれた後どこかそわそわしている速水に向かって、茉莉花はカップを差し出した。


「速水君もかき氷いる?イチゴ味だから舌の色は変わらないけれど」


人のこと言えないなぁ。


お祭りの雰囲気か、王崎の浴衣姿のせいか、ブルーハワイのかき氷のせいか。茉莉花は自身がいつもより気持ちが浮ついているのを感じながらも、いらねぇよ!と返す速水に悪戯気に笑った。

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