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*1* 円という少女


昔から、その扉は開けたことが無かった。気にならないと言われれば嘘になるが、忌まわしい過去の残るその場所は幼い頃の私には澱んで見えた。


コレから先も私はあの場所には行かない。…そう思っていた。



−−アイツが来るまで。


私の家は旧家で地方では有名な家柄だったから、暮らしていく事に特に苦をしたことは無い。学問もスポーツもそれなりにこなしていれば怒られるような事は無かったし、やることをやれば欲しい物は買って貰えた。

友人にも恵まれて楽しい学校生活を送っていたし、門限も特に定められていなかった。



申し分ない、毎日だ。



ただ、私には一つ引きずっている過去があり、その日以来、視界は膜を掛けられたかのようにボーっとぼやけている。

理由は解らないけれど、精神的なものだろうとこの10年間気にしないようにしてきた。慣れとは怖いもので、今では極当たり前の事として受け入れている。



(まどか)、また明日ね!」


「うん、友里恵も気をつけて帰ってー!バイバイ!」



友人の友里恵と別れ、円は曲がり角を曲がった。先程から延々続く見慣れた塀を横目に軽い足取りで歩を進める。初夏の近いこの季節は日が長くなり、夕方6時だと言うのにまだ明るい。


「時間感覚が一寸狂いそう」


携帯で時刻を確認すると手早くスカートのポケットにいれ、漸くついた門の中に入った。

其処から玄関迄は、まだまだ遠い…。


広大な敷地内に入っていく姿を見ていたものがいた。赤く光る双眸はじっと少女の後ろ姿を食い入るように見つめた。


−−やっと戻ってこれた


呟くような言葉が漏れ、それは誰に届くでもなく空気に溶けて消えた。



「ただいまー、咲さん」


「お帰りなさいませ、円様」


深く下げられた頭を上げると現れた優しい表情が円の気持ちをホッとさせる。

この屋敷の家事を一手に引き受けている咲は20代後半の女性で優しく穏やかな雰囲気で母を思わせる。円にはある事情で母がいない為に咲の事を本物の母のように慕っていた。


「円様、今日のお夕食は何にしましょう?」


「ん…そうね、私今日は和食が食べたいな。」


おかしいと思われるかもしれないが、円の家では毎日自分の好きなものを自分の分だけつくってもらえる。なので父はフレンチ、円は和食などと言うこともざらではない。


円の希望を聞くと咲は笑顔を見せて、調理場へといなくなった。暫く背中を見送っていたが、宿題を思い出し渋い顔で二階への階段を登り始める。



「さぁーて…古典の宿題さっさと済ませなきゃ」


長い廊下を部屋へと向かい、独り言を止めない円の声は、虚しく響いた。

「あーついたついた。学校かってのこの家」


最奥の扉を開こうと手を伸ばすと鋭い痛みを指先に感じ、思わず手を引く。


「やだ、この季節に静電気…?いたいし…」


もー最悪。そんな口癖をつい零し、再度手をかけると取っ手を下げ思い切り引いた。ギィ、と年期の入った音を立て開いた部屋は見慣れた己自身の部屋…。



「え…?誰…?」



見知らぬ人影が一つ、窓から入る夕日を受け、此方に背を向けて立っていた。

細々と始めた拙い文章ですが、ゆっくり進めていきたいと思います。これからよろしくお願いします。

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