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「お約束」な少女漫画  作者: 相田 渚
第二章 動き始めた物語
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林檎のキャラメル

今までは漫画にあった描写が現実でもほとんど起きていたが、勉強会といい、夏祭りといい、今回は大きく現実と漫画でずれが生じている。


同じ人が好きだと知っていても百瀬は茉莉花に対して『スイートチョコレート』ほど強い敵愾心を持っていないように感じられる。

確かにライバル視はされているだろうが、漫画みたいに何かつけて張り合ってくることはない。むしろ大層懐かれていると自負している。


だからこそ漫画とずれが生じたのだろう。

テスト勉強の動機も、百瀬亜依は宮本茉莉花に負けないためだったのに対し、百瀬は赤点を回避するためだった。


百瀬亜依のようにライバルに負けないために自発的に勉強しようとしていなかったから、百瀬は王崎と図書館で出会うこともなければ、そこで勉強を教えてもらえるきっかけを掴むことができなくなったに違いない。


その結果、きゅんとときめきを感じるどころか、コメディすら感じられる勉強会の始まり方となってしまったのだ。

そのせいで少女漫画でお馴染みの「手が届かない本を取ってもらう」シチュエーションを百瀬は逃してしまった。

敵ながらあの体験をできるチャンスを失ってしまったこと、更には本来なら2人きりで勉強でき、夏祭りに行っていたはずの百瀬に、少し同情してしまう。


本人は事実を知らないため、勉強会も喜んでいるだろうし、王崎に夏祭りに誘われたときはろくに手帳も確認しないで顔を赤くそめ瞳を輝かせて「行く!」と勢いよく挙手をした。


また茉莉花の予想通り、百瀬の返事に速水も憎まれ口を叩きながら夏祭りに行くと返事をしたため、結局夏祭りは4人でまわることとなったのだった。


「万が一今回のテストが赤点で補習になっても、夕方までだから補習終わりに学校から直接向かえば夏祭り自体は間に合うだろうけど、どうせなら家から会場まで百瀬さんと一緒に行った方がいいでしょ」


勉強会とは別に、お昼休憩も自習室で速水に勉強を教えてる茉莉花がお弁当を食べながら言った。


今日で一週間目、つまりこのお昼の勉強会も、放課後の勉強会も最終日となる今日になって、勉強を教わっている本人が今更になって茉莉花の熱心さに首を傾げたからだ。


速水と百瀬が一緒に行くとなれば、その後の流れもそのペアになるかも、という考えもあるが、それは口にしない。


「速水君、五月以降の授業ほとんど抜けてるんだもの。勉強会だけじゃ時間足りなかったのよ」


くるくると薔薇の花のように巻いてある薄く切ったキュウリをぱくりと食べる。


今日は時間が足りなったため、お手軽パンサラダである。


6枚切りの食パンを耳のみ残して中をくり貫きトースターで焼いた後、お弁当箱に詰めた。パンの耳という器をつめた後で、レタスを満遍なく敷き、その上にアイスのようにまんまるい形に整えたポテトサラダ、薔薇の花にみたてたキュウリ、半分にカットしたプチトマト、ハム、花形にカットしたゆで卵、そしてくり貫いたパンを載せて完成だ。

くり貫いたパンはハート、うさぎ、ねこ、くま等の形にカットしているため、お手軽にも関わらず見た目は豪華に見える。


速水は自習室についた途端、5分もかからずに惣菜パンを食べ勉強にとりかかっているが、茉莉花は勉強を教えながらパンサラダをゆっくり味わっている。


「大体、授業にあまり出ていなかった五月以前の内容はわかっていて、授業に参加している五月以降の内容が抜けてるってどういうことなの?」


さくっと焼けたうさぎ型のパンを食べながら、ついでに間違いを指摘すると、眉を寄せて速水は消しゴムをかけた。


「そりゃさぼっても特にやることねえし」

「もしかして、外で一人で勉強してたの?それなら普通に授業出ればよかったのに。あー、速水君って人見知りだもんね。授業をさぼる不良っていうより、教室にいるのがつらかったただの人見知りか」

「笑い混じりに言うな!後、人見知りじゃねえ」


優しいくせに最初はかなりとっつきにくく、けれど何回か話しているうちに言葉が増える人間のどこが人見知りじゃないのだろうか。


「それで、独学で補えていたのに、逆に授業に参加し始めると内容が全て落ちてるのはなんで?」

「なんでって、勉強よりほかに大切なことがあったから…」


もぞもぞと言い、訳しなおした英語の文章を茉莉花に見せた。あってると首を縦にふると、速水は次の問題に取り掛かった。


茉莉花の質問から逃れようとするその様子に、彼女はある可能性にたどり着いた。


「もしかして、百瀬さんが気になって授業が身に入らなかった、とか…?」


確か前に、体育の授業は百瀬さんがいないから出る意味ないとか言っていたけれど。

百瀬さんがいるから授業を真面目にでるようになっているけれど。

まさかそんな少年漫画に出てくる思春期の男子学生じゃあるまいし、好きな子が気になって黒板や先生より百瀬さんをずっと見ているうちに授業が終わってるとか、ないよね。


違うよね、と自然に上目遣いになりながら質問をすると、速水がシャーペンの芯をボキっと折った。


「ち、違うに決まってるだろ!!」


ダウト。


「…速水君もともと頭いいから、何とか五月以降の授業分も取り戻せたし、普通に集中できれば良い点数とれると思うの。普通に集中すればね」

「亜依のことで気なんか散らしてねぇって」


反論する速水の口に茉莉花は林檎のキャラメルを放り込んだ。


小さくカットした林檎をバターと砂糖で煮たそのキャラメルは、一口サイズのタルトタタンのようなものだ。濃厚で甘酸っぱい林檎の食感が残っており、普通のキャラメルよりも満足感が高い。小腹がすいた時や勉強の合間にぴったりだ。


キャラメルによって口を閉じた速水は、先ほどまで百瀬のことで照れていたことも忘れ、「うまいなこれ」と目を丸くした。


百瀬といる時以外は眉間に皺をよせどことなく不機嫌そうな表情が多いが、普通の顔をしていればもっと色んな人から話しかけられるのに、と茉莉花はもったいなく感じる。

人見知りの速水からすれば、かっこいいけど怖そうだから遠巻きにみてるという今の状況の方がありがたいのかもしれないが。


「それでも食べて、放課後の勉強会と、今日の夜最後の追い込みの時だけは、勉強に集中してね」


はい、と速水に茶色い紙袋を手渡す。中には林檎のように赤い包装紙で個別に包まれた、林檎キャラメルが入っている。


「これ俺にくれるのか?」

「お昼の勉強会お疲れ様ってことで、速水君だけに作ってきたの。百瀬さんと王崎君には秘密よ」


人差し指を口の前で立てて言うと、速水は「へぇ」と無関心な返事をした。

そして、赤い包装紙を解いて林檎キャラメルをもう1つ口に入れて、もごもごとお礼を告げた。

お礼を言い慣れない子供みたいな反応に、茉莉花はくすりと笑いを漏らした。

さぼっても暇すぎて逆に勉強する根が真面目な速水君、

好きな子が気になって授業が耳に入らない速水君、

が書きたかったのもありますが、林檎キャラメルは数話後に少し関係してきます。

伏線というほどではありませんが。


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