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Trydent Fantasia  作者: マメカ
8章、竜の谷
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「どうやら瘴気を根本的に浄化しないとキリがないようね―――あの馬鹿みたいな魔法、なんだかいつの間にか無くなってるみたいだけど」

「浄化って、具体的にはどうすればいいんですか」

「そうね。光魔法もいいんだけど、手っ取り早く活性化魔法力をぶつけちゃいましょうか」

「活性化魔法力?」


 翔太がフィーを振り返るが、その隙をつくように、あっという間に巨大な翼竜の前足に掬われた。アリアごと。


「うわ!? なんだこいつ!?」

「だいじょうぶだよ、翔太。この子は味方だよ」

「いやわかってるけど……」


 滞空していた翼竜は力強く翼を動かし、飛翔する。南の方向へ。

 しばらく飛ぶと地上に、大量の竜に囲まれている仲間の姿が見えた。


 なるほど。瘴気を集めていた魔法は消えたが、集められた瘴気はまだまだたくさんある。

 このままだと、この地に生息する竜族への影響は消えないだろう。フィーが言うように、瘴気そのものをを消さない限り、戦闘は終わらないようだ。


「最悪だな。もう一回あれ撃つか」

「ううん」

「そうか?」


 アリアにはどうやら考えがあるらしい。


「あのね―――この先に竜の谷の封印があるの。トライデントの」

「そういえばそんなところまで来ていたわね」


 フィーはそういって、ハッとした。


「まさかアリアさん、」


 アリアは頷く。


「多分、出来ると思います。あそこなら竜の谷の中心だし、地脈を通じて浄化の魔法が行き渡りやすいから」

「無茶よ! いくらあなたでもこの広範囲を浄化するなんて、そんな魔法力、」

「魔法力なら、あります―――翔太」


 なんだか申し訳なさそうに見上げてくるアリアに、気にするなという気持ちを込めて応える。


「こんなんで足りるか?」

「うん。十分だよ。ありがとう」


 アリアは翼竜を見上げて、


「先生はここに残ってください。ニナ達をお願いします」

「いいけれど、気を付けてね? 翔太、あなたも」

「はい」


 フィーが飛び降りるのを見送り、翼竜はくるりとUターンする。


 目指すのは真北。渓谷の幅はますます狭くなり、森が覆い繁る。緑が濃く、闇に沈んでいる。

 昼間の太陽の下に見れば、さぞ、美しい風景だったろう。

 谷の狭い空間をかいくぐるように飛翔する。風が冷たい。けれど、腕の中にアリアが居る。確かにここにいる。


 やがて視界が開けた―――その先に。


「あれか、トライデントってのは」

「うん」


 それは巨大な滝の目の前に建てられた、小さな神殿だった。組み上げられた石垣は苔に覆われ、円形に立つ三本の柱にはツタが巻き付いている。大きさは一戸建ての家くらいで、思っていたよりも小さい。

 しかし、その三本の柱の中心には巨大な、光り輝く石が浮いている。よく見るとその上下に、精巧な魔法陣の光がある。


「一緒だな、これと」

「うん」


 神殿に浮かぶ石は翔太がポケットから取り出した魔法石と同じもののようだ。

 翼竜はトライデントの目の前に着地し、丁寧に二人を地面に下ろした。


「ありがとう、ここまで連れてきてくれて」


 アリアが話しかけると、巨大な翼竜は地面ギリギリまで首を近づける。アリアも飛び上がり、その鼻先を撫でた。

 翼竜はどこか嬉しそうに紅の瞳を細めた。しばらくそうしていたが、やがて頭を上げ、翼を広げ、飛び立った。


 翔太は戻ってきたアリアに尋ねる。


「どうするんだ?」

「うん、ここで魔法を使うの」


 アリアは神殿に上っていく。翔太もそれに続くが、あまり近くに居てもやりにくいだろうと思い、少し離れた位置にいることにする。


 それにしても、不思議な場所だ。

 トライデント。大陸を守護する防御魔法陣の、一角。

 思ったよりも小さいが、近づいて間近で見てみると、その中心に置かれた石が、とんでもなく巨大に見える。直径十数メートルはあるだろう。

 

 石はよく見ると白ではなく七色に光を発しているのがわかる。

 その光を眺めていると、なんとなく、目が離せなくなる。

 なぜだろうか。前にも、ここに来たことがあるような……そんな気がする。




 ―――また会える、絶対に。

 そう言うと『彼女』は今にも泣きだしそうな顔で、涙を溜めた目で微笑む。

 約束。必ず守ると、約束した。

 恐らく、今すぐに叶うような願いではないだろう。

 それこそ何百年か、何千年か、その後になるかもしれない。

 けれど。どんなに時が経ったとしても、

 この想いを忘れることは決して無いと誓おう。




 翔太は眉をひそめ、こめかみを抑えた。まるで他人の思考が自分の中に流れ込んできたような印象だった。

 けれどそれは不快ではなく、むしろその感情や思考がまるで自分の物でもあるかのような錯覚さえ覚える。


 翔太は無意識にそのトライデントの光に向かって手を伸ばし―――




《―――Et raze lexshmial flay…―――》



 不意に。澄んだ響きが、通り抜けた。

 まるで引き戻されたかのように我に還った翔太は、アリアのほうへ振り返る。


 アリアは、歌っていた。

 

 杖だった魔法石はもとの形に戻り、浮かびながら柔らかく光を放っている。



《―――Yua fior eclareis lu chale feimmel et gram…―――》



 音が、アリアの歌声に導かれるように響く。その旋律に共鳴するかのように、魔法石が弱く、強く、瞬く。

 アリアを中心にして七色の光の粒子が舞い上がる。

 

 音色は、幾つもの波紋となり、世界に広がって行き、透明な輝きを残し、消えてゆく。



《―――Et raitma asterlia…―――》



「!」


 振り返ると、沈黙を湛えていたトライデントの魔法石が、アリアの歌にあわせて明滅しているのに気が付いた。



《―――Et vill cevetal wia espera lu ra…―――》



 そして変化は突然現れた。

 伸びやかな、長いロングトーンの響きが空気を震わせると、突如、トライデントの魔法石が強い光を放った。


 まぶしくて思わず目を覆う。しかし、ふと目の前に近づいた気配に少しだけ目を開ける。

 アリアが穏やかな微笑みを浮かべて、手を差し伸べている。





「力を、貸してくれる? “Ia entille chegrit(私の優しい騎士)”」

「……勿論」


 翔太は微笑み返し、その手を取った。






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