10
ヘリオスは唯々、目を見開いたまま固まっていた。
神を祀っているその場所が、明るく光り輝き始めたからだ。
――初代魔女の願いにより、地上を見守る者を繰り返し生み出してきたが……終わりなのかもしれぬな
その光は神々しく、それでいて恐ろしいまでの威圧感。
ヘリオスはネアイラを抱いたまま、呆然と見つめていた。
――この宮は月へと還す。これ以上、地上を昏き地に変えてしまうことは初代魔女も望んではいまい
初代魔女の契約の証が、その魔女より意識を奪っておるようだ……
浮かび上がる胸元の証。
月の印は、初代魔女の意思。
――人の子よ、この宮より出ていくがよい。その腕の中の魔女を置いて
ヘリオスはいまだ感情の戻らないネアイラを、ぎゅっと抱きしめる。
「嫌だ……! ずっと、ずっと一緒にいると約束したんだ! ずっと一緒に……!!」
――けれど、もう魔女の意識は戻らぬぞ。月に還っても、そなたは一人だ。
言葉もしゃべらぬ人形をそばに、一人生きては行けまいよ
ヘリオスは腕の中のネアイラを見つめて、そっと額に唇を落とした。
「それでもネアイラのそばが、俺の生きる場所だ……」
神が、笑ったような、気がした。
月の宮は願った。
どうか、二人に幸せを……。




