第一話 出会い
私の名前はサラ。
肌の色が褐色なことを少し気にしている乙女な16歳。独り暮らし。
お母さんは私のことが憎かったみたいで、小さい頃は散々虐待された。挙げ句、7歳の時に私を捨てた。
お父さんはギャンブルにのめり込んで家族を放置。借金ばかりが増えていって、私が10歳の時に姿を眩ました。全ての借金を私に擦り付けて。
それからは毎日借金の取り立てに怖いおじさんが来て、私はどんどん追い詰められていった。
死ねば良いのかな?とか思ったりもした。保険金で何とかなるんじゃないかと。でも、詳しく調べてみるとそもそも保険に入れられてなかったというオチ。
これにはさすがに苦笑い。まさかそこまで愛されてなかったとは。まぁ、ある程度想像はついたんだけどね。
あとは娼婦。肌の色はアレだけど、幸い体つきは良かったから。それでお店に行ってみたんだけど・・・11歳じゃさすがにダメだったみたい。法律的な意味合いじゃなくて、体の未熟さ的に。
そんな幼少期を過ごしたからかな。私は人を信じることができなくなった。
それでも、折角この世に生を受けて生まれたわけだから。なるべく死にたくはなかった。例えそれがどんなに大変でも。
まずは食べ物。これは重要だね。とは言っても、学校なんて行かせて貰えなかった私には教養とかそーいうのは全然ないの。
だから働こうにもどこも雇ってくれなかった。幼かったしね。
丁度そんな時だったかな。私がスリを見たのは。
それを見てこれしかないと思った。借金の取り立てから逃げる意味合いも含めて、元々住んでいた街から貧民街に移ったの。12歳の時だったね。
それから4年、スリを続けてきた。その貧民街で一番スリが上手いとさえ言われるようになった私は、その日もいつも通りスリをするために市場へと向かった。
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シグリムの街。この国で二番目に栄えていると言われる街。市場、富裕層の住む高級住宅街、一般世帯が暮らす住宅街、貧民街で構成されるシグリムは人がかなり多く、スリに向いていた。
「ふん、ふふーん、ふふん、ふーん♪」
最近流行りのお気に入り曲を口ずさみながら、通りをスキップするように歩く。
「ふむ、そろそろ終わりにしようかな・・・?」
今日も上々の出来だった。12000円。これだけあれば今週一杯はもつだろう。
「よし、最後はあいつから貰おうっと」
冴えない顔をした20代前半くらいの男に目をつける。
男が近くの果物屋で、棚に置いてある果物を覗きこんでいる間に、後ろにひっそりと近づいて肩からかけているショルダーバッグ、口が空いていて外に顔を出していた財布を頂戴する。
余りにも不用心だが、実はこの市場にはそういった輩がうじゃうじゃいる。むしろ盗ってくれと言っているかのようだ。
ってことで、いっただき───。
「おやおや、お嬢さん。スリとは感心しないな~」
「なっ!?」
バレた!?この私が!?
今まさに盗ろうとしていた財布の持ち主、男が振り替えって私の腕を掴んでいた。
「は、離してよっ!」
やむを得ないので緊急離脱手段を用いる。
「いやーー!!やめてーー!!痴漢ーーー!!」
「え!?痴漢!?いやいや、君が僕のさいふ───」
「何!?痴漢だと!?」
「あんなに若い子を?しかも貧民街の」
「趣味が悪いわね~」
「痴漢なんて死ねば良いのに」
あっという間に騒ぎとなって周囲の人が男を取り押さえにかかる。
その隙に私はその場から迅速に離れる。
どうだ。私の必殺技!スリがバレたら相手を痴漢扱いにして逃げるこの手段。我ながらゲスい。
ちなみにこの方法は相手が女の人だと効きにくいからスリをするのは男の人だけ。
「ふぅ、ふぅ、疲れた・・・」
市場から逃げ出して貧民街に入ってようやく止まる。それにしてもあいつ、何者なんだろう?反応速度早すぎ。絶対普通の人じゃない。
「見た感じ冴えないオーラしてたし、退魔業者にも見えなかったんだけどな~。ま、今度から気を付ければ───」
何気なく振り替えって市場方面に顔を向けると。
「やぁ。冴えないオーラで悪かったね」
めっちゃくちゃニコニコした男が立っていた。額に青筋を立てながら。
「───ごめんなさい。お兄ちゃん」
反射的につい謝ってしまった。