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Trydent Fantasia  作者: マメカ
7章、魔導隊
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21/36


「青空教室とか要らないんですけど」

「いいから聞きなさい? 現代魔法において基礎魔法式とは、光、闇、炎、水、雷、風、地、霊、無。九つの属性と、物理現象への干渉式。物理干渉式はともかく、属性魔法のほうは八つしかないんだから覚えられるわね? はい、言ってみて」

「……光はアスタール。闇はダルド。炎はフラル。水はアロル。雷はエクール。風はフィーラ。地はグラン。霊はスピリト」

「よくできました」


 というかさっきの補習でフィーから詰め込まれた知識だ。

 魔法がこれほどまでに暗記尽くめだとは。これじゃあ日本史世界史をやっていたほうがはるかにマシだ、と理系脳の頭を抱える翔太である。


「個人それぞれには得意な、というか相性のいい属性があるの。アリアさんは風が得意なのよね」

「はい。風と光魔法が得意です」


 なるほど。だからいつも風で空を飛んでるというわけだ。

 ニナがそれを聞いてちなみに、と切り出した。


「私は水と闇属性が得意ですわ。ジャンは地属性ですわね」

「翔太は何が得意なんだろ?」

「光じゃね? 一昨日教えたときすぐ出来てたしな」

「いや、違うと思います」


 割り込んだのは、作業中のレオンだった。弱気な態度は無く、真剣な表情で手際よく端末を操作しながら次々に分析画面を表示している。どうやら魔法の話になると夢中になるのか、変化の乏しい表情ながら、どこか楽しげでさえある。


「先輩の魔法力は、珍しく属性面での特異性がありません。けれどあえて言うなら炎に親和性が高いです。次点は光」

「炎と光か。アリアと相性抜群だな」


 ジャンが言いながらニヤニヤして、アリアは真っ赤になり、ジャンはニナにゲンコツを食らった。

 レオンはやはりどこか警戒するようにしながらも、翔太に剣を渡してくれる。


「出来ました。先輩専用の魔法武器です。違和感とか、おかしいところがありましたら、いつでも言ってください」

「あぁ、ありがとう」


 握ると、先ほどとは違って手に馴染む感じがして驚いた。重さも全く気にならない。


「すごいな。調整ってこんなに違うもんなんだな」

「喜びなさい。その剣はね、ノーレス山脈の地下鉱脈にしかない希少金属で打ってあるのよ。しかも回路に使ってる魔法力共鳴鉱石は最上級クラスの処理能力があるんだから」

「へえ……」

「それにね、剣は持ち主を選ぶの」


 ロザリーはフフン、と鼻で笑う。


「アンタがそのグラム・リベリオンを使いこなせるかどうかは、努力次第ってとこね。頑張りなさいよ」

「グラム・リベリオン?」


 厨二くさい。と思ったが、何も言わないでおく。


「そういう名前の剣なのよ、ソレ。普段はリベリオンって呼ばれてるけど」


 まあ、名前はともかく。本当にタダでもらっても良いのだろうか。なんだか申し訳なくなるが、ロザリーを見る限り珍しくご機嫌である。とてもではないが、高価そうだから受け取れないなんて言えない。なので、ここは大人しく頂戴しておくことにする。


「ありがとうな」


 誇らしげなロザリーとは打って変わって、レオンは浮かない表情だ。


「本当は先輩が自分の魔法石を持ってたらもっと使いやすくなるんですけど……」

「魔法石? これとか?」


 石といえばで連想してジャージのポケットから透明な石を取り出して見せると、わらわらと人が寄ってきた。アリアとレオン以外の全員である。


「急になんなんだよお前ら」

「すごい、初めて見たわ!」

「珍しいものをお持ちなんですね、翔太さんは!」


 フィーとニナの歓声、そして感心したようなその他の面子の顔を、翔太は怪訝そうに見る。


「そんなに珍しいのか? コレ」

「珍しいも何も! アルビニオンの国宝ですわ!!」


 国宝!? この石が?

 思わず振り返って見ると、アリアまで驚いている。


「アルフがお守りにくれたの……大神殿のお土産だったんだけど」

「でもこれ、どう見てもトライデントの一つ、竜の谷の守護魔法陣にある魔法力結晶から作った魔法石ですわ! こんなもの、普通に生きていたら滅多にお目にかかれませんわよ」


 ニナの力説に頷く面々。どうやらとんでもない価値のあるものらしい。

 翔太は背筋に嫌な汗をかきながらしばらく手にした透明な石を見つめ、


「返す」

「えっ!?」


 アリアに返そうとしたのだが、アリアは戸惑うばかりで受け取ろうとはしなかった。


「だってお土産だろ。つーかよく考えたらなんで俺が持ってんのかも分からねーよ」

「だって翔太、それ使って古代竜を召喚したでしょ! わ、わたしは失敗しちゃったけど……だからっ! それはもう翔太のなの!」

「意味分かんねえ……竜ってジークのことか? そもそもあいつは俺じゃなくて――」

「アルビニオンの王族以外が古代竜を召喚した?」 今、そう言ったの? 姫様」


 割り込んだのは意外なことにロザリーだった。


「今、そう言ったの? 姫様」


 言い合いになりかけていた翔太とアリアが我に還ると、どうやらその場にいる皆が――ジャンだけはとぼけた顔で首を傾げていたが――二人を信じられないといった様子で見つめている。

 ジャンは凍り付いた空気を全く意に介さず、場違いなほど間延びした声で尋ねた。


「なんかおかしいのか? 竜召喚って」

「ジャン! あなたはちょっと黙ってそこに座りなさい!」

「ええーっ!? なんで!!」

「いいですか? 竜は竜でも、古代竜、ですのよ。その存在は通常、一般の人間はおろか、魔法族にも知覚できない幻の生物なのですよ!? その幻獣を召喚できるのも、意思疎通が出来るのも、アルビニオン王家の成人のみ! ですわ!」

「そう」


 ニナの必死の解説に頷いたのはフィーだった。授業でも聞いたことがない落ち着いた声色で(それでもアニメ声なのは変わらなかったが)話しはじめる。


「王家の人間は成人すると儀式を行い、自分専用の守護幻獣として古代竜と契約を結ぶ。それが成人の儀のひとつ」

「ひとつ?」

「そ。二つあるはずよ。古代竜と、あとは守護騎士。魔法族から一生のお世話役の人間を選んで契約させる。アリアさんの場合、翔太がそうね。左腕に契約の輪があるでしょ?」


 視線が一気に翔太に集中した。翔太も自分の左腕に目を落とす。そういえば普段は意識してなかったが、この金色の腕輪はどうやっても外せないのだ。

 フィーは笑顔で言う。笑顔というか、黒い笑顔だが。


「よかったねぇー、年頃の女の子と四六時中一緒にいれて。でもアリアさんが許可を出さない限り一生そばを離れられないし、アリア姫に何かあったらその腕輪は有無を言わさず、翔太、キミの全魔力をアリア姫に転送するわー、生きるも死ぬも主とともに。それが守護騎士の運命。よかったねぇー、ご愁傷様ー」

「いや……まあ、それはいいんですけど」

「はぁ!?」


 翔太がフィーの黒い笑みに若干引きつつ、しかし頷くと、ロザリーが信じられないといった様子で指さしてきた。だから人を指さすな。


「やっぱあんた頭おかしいんじゃないの!? 命よ!? そんな簡単に賭けられるわけないでしょ!?」

「それより、アリアが失敗したって、どうして言えるんですか」

「無視!?」


 きゃんきゃん吠えるロザリーを、まあまあとなだめるレオン。

 フィーは黒い笑みをやめて、そうねえ、と首を傾げた。


「一応はね、私が受けた報告によると、アリア姫の召喚呪文は無効じゃなかった。つまり、魔法自体は成功してるのよ。だから一概には失敗とは言えないと思うんだけど……でも肝心の召喚魔法で古代竜は現れず、でしょ? かわりに出てきたのは魔法族の少年、と」


 しばらくの沈黙の後、ジャンがぽつりと言った。


「……さては翔太、お前が幻獣だったのか。真の姿を見せてみろ」

「ちげえよ人間だよ!」

「さてはヒトの皮をかぶった古代竜とやらか」

「本気で言ってんのか脳筋野郎」

「なんだ、違うのか! ははは!」

「ははは、じゃねえよ」


 フィーは珍しく真面目な顔をして、


「一つ聞くけど、翔太。あなたそのジークと会話できるのね?」

「え。あぁ、はい。ジーク……シークフリードとは、会話っつーか、向こうからはテレパシーに近い感じだけど。頭ん中に直接声が聞こえる感じ」

「いつでも、どこでも?」

「まあ、そうですね。正直夜中にトイレで話しかけられるとつらい」

「……そう。じゃあ間違いなく古代竜ね。それでそのジークフリードはおそらく、本来ならアリアさんと契約するはずだった……のかしらね? 多分だけど」

「マジで」


 翔太はとりあえず、本人に聞いてみることにした。


 初召喚(と言えるのかどうかも定かではないが)から数日経つが、何度かジークフリードと会話はしている。何度か試すうちに、翔太側からも声を出さずに、頭の中だけで会話のやりとりをできるようになっていた。


(ジーク、おいジーク!)

(どうした、我が(あるじ)

(お前、ほんとはアリアと契約するはずだったんだって?)

(………知らぬ)

(おい)

(我はそなたに喚ばれた。そなたを主とするためだ。それ以外のことは知らぬ)


「ジークのやつ、知らんって言ってんだけど」

「そうなの?」

「っていうか」


 ロザリーが訝しげに腕を組んだまま言う。


「そもそもあんた、本当にそのジークとやらを召喚したわけ? 一回ここでやってみなさいよ」

「ここでか? いや、いいけど」

「けど? 何なのよ」

「待ってな。交渉してみるから」


 用もないのに出てきてくれるかどうか。ジークはかなり面倒くさがりなのだ。


(ジーク。ちょっと出てきてくれよ)

(何故だ)

(聞いてたろ? 仲間に紹介するんだよ)


 言うと、なんだか嘆息された。しかし次の瞬間には魔法石が光を放ち、校庭に漆黒の竜が降り立っていた。


「お、サンキューなジーク。っとまあ、こんな感じでいいか――?」


 翔太が振り返ると、アリア以外の全員が呆然としてジークを見上げている。


「すごい……幻獣、古代竜。生まれて初めて見ましたわ……」

「すげえ。本物だ。なあ翔太、触っていい?」

「馬鹿ね、やめなさい!」

「いや、いいぞ」

「マジで!」


 駆け寄ったジャンが嬉しそうにジークによじ登っている。


「黒い竜だからクロね」

「いや、ジークフリードだって」

「だって古代竜って言ったって普通の竜族にしか見えないわよ」

(もう良いだろう)

「痛ぇ!?」


 ジークの背中に乗っていたジャンが、ジークが突然消えたので、尻から落下した。


「威厳っぽいものもあんまりないし」

「どんなイメージだよ古代竜って」

「まあ、普通の魔法生物である竜族でも、見たことがある人間なんてほとんどいないわけだし、ね? 普通に暮らしていたら竜の谷になんか、早々行くようなことにはならないと思うし。それよりも珍しい古代竜ならねえ」

「具体的にはどんなところなんすか? 竜の谷って」


 ジャンが尋ねると、フィーはキラリと目を光らせた。やはり教師なだけあって教えるのが好きなようだ。端末を操作して地図まで広げて講義しはじめた。


「竜の谷。これは通り名で、正式名称はクロノシス渓谷って場所なのよ。勿論、通り名の由来は竜族の住処だからね。世界の九割の種類の竜族がここに住んでると言われているわ。それとこの渓谷はかなり複雑でね、地域ごとに三つに区分けされているの。第一渓谷と第二渓谷の間にあるのがエンリル神殿。第二渓谷の先にあるのがトライデント、竜の谷の封印ね。で、一番竜族がたくさん生息しているのが谷の最深部、第三渓谷。ここに竜族の長と呼ばれている古代竜がいるのよ」

 フィーは考えるジェスチャーをしながら、


「アリアさんはその第三渓谷まで行かなきゃいけないわけなんだけど」

「え?」

「古代竜の長と話をしにいくのよ。成人の儀が成功したかどうかを確認するために。そんなわけで」


 フィーはにっこりする。


「聞きなさい、新部隊トライデント。初任務の行先は、竜の谷! ちゃっちゃとアリアさんの問題を解決しちゃうわよ!」

「そんなっ!」


 アリアが慌てて手を振る。首までぶんぶん振っている。ああ、そんなに首を振ったら――案の定目が回ってフラフラしたので翔太はそっと肩を支える。アリアは申し訳なさそうに翔太を見上げ、深呼吸をし、改めてフィーに向き直った。


「わたしの問題なのに、みんなに迷惑はかけられません」


 しかしフィーはまるで取り合わない。アリアの真剣な交渉を、軽い感じで流しやがった。


「でもほら、先日の王都襲撃事件もあるし。最近ゲートも不安定みたいで危険だからね。修行みたいなもんよ。気にしないで? ってわけで!」


 勇んだ担任は宣言した。


「出発は五日後にしましょう」

「え、そんな後でいいんですか」

「何をするにしても準備は必要でしょう? それくらい大丈夫よ」

「はあ……」

「道中、瘴気の影響で何が起こるか分からないからね。それまで各自修行して、しっかり備えることっ! 解散!」


 めちゃくちゃだった。しかしそう決定されては誰も何も言えない。

 それに今日の修行とやらはもう終わりなのだろうか。案外早く終わったのに肩すかしを食らったようだが……まあ、帰れるなら早く帰ろうかと翔太がアリアに視線を向けると、アリアは嬉しそうに頷く。


「翔太、帰りに寄り道していい?」

「いいけど、どこ行くんだ?」

「近くにね、おいしいケーキのお店が出来たんだよ。一緒にいこ?」


 ケーキか。翔太は甘いものが嫌いではない。むしろ好きなほうである。まあ、夕飯が食べられなくなるような時間でもないし。寄り道は特に禁止されていないし。

 快諾するとアリアはますますうれしそうに笑う。姫というよりは目が離せない妹の世話をやいているような気持ちで、とても和む。


 そうやって翔太がアリアとコミュニケーションをとっている光景こそが、傍目から見るとまるで初々しい恋人同士に見え、微笑ましいのであるが。


「ねえニナ。アイツと仲いいの」


 ロザリーがなんだかげんなりした顔で話しかける。ニナは一瞬怪訝そうにしたが、ロザリーの視線を辿ると、ああ、と頷いた。


「ええ、クラスも一緒ですし」

「なら聞くけど。いつもああなわけ? なんていうか……すっごい甘ったるいんだけど。あそこだけ、空気が」

「当然。いつもああですわよ。本人たちは無自覚ですけどね」

「うげ……」


 貴族の娘らしからぬ声を出すロザリーだが、ニナは涼しい顔だ。


「あの二人は長期観察物件ですの。余計な口出しは無用ですわよ」

「……野次馬根性丸出しだな」


 ジャンのツッコミにもニナは動じない。

 一つ屋根の下に住む年頃の男女二人である。普通に考えれば何かが起こりそうなのだが。


「アリアはともかく、翔太さんはかなりの鈍感度を誇りますわね」

「っていうか誇れるのかそれ」

「空気は読めるのに特定の感情だけに気づかない天然っぷり。ああいうのを気づかれない程度に後押ししてくっつけるのが面白いのですから、邪魔は許しませんわよ」

「しねぇけどさ。まあアイツだからエミリ姫もアリアとその、契約っつーの? させたんじゃねーかと思い始めたぜ」

「その可能性は十二分にありますわね。あのお方の男を見る目は、千里眼級ですもの」

 なにやらわくわくした目で翔太らを見つめるニナに、苦笑いのジャン、頭痛をこらえるようなロザリー。そんな「野次馬」達の視線に、翔太は気づかない。アリアも見えているのは翔太だけである。

「帰るわよレオン。付き合いきれないわ――どうしたの?」


 レオンは無表情で翔太とアリアを見つめていたが、黙ったまま首を振ると視線を逸らし、ロザリーについていく。

 その様子を見ていたジャンは首を傾げ、尋ねた。


「なあ。レオンってあんなヤツなのか? やたら翔太を気にしてるように見えっけど」

「さあ?」

「さあって。幼馴染なんだろ?」

「わかりませんわ。ロザリーのフレンツェン家とは交流がありましたけれど、彼の――グランフェルト家は、良くも悪くも我が道を行く、と言いますか。武闘派ですし、あまり話す機会も……小さいころからロザリーにくっついてたのは変わりないと思いますけど。それくらいしか知らないですわね」

「ふうん。貴族ってのは冷てえんだな?」

「昔からそういうものなんですもの。仕方ないですわ。ジャン、あなた正式に私の護衛になったのですから、そろそろ貴族十家についても勉強なさいな。少しずつでいいですから」

「そのうちなー。ま、この国に留学中くらいはあんな身分社会忘れようや」

「……ええ。そうですわね。それより何かレオンが気になりますの?」

「ああ――いや、気のせいかもしれん。忘れてくれ」


 そんなやり取りは全く知らない翔太が振り返って呼びかける。


「ニナ。このあと暇か?」

「ええ。ケーキでしたわね? ぜひご一緒させていただきますわ。行きましょう、ジャン」

「ああ」



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