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シャワーを浴び終えた僕が寒がって布団にもぐっていると、渋澤さんは呆れて、部屋にヒーターをいれてくれた。
「…風邪でも召されましたかねえ。」
「…渋澤さん、何か軽い食べ物があったら欲しいんだけど。…昼、ちょっと早くくっちゃったから。」
先輩が言うと、澁澤さんは時計を見た。
「…わかりました。家内に言って、何か、サンドウィッチでも。」
「あ~、いや、なんか保存食の菓子かなんかでいいよ。」
「でもそれじゃ夕飯までもちませんよ?」
「いや、いいんだ。…できれば甘いものがいい。」
「…そうですか。わかりました。じゃ、紅茶かなんかとお持ちしましょう。」
「すみません。」
澁澤さんがいなくなると、先輩はベッドにちかよってきて、僕のおでこにさわった。
「…だいぶ寒い?」
「…あ、いえ、大丈夫です。…起きます。」
「…いいよ、部屋があったまるまで入ってな。…茶が来たら、飲もう。少しはましになるさ。」
先輩はそういって、愛猫にいつもしているのと同じ手付きで、僕の頭やら顔やらを撫でた。
…先輩は僕の寒さに気がついてる…。
なんとなくそう感じた。
しばらくして、澁澤婦人が、テーブルにお茶の用意を整えてくれた。
「尾藤さん、大丈夫ですか。お風邪でも召されたようだと主人が…」
「あ、大丈夫です。平気です。」
僕は慌てて布団から抜け出した。
夫人は心配して、僕に半纏を着せた。
「…半纏ってあったかいですよね。」
「そうでしょう?ずっと着ていてよろしいのですよ。」
「はい、ありがとうございます。」
ラム酒の染みたフルーツケーキと、香りのいい紅茶を、先輩と2人でいただいた。
先輩はテレビをつけた。
…ザ-っとノイズが流れた。
「…ちっ、おちてやがる。…雨だから切れたな。」
「外」では、天候が悪くなると途端に電波が悪くなるのだそうだ。
諦めてテレビを切った。
「…猫、いないんですか、ここんち。」
「…猫好きなのはおふくろだからな。親父は猫はかわねえよ。」
「…そうですか。少し、寂しいですね。」
「…そうだな。」
いつもなら日がな一日猫と遊んで過ごす2人だ。
妙に手持ち無沙汰だった。
そのときなにか轟音が響いた。
僕はびっくりして窓にかけよった。
すると先輩が言った。
「今の、雷だよ。…初めて聞いた?」
「雷ですか…あれが…」
言い終わらないうちに閃光が視界を反転させた。…まもなく轟音。
雨は激しくなっていった。