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06 前哨地

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 目下、俺達がやるべきは前哨地の構築だ。余裕があれば近隣の調査にも乗り出したいが、安全が確保されていない現状は非常にマズイ。移民船から資材を運び出させた俺は、早速作業に取り掛かった。


 まず必要なのは防壁だ。昨日の調査で、この近辺にもモンスターの巣があることがわかった。幸い虎のような強力なのはあれっきりだったが、たとえ小さなモンスターであっても、非戦闘員は成す術なく蹂躙されるに違いない。安心して活動できる場所の確保は急務だ。ヴィーツに奪われるとは言え、ここで死んでしまったら元も子もない。


「木柵の設置状況はどうだ?」

「一応船に積んでた分は終わりました。ですが北側の分が足りないのでそこら辺の木を杭にして急場をしのいでます。」


 本来ならばレンガ造りの強固な防壁にしたいのだが、船旅では荷物になるし、ここにレンガ工房を作るにも時間がかかる。泣く泣く次善策の木柵の登場というわけだ。大型のモンスターが来たら持ちこたえられないだろうが、中型までなら十分な強度を持っている。


 切ってすぐの丸太は乾燥させないと木柵に加工できないので丸太のままで地面に串刺しにしておいた。意外に侵入を食い止められるので急場では重宝する。とはいえ、後で本格的な防壁づくりもしなきゃな…。


「食料調達班の様子は?」

「うちの兵士と、あとはオニールの連中に任せています。一時間もすれば戻ってくるかと。」


 トーマの言ったオニールの連中というのは、セスタが自分の領地からわざわざ連れてきた家臣団だ。セスタの治めるドラガ領は、その工業力を活かして国内中の武器生産を担っていた。ベーンベルトは毎日のように全土でモンスターと戦っているわけで、オニール家の影響力もまた、全土に及ぶ。そこら辺も、ヴィーツに降ろされた理由の一つだろう。


 オニール兵は当然ながら一番良い装備で身を固めているので、少数精鋭な今回の開拓にはピッタリというわけだ。セスタの指揮もあいまって、食料調達班の安全は万全だと言っていいだろう。ま、うちの家臣団も負けちゃいないが。


「なんとか日が暮れるまでには引っ越しを終えるぞ。また船に逆戻りじゃ士気に係る…。」

「わかりましたから報告書書いててくださいね。筆が遅いんだからもう。」


 皆が頑張っている中、俺はといえば運び込まれたデスクに向かい格闘中である。昨日の夜の報告書を見たトーマから叱責されて書き直しが決定。アルマは苦笑いしながらもこれを了承。現在熱い日差しの中、トーマの監修のもと、ペンを走らせているのだ。


「ラダム団長、アンタ本当に政務向いてないのな…。」


 哀れみをかけてくるドルマン。ぐぬぬ。どうしてこうなった。


 とにかくだ。早いとこ書類整理を終えよう。でなければ何時までたっても冒険に乗り出せない。

 

 俺は頭を何度もひねりながら書類を積み上げていった。


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 太陽が真上に登った頃、ようやく開拓団は一息ついていた。


 セスタ率いる食料調達班がもたらした果物、野草、そして魚は、長い船旅に疲れ果てていた開拓団に潤いをもたらす。川で体を洗ったという調達班の自慢に、留守番していた俺達は羨望の眼差しを向けることになった。


「ここらの立地はどうだった?」

「良好よ。そこまで険しい道もなかったし、本格的な拠点としてもいいんじゃないかしら。」


 ふむ、どうやら肥沃な土地だというのは本当らしい。先行きが明るくて結構なことだ。


「詳しくは専門家の意見を聞いて頂戴。ペンネ、ペンネ!」


 ひと通り報告が終わったセスタは平民の一人を呼び出す。


 しばらく間を置いて、小柄な女が駆け足でやって来た。こいつが専門家か?


「ど~も。ペンネ・トービスっていいます!以後お見知り置きを。」


 活発で社交的な感じの娘だ。学者連中って言えばもっと引きこもりっぽい感じじゃないのか?


「ペンネはこう見えて天才よ。自然に関する知識が豊富で、特に地質や植生に詳しいわ。ここでやっていくのにピッタリだと思わない?」

「確かに。しかし体力的にきつくないか?」


 思わず訝しんでしまう俺。いくら活発とはいえ華奢な体では辛いはず…。


「私なら大丈夫です!昔からフィールドワーク一本でやってますから!」

「ペンネはね、本国じゃ殆ど家を留守にして山に登ってたの。そこらの連中よりはよっぽどタフよ。」

「です!」

「お、おう。まぁそれならいいんだ。」


 あまりの勢いに少々たじろぎつつも、紹介は終わった。ペンネはついで報告に入る。


「ココらへんの地質は大変良好です。また、川の向きや氾濫原の様子からしても治水は楽そうですね。氾濫する時はいつも同じ方向に流れているみたいですから、キャンプが流されるってことは無さそうです。」


 へぇ、その土地を一目見ただけで洪水まで予測できるのか。


「控えめに言って…。すごいな。」

「でしょ?連れてきた甲斐があったわ。」


 昨日までは見通しの悪さからやや悲観的になっていたが、今日の話を聞く限り、土地も、そして仲間も、非常に恵まれているようだ。そうだな。不平不満を言ってても始まらない。新大陸開拓、やってやろうじゃないか!


「ところで団長、あなた、昼食は取らなくていいの?」

「…は?」

「みんなもう食べ終わって片付けに入ってるわよ。」

「…え?」


 数秒固まった後、俺は一目散にダッシュした!


「なんで誰も呼びに来ねぇんだよ!っていうか残しておいてくれよ!?」


 ええい、なんて仲間だ!前言を撤回する!


 結局、気の利くロブが分けておいてくれた川魚の姿焼きにありつけた俺は、ようやく落ち着きを取り戻したのだった。


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