08 班分け
----
夕暮れ時になって、ようやく満足のいく拠点が出来上がった。一日いっぱい働いてクタクタになった団員達が、重い体にムチを打ってテントの設営を進めている。すでに中央には薪が運び込まれ、夜営の準備も万端だ。すぐ隣では、料理の心得のあるものが夕食の準備を始めていた。
太陽は西の海へゆっくりと落ちていった。水面に浮かぶ船が大きな影絵となって揺らめく。大きな焚き火の周りを囲む開拓団の面々。その表情は一様に心地よい疲れと、心からの安堵が読み取れた。一ヵ月前に港を出向して以来、今日の今日まで死と隣り合わせだったのだから無理もない。現に、航海中に息を引き取ったものもいるのだ。そして昨日のモンスター。あれは警戒を怠った俺のミスだ。幸い怪我人は出なかったものの、もしものことを考えるとぞっとする。みんなの命を預かる立場として、俺がしっかりと気を配る必要があるだろう。そびえ立つ木柵とキャンプファイヤーの柔らかな光が、俺たちを包み込んでいた。
「このまま、ここで暮らすというのは、どうだろうな。」
「悪くはありませんが…、失うものが多すぎますね。」
ぼんやりと焚き火を見つめる俺とトーマ。
それは、幼稚な夢だった。毎日、あちこちに探索にでかけ、日が暮れたらぐっすりと眠る。誰の目をはばかることもなく、しがらみも一切捨ててのんびりとキャンプをして暮らしていくのだ。
口には出したが、無理なことは百も承知だ。ここにいるのはみんな弱みを握られている奴ばかり。無茶をすれば人質となっている肉親や、領地に残してきた全てを失う。離れているとはいえ、いつかは国王直々の第二陣が派遣されて討伐されるだろう。
だから、これはほんの一時の夢なのだ。ふとした瞬間に掻き消えてしまう幻想だ。
次第に深まる夜の帳に、俺はまどろんでいた。
----
翌日。朝礼を終えて仕事の振り分けを指示する。俺は昨日の働きぶりを振り返って、一つ試してみることにした。
「今日から新しい編成で作業をしてもらう。この開拓期間中は出身地、身分によらず、適性のみで班分けをする。」
昨日の料理風景を見て考えたことだが、もともとの領地ごとに組み分けすると、料理できるやつが木柵組に行ったり、荷物運び組に混じったりして、折角の人材が無駄になってしまうのだ。どうせ俺たちは領地を剥がされた一般人みたいなもんだ。今のうちに技能ごとに組み替えてもそうそう命令系統に混乱は起きないだろう。というより、選り好みしてる余裕はうちにはない。
「第1班は探索だ。今日から本格的に実地調査を開始する。主なメンバーはフォート家臣団、オニール家臣団のうち、侵攻に長けた半数を選抜する。併せて若干の荷物運びと救護係も募集する。指揮は俺が取る。」
ベーンベルトの武門を代表する両家の精鋭チームだ。こちらでモンスターを蹴散らしている間に、ペンネに調査を進めてもらおう。地図を作成して早いところ開拓の方向性を決めていきたいところだ。
「第2班は周辺警戒。先ほどの選抜から漏れた奴はここだ。モンスターの脅威が完全に取り除かれたわけではない。心してかかってくれ。班長はセスタだ。」
防壁が出来ても万が一ということもあるし、キャンプから一歩も出ずに活動するのは不可能だ。これから発表する他の班のボディガードとして頑張ってもらう。セスタのことだ、深追いして失敗することはないだろう。
「第3班は陣地構築。昨日で体裁は整ったが、いつまでもテントというわけにもいかない。残りの資材を使って小屋や作業場を整えて欲しい。職人、大工、それ以外でも力の強い奴は手伝ってくれ。班長はトーマ。」
個人的には、今一番頑張って欲しい班。生活環境の向上!…もあるが、インフラが整わないと何も出来ずにジリ貧となるのは目に見えている。いつまでも本国から資材を運んでもらうわけにはいかないしな。
「第4班は炊事係。2班と協調して、安全が確保された地域で食料調達、料理並びに火の管理だ。毒物が混じらないよう、猟師や薬師はこの班に編入、指導を頼む。班長はドルマンに任せる。」
元気の源、食事。もはやビスケット生活に戻ろうとは思わない。そういえば帰りのビスケット無いと船が出せないな。一応各種野菜の種も持ってきてるが、収穫出来なかったらヤバイ。ドルマンに押し付けt 、よくよく頼み込んでおこう。死力を尽くせドルマン!
「特に指示のなかったものは好きなところに志願しろ。こちらで人数を見て調節する。では別れろ。」
互いに顔を見合わせながら少しづつ移動を始める団員。その間に、こちらは家臣団のメンバー発表だ。他の領主連中は渋っていたが、国内指折りの領主である俺とセスタに言い含められて、ようやくそれぞれの班に分かれていった。後で話通さないとなぁ…。味方は多いに越したことはない。30分の調整と説得の後、広場の中央には4班が勢揃いし整列した。
「班分けは暫定的なものだ。開拓の進行の様子を見て変更もありうる。だが、まずは今の班でその実力を見せて欲しい。朝のミーティングはここまで。後は各班長の指示に従ってくれ。解散!あ、1班はこのまま残るように!」
うーむ、疲れた。このために朝はやくから頭を捻っていたのだ。だが、その甲斐あってもはや俺を縛るものは無い!
俺は思わずガッツポーズをした!
「探検だーッ!」
「昨日の報告書が出てないのだが?」
いつの間にか背後に迫っていたアルマ。俺の出鼻は完全にくじかれた。
----