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小さな箱を持って、僕はエリアを出る電車に乗った。
そんなにヤバいってほどでもないさ…と、先輩は言った。
紫外線が強くて人間が早死にするっていうのは統計的にその通りだが、みんながみんなドームやエリアに入りたいわけじゃないからな…と先輩は言う。
僕は聞くともなく先輩の声に耳を傾けて…。心の中は、もったりと冷たかった。
手の中の箱は静かだ。
先輩に寒さがうつるのではないかと思い、いつもならべたべたよりかかったりするのに、僕は隣に座った先輩に触れないように、列車のシートに背筋を伸ばして座ったままだった。
エリアの境界地区で、パスポートをチェックされた。
移入してきて一年足らずだったためか、検査官にあれこれと尋ねられた。
僕はそうした無礼な質問にいちいち丁寧に答え…少しして、合格できた。
先輩の父親が所有しているという別荘は小さな山の山すその緑の中にあり、その小山を越えると、海なのだそうだ。
列車は紫外線反射型の透明な強化樹脂でてきており、シートについていると、まるで自分が光の中に座っているかのようだった。
車掌が消えて少しして、何人かの違法滞在者が鉄道公安官につれられて、横の通路を通っていった。それまで先輩がぽつぽつ喋っていてくれたのだが、その光景を見送った後、言葉が途切れた。
…途切れてみると、先輩の声がとても心地よかったことに気がついた。
苦しい。何か喋ってほしかった。
「透明の車体…案外落ち着きますね。」
僕は無理矢理そう喋った。
すると先輩はあいづちをうった。
「…うん、意外といいな。暑くも寒くもない。…明るいな。」
「…紫外線は入って来てないんでしょう?…いいですね、なんかお日さまって感じ…。健康…。」
外の景色が後ろへ飛んでゆくのを眺めてみる。
…胸の底が冷たい。
やがて夕暮れが訪れてあたりはオレンジ色に染まり…その天上の炎の中を、列車は突き抜け…そして…。