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05 没落領主

 筆が乗ったので続いて5話目も。

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 フォート家はかつて討伐隊のメンバーだったフォートを祖先とする一族である。フォート家だけでなく、領主と呼ばれる家系は皆、建国時の祖先の名前を苗字として採用している。建国宣言がなされた時、始祖フォートは手勢を引き連れて川沿いに進軍した。飲水の確保、水運を狙ってのこと…ではなかった。ただ単に道に迷わない、ただそれだけの理由であった。


 とはいえ、その道程は厳しい物だった。水を確保できるというのは裏を返せば水を求めてモンスターが集まるということでもある。また、湿地に足を取られて思うように進めない。進軍は困難を極めたが、フォートは尊敬するベーンに倣い、ひたすらにモンスターを倒し続けた。フォートが倒れ、子孫の代になってもそれは続いた。そして、おおよそ10世代にも渡る遠征により、ついに一族は海へ至ったのである。


                 ~フォート家所蔵、繁栄の歴史より~


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 うちの家系は脳筋である。間違いない。25代目ぐらいにあたる俺も自分の家の歴史を聞かされた時はアホかと思った。わざわざ敵のわんさか居るルートを突破するとか正気の沙汰じゃない。しかしまぁ、そのおかげで現在の地位があるんだから人生というのはわからない。脳筋バンザイ!…何が言いたいかというとだ。


 俺も脳筋だ。


「後は任せた。」

「ダメです。」


 二日目の朝、テーブルを囲んで朝食をとる。トーマは俺の提案を一蹴すると説教を始めた。


「だいたいですね、領主ともあろう人がなんで開墾のいろはも知らないんですか…。」

「そうは言ってもな、俺は戦うことと家来の管理が専門だし…。」


 脳筋な俺は武芸を磨くことで精一杯で、これまで領地経営をトーマに任せていた。トーマの家、つまりデキンス家は武力一辺倒なフォート家家臣団にあって、唯一と言っていい文官系の名門である。歴史書によれば、うちの祖先が陸路で進軍していた時に、筏で川下ればいいじゃんと気づいた奴がデキンス家の始まりらしい。以来、代々知恵袋として重宝されているのである。


 で、俺もご先祖様達に倣い、開拓地の経営をトーマに任せて冒険にでも出ようかと思っていたのだが…。


「それは理由のうちに入りません!他の領主の方々は日々こなしておられるのですよ!」

「でも、そういうのはエルトンみたいなとこぐらいで…。」

「いやいやいや、うちほどぐうたらな領主はいませんって。」


 ぐっ、こいつズケズケと…!正論だけに返す言葉がない…。

 

 しばらく唸っていた俺は素晴らしいアイディアを思いついた。

 何?他の領主たちは皆自分で開拓している?発送を逆転するんだ。すなわち、


「他の領主を使おう。」

「ボクの話を聞いていたんですか~ッ!」


 喚いているトーマを尻目に他のテーブルまで歩いて行く。食堂には俺達リーダー組と、平民組、船員組、兵士組の他に、とあるグループがたむろっていた。用があるのは最後のグループ、すなわち没落領主の一団である。


「体調はどうだ?」

「ああ、団長、元気すぎて吐きそうさ。上陸は何時だい?」


 やや軽薄な印象を与えるこの男、ドルマン・マロウズはマロウズ家の三男坊だ。モルトがよこした処刑寸前の領主の家系のひとつである。たしかこいつんとこの領地は果樹園の作物と、そこから作られる酒で有名だったはずだ。コイツ自身はわりと放蕩息子っぽい感じではあるんだが…。


「元気なら結構。一つ頼みたいことがあるんだが」

「こっちに領地経営任せられても困るよ。ただでさえ監察官ににらまれてるのに余計な仕事はしたくない。」


 むむ、先手を打たれた。さっきの会話聞かれてたかな?しかしここで引き下がる俺ではない!


「そんなことを言っていいのか?団長は俺だぞ。」

「団長だからっつってもねぇ…。」


 おおよそ乗り気とはかけ離れた態度のドルマン。仕方ないな。俺はアルマが見てない隙を見計らってドルマンに耳打ちした。


「何、報酬はちゃんと払う。それに断ればお前を最前線に連れて行くからな。」

「いっ?」


 途端に表情を変えて余裕な態度を崩す。こいつもまた、文官よりで腕っ節はそれほど良くない。さすがにトーマと比べるのは失礼だが。誰だって命の危険がある戦闘任務は極力避けたいのだろう。人目をはばかりながら小さく舌打ちすると、ドルマンは席を立った。


「いいか…。絶対当てにするなよ!絶対だからな!」

「おう、トーマんとこに行っておいてくれ。あとは流れでな~。」


 とりあえず一人ゲット。ヒラヒラと手を振りながら次のターゲットを探す。アルマは具合がわるいのか甲板に行ってしまっている。今がチャンスだ!


「そっちはどうだセスタ。一口のらない?」

「なんていうか、思ったよりあなたも人が悪いのね。」


 横で紅茶(貴重品だ)を飲んでる女性に話しかけると、呆れたような表情で返された。


 彼女はセスタ・オニール。北西部の領主の跡取りだ。オニール家はうちとは反対に川をどんどん登って行き、山岳地帯をテリトリーとしている。鉱山を複数所有していて、領内には職人も多い。最も、今回の粛清で皆差し押さえられてしまったようだが…。


「まぁなんだ。領主同士お互い助けあいってことでひとつ。」

「もう、アルマに知られたら怖いわよ?」


 凛とした顔立ちと性格が持ち味だ。あまり彼女の前ではふざけないほうがいいかもしれない。


「実を言うとな、指揮官の数も少々足りない。俺が出張ることもできるんだがその間キャンプが無防備になっちまう。」

「それで私?」

「そういうこと。結構やり手だって聞いたし。」


 セスタ自体は女であるがゆえに、どうしても個人の戦闘力は男連中にはかなわない。それを補って余りあるのが彼女の指揮能力である。祖先の生い立ちからして似たもの同士なフォート家同様、オニール家もまた武門の一派である。小さい頃から見よう見まねで練習したらしい。


「まぁ、留守番ぐらいなら。このままお荷物にはなりたくないもの。」

「ありがとう。またあとで打ち合わせしよう。アルマも帰ってきたみたいだ。」


 ギシギシという廊下の板材が軋む音を聞いて、俺はその場を離れることにした。


 まずは二人。二日目の開拓が始まった。


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