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「お約束」な少女漫画  作者: 相田 渚
第二章 動き始めた物語
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マドンナ

きっかけは、百瀬と現在一番仲が良い女子生徒、遠藤美奈子の言葉だった。


「亜依ちゃん、転校そうそうラッキーだったね」

「ラッキー?」


遠藤の言葉に百瀬は首を傾げた。


転校して暫く経ったためか、初日のような怒涛の質問攻めは今ではない。

そのため、休憩時間はもっぱら仲の良い遠藤と過ごしている。

お昼時間も彼女とのんびりお喋りしながら食べるのが日常となっていた。


「だって王崎君の隣の席だよ?佐古一校中の女子の憧れの席なんだから」

「これは、たまたま…。前に話した通り、転校初日の朝にぶつかった人がまさか同じクラスの人だと思わなくって、ビックリして声を挙げたら、先生が勝手に王崎君の隣の席にって…」

「あはははは!食パン咥えてぶつかったってやつ!本当にそんな出会い方する人いると思わなかったよ~」

「もう、あんまり笑わないでよ!普段はそんなことしないもん!」


遠慮なく笑う友人に、百瀬は膨れっ面をした。


自分でも何故そうまでして朝食を食べようと思ったのか今でもわからない。

一食ぐらい抜けばよかった。というより、寝坊なんてしなければよかった。そうすればこうしてからかわれることもなかったのに。

でも遅れてなかったら、王崎君に助けてもらうことも、隣の席になることもなかったんだよね。

そう考えると、寝坊してよかったんだ。


窓際で数人の男子生徒達とお昼ご飯を食べている王崎を盗み見て、百瀬は顔を赤らめた。


何度見ても王子様みたいにかっこいいなぁ。

性格も優しいし、どんな教科もさらっとこなしちゃうし。

毎朝挨拶する時の「おはよう」という声だって、ミルクチョコレートのように甘い。

それに隣にいると時々ふわっとベルガモットやジャスミンを足したようないい香りがする。


ドキドキせずにはいられない。


「亜依ちゃん赤くなってる」

「えっ、な、何でだろ。暑いからかな。えへへ」


ぱたぱたと手を扇ぎ半笑いで誤魔化してみるも、遠藤には通じなかった。


「王崎君のこと考えたでしょ~。わかり易いんだから」

「か、考えてないよっ」

「さては好きになっちゃったな?」

「だから違うもんっ」


必死に否定しても、そうかそうかと遠藤は取り合ってくれない。


確かに王崎君のことを考えただけでドキドキしちゃうけど。

今も心臓ばくばくしてなかなか話せないけど。

「おはよう」って「またね」って言われるだけでわーってテンションあがってぐるぐるしちゃうけど。


「…好き、なのかなぁ」


扇いでいた手をおろし、ぽつりと小さな声を漏らすと、遠藤は唐揚げを飲み込みながら言った。


「私から見た亜依ちゃんは、好きに見えるよ。まだ短い付き合いだけど、亜依ちゃん思ってること全部態度に出るタイプだし」

「態度に出てる…?」

「うん。彼のこと好き好きオーラ全開」


それは、何と言うか、まずいのでは。恥ずかしい。


そう思った百瀬の心すら顔に出ていたのか、遠藤は「大丈夫だって」と言葉を続けた。


「佐古一高校じゃ、程度に差はあれど彼のこと好きな女子ばっかりだから、変に目立ったりしてないよ。私だってファンとして好きだし。それに彼だって気にしてないと思う」


それなら一安心だ。


胸を撫でおろした百瀬は、卵焼きをぱくりと食べた。

母親が早起きして作ってくれたお弁当は今日も美味しい。

美味しいごはんを食べ、自然とにこにこと笑っていると、遠藤に頭を撫でられた。昔からよく人に頭を撫でられるため特に不思議には思わないが、遠藤が何か言いたげな表情をしているため目をパチパチと瞬かせた。


「自覚させといてなんなんだけど…。彼には、宮本さんがいるから…その、あんまりのめりこまない方がいいよ」

「宮本さんって…学級委員長の」


転校初日に「わからないことがあったらなんでも聞いてね」って挨拶してくれた人だ。

あまりに綺麗な顔をしているものだから、その時ぼけっと見蕩れてしまってなんて返事したか忘れてしまった。


「同じ学級委員だし、この学校じゃ一番王崎君と親しいんじゃないかな。儚げで綺麗で、勉強も運動もできて、優しくて、王崎君の隣にいると絵になるっていうか…」


遠藤が視線を教室の後ろへ移すものだから、百瀬もつられて視線を動かす。


窓際の一番後ろの席には二人の女子生徒がいる。

件の宮本茉莉花と、彼女の友人の今井結衣だ。


絹のようなつやつやと美しい髪が、今は耳にかけられている。

ほっそりとした透き通るように白い手でお箸を持ち、小さな口へ運んでいた。

時折、友人の言葉に涼やかな笑みを浮かべている。


「はあ~、何度見ても綺麗な人だね~」


思わずため息をもらした。感嘆と暗然とした気持ちが同時に流れ出る。

百瀬は自分のふわふわとしたクリーム色の髪を一房掴んだ。


身体だってあんなに華奢じゃないし、自分じゃあんな涼しげな顔できない。

手をバタバタと振るようなことだってきっとしないのだろう。

何もかもが自分とは大違いだ。


「まぁ、今のところ、宮本さんが王崎君を好きって話きいたことないし、逆に王崎君が宮本さんを好きって話しもきいたことないから、希望が全くないってわけじゃないよ」


百瀬の様子を見て、遠藤が取り繕ったように言う。

「そうなんだ」と答えた声は、いつもより元気が篭っていなかった。

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