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神宮退魔士管理事務所  作者: 夕凪
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第四話 死神 Ⅲ

 サラが着替えをしている間にメイド服の支払いと、先程サラが物欲しそうな目で眺めていたワンピースを買っておく。

 会計を済ませると急いで試着室へと向かった。


「着替え終わった?開けるよ~」


 そう声をかけてカーテンを開く。


「あ、ちょ、ちょっとまっ───」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 顔を赤くしてスカートの裾をぎゅっと握っているサラと目が合う。

 目尻にうっすらと涙を浮かべて羞恥に耐えているその表情は、どこか蠱惑的で理性を保つのがやっとだ。

 そこそこ主張している胸元。そして何と言ってもスカート。ミニスカートでかなり丈が短く、そのスカートから伸びる妖艶な黒のガーターベルト。若干肌に食い込んでいてより一層エロさを引き立てている。また、その下のニーハイも艶やかでサラの足の魅力を引き出している。

 髪は髪留めを取って下ろしている。


「ど、どうかな?」


 裾を引っ張っりながらサラが聞いてきた。

 そりゃもちろん、


「はっきり言って想像以上だった。可愛いと思うよ」


 こういうことははっきり言っておかねば。

 僕からの返答を聞いたサラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「じゃ、そろそろ出ようか」



×××



「ね、ねぇ、みんなこっち見てる気がするんだけど・・・」

「そう?」

「やっぱり私なんかがこんなの着てると変だからかな・・・。肌の色とかちょっと違うし」

「たぶん、そのメイド服が似合ってるからじゃないかな。少なくとも悪い意味合いではないと思うけどね」

「そっか・・・・・・」


 死ぬほど恥ずかしい。

 みんなに見られてる。

 だが、言われてみると今向けられている目はいつもの蔑むような目と違うような気もする。

 

「それで、今度はどこに行くんですか?」

「ん?あぁ、ちょっとホテルに行って荷物を置いてこようかなって。あと、途中でコインランドリーでサラの服も回収しないとね」

「分かりました」



+++



「なぁ、あの子、ヤバくね?」

「あぁ、確かに。めっちゃ可愛いな」

「オレもああいう子のご主人様になりてー」


 こんな風にホテルまでの道中、かなりの人に注目された。


「さて、荷物も置いたし君に邪魔された昼飯を取ることにしよう」

「ごめんなさい・・・」

「もういいよ。サラも懲りたでしょ?」

「はい・・・」


 時刻は午後二時前。

 どこのレストランもそこそこ空いてきていたので、手頃な店に入った。


「じゃあ、このおすすめランチで。サラは?」

「あ、私は良いです。お金、持ってないですから」

「そっか。じゃあおすすめランチ二つでお願いします」

「かしこまりました」


 店員が離れていく。


「あ、あの、その・・・」

「さすがに僕一人だけ食べるのはアレだからさ。それよりサラ、一つ頼み事があるんだけど」


 頼み事?私に?


「この町で退魔業者の店をやろうかと思ってるんだけど、どこか良い物件がないかなって」


 ここでやっとカナトが私を連れてきた理由が分かった。

 恐らくメイド服で一日お付きの人云々はオマケで、こちらが本題だったのだろう。

 今までずっと私を連れ回している理由にモヤモヤとしていたけど、ようやく腑に落ちた。


「サラはこの辺の土地、詳しいでしょ?」

「はい」


 スリを行うには土地の情報というのは非常に重要となってくる。

 逃走経路やその土地にどれくらいの人間がいるのか、また、どんな階級の人間がいるのか。

 退魔業者をやるということだが、退魔業者でなくとも人が集まる場所に店を構えたいというのは商売人として当たり前の考え方だと思う。


「じゃあ、ご飯食べ終わったら早速案内してくれるかな?」

「あ、あの、客層とかそういうのは・・・」

「おっと、そうだった。どんな客層を相手にするかで場所も変わるよね。・・・そうだな・・・富裕層と一般の中間辺りが理想かな。でも、そこまでたくさんのお金は持ってないから、ある程度妥協しないとね。その辺りは地価が高いだろうし」

「分かりました」


 その後、おすすめランチが届いた。

 煮込みハンバーグや新鮮な魚介類などが入ったシーフードサラダなど、普段食べないものばかりでしばらくはご飯に集中していてそれに気がつかなかった。


「?」


 カナトが食事に手をつけていない。

 どうしたんだろう?

 そう思って顔を上げると・・・。


「!」


 ボーッとした表情。

 そして、虚ろな瞳。

 こちらが畏怖の感情を抱いてしまうようなその瞳を、私は見続けることができなかった。

 思い返せば、あの不気味な笑みを浮かべていたときもこの目をしていた気がする。

 目的のためなら人を殺すことも厭わないような冷酷な瞳。

 誰かを想い、慈しむような暖かい瞳。

 その相反する様々な感情がぐちゃぐちゃになった瞳。

 何を考えてるのかさっぱり分からない。


 しばらく眺めていると、カナトはようやく自分の前にご飯が置いてあることに気がついたのかその瞳を引っ込めて手を動かす。


「?どうかした?」


 眺めていたからだろう、私の視線に気がついたカナトは作り笑いを浮かべながら聞いてきた。

 そう、作り笑い。カナトが最初に見せたあの穏和な笑みも、恐らく。

 カナトは本心を隠して仮面を付けて人と接している。

 私は───その仮面を取ってみたいと、ふとそう思った。仮面を付けないで、本心から笑ってほしい。

 

 今でも何故そんな風に思ったのかはよくわからない。

 もしかするとその気持ちは、人を信じることができなくなった私の境遇にどこかシンパシーを感じるものがあったからかもしれない。

 はたまた私に髪留めを買ってくれたり、ご飯を奢ってもらったり。スリをしようとした私なんかに可愛いって言ってくれて。少しだけ、ほんのちょっぴりだけカナトのことを好きになってしまったのかもしれない。

 私って案外チョロイのかな。そんなこと考えたことなかったけど。


「───いいえ、何でもありません」


 精一杯の笑顔を浮かべて、答える。


「カナトさん、私、あなたと一緒にいたいです。これからも」


 驚いた顔を浮かべて握っていたフォークを取り落とすカナト。

 カナトの、この澄んだ瞳は本心だろうか。

 本心だと、嬉しい。

 もっと引き出したい。

 カナトの本心を。


「そ、それって・・・こ、こくはく・・・?」

 

 告白なんだろうか?そうかもしれない。

 でも、まだカナトに出会って一日。

 結論を出すには早すぎるだろう。

 だから───。


「違う・・・かな?」


「ど、どういうこと?」


 カナトは困惑した顔で尋ねた。


「ん~、秘密です♪」

「うぇ??」


 今はまだ、伝えなくていい。

 いずれ伝えないといけない時はやってくるのだろうから。

長らくお待たせいたしました。近日中に次話を公開する予定です。

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