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すでに日がくれて暗くなった駅前に、管理人の澁澤さんという初老の男の人が迎えに来てくれていた。
「外」では出歩くのは夜が普通だ。きれいな街灯がともっていて、買い物客で駅前は賑やかだった。
先輩は丁寧に挨拶し、僕を友人として澁澤さんに紹介した。
澁澤さんは歓迎してくれた。車で来ているので乗るようにと言った。
僕らは車に乗り、久鹿家の別荘へ向かった。
到着してみると、暗くてよく見えなかったが、どうやら随分大きな屋敷らしかった。
先輩の住んでいる例の日本家屋より、だいぶ広い。
中に入ると、内装はアンティークな家具で統一されて、ちょっとした洋館の風情だった。
窓は一応全部紫外線カットにしてあるので、朝になっても心配しなくていいと澁澤さんは言った。
「それにこのへんは周りが森だからねえ。森は紫外線を随分はじくんですよ。…ところで日曜日までおいででしょう?陽介さん。昼飯まで食べておいきになったら。」
「あ、いや。日曜の午前には出ますよ。月曜は学校だし、日曜の夜に買いたいものもあるから。」
「そうですか。じゃあ日曜の朝食まで御用意いたしましょう。」
「有難うございます。」
「ゆっくりなさっていって下さい。」
「ええ、そうします。」
「夕飯は7時頃にはたべられますよ。用意ができたらお呼びいたしますから。」
「お願いします。」
「…尾藤さんもくつろいで下さい。」
そう声をかけてくれる澁澤さんに、僕はうなづいた。
「…有難うございます。」
部屋、どちらを使われますか、と澁澤さんがたずねると、先輩が「二階がいいかな」と言って荷物を拾い上げた。
「御一緒のお部屋でよろしいんですか。」
「ああ。」
先輩はきっぱりそう答えて、僕についてくるよう促した。僕は荷物を肩から下げて、小さな箱を大切にかかえて、階段をのぼった。
部屋はホテルのツインルームみたいに、きれいなベッドが二つならんでいた。お茶をしながらカードが楽しめるほどの大きさの円テーブルのセット、化粧台、それにテレビもあった。窓には分厚いカーテンがかかっている。
「トイレは廊下でて一番奥。ここのドアはクロゼットじゃなくて、シャワー室な。」
「わっ…すごいや、個室にシャワー付きなんだ…。」
「ああ。クロゼットはこっち。…コート脱ぎな。かけるから。」
先輩はそういいながら自分の紫外線遮光コートを脱ぎ、ハンガーにかけて収納している。僕は箱をテーブルに置き、コートを脱いだ。
「…そっちおいとけば。」
先輩はコートを受け取りながら、ちょっと化粧台のほうをさした。…僕は黙って、きれいな布で包んだ丈夫な紙箱をそちらに移した。
「…寒かったらここにローブ入ってるから。…いや、お好みで、浴衣と半纏でもいいけど。」
「はい、大丈夫です。」
部屋の中の温度はちょうどよかった。
「…なんか、親父が商用で使ってる家なんだよ。…ホテル代わりってーか。」
「ああ…それで…」
あいまいな先輩の説明に僕は曖昧に応じ…一通り到着作業が終わると、とすっ…とベッドに腰掛けた。
旧式のゼンマイ時計が動く、コチコチという音がした。
先輩はテレビをつけて、テーブルのところの椅子に座った。
少ししたところで、澁澤さんの奥さんが、柔らかい餅菓子と緑色のお茶を持って来てくれた。