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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第1章 目覚め ~県予選編~

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7/85

第7話【芝に咲く牙】

【あらすじ】

U-9オール静岡キッズリーグ開幕戦、「静岡ダービー」。吉良氏真のトリックプレーで2-0とリードを広げたインパルス清水FCジュニアだったが、ジュピター磐田FCジュニアの生粋のストライカー・中森権造のダイビングヘッドで1点を返される。さらに、磐田の完璧な組織戦術「蒼き檻」から流れてくる膨大な情報量に氏真の脳がフリーズを起こす。絶体絶命の危機の中、中森の泥臭くも純粋な「勝利への執念」が牙を剥く。五百年の時を経て、天才・氏真が初めて味わう「真の敗北」と、そこから生まれる新たな渇望の物語。


1. 牙を剥く「執念」の化身


2対1。インパルス清水のリード。


後半も残り五分を切った時、三保のグラウンドには清水の勝利を確信する空気が流れかけていた。


だが、氏真の視界は絶え間なく押し寄せる戦術情報――青い光の糸の嵐によって、完全にショートを起こしていた。


「情報の海」に呑まれ、ピッチの中央で足元のボールを保持したまま一瞬のフリーズを起こした氏真。


その、針の穴を通すような一瞬の隙を、常勝・ジュピター磐田は見逃さなかった。


「もらったぁッ!!」


東家大器あずまや たいき西条櫂さいじょう かいが左右から殺到する。


しかし、彼らは氏真からボールを奪うことだけが目的ではなかった。


彼らの強烈なプレッシングは、氏真の身体の向きを強制的に「後ろ」へと向けさせるための撒きダミーだったのだ。


氏真が体勢を崩しながらバックパスを選択したその軌道上。


そこに、獣のようなトップスピードで走り込んでいたのは、背番号9・中森権造だった。


「……ふざけるな。雅だか美学だか知らねえが、俺たちの努力を、その小生意気なステップで踏みにじってんじゃねえぞ!」


中森のプレッシングは、もはや九歳の少年サッカーの域を超えていた。


彼は氏真からのバックパスをダイレクトでカットすると、清水のディフェンスラインへ向かって単騎で突撃した。


「氏真様、お気をつけください! あの少年の気迫……先ほどまでとは別物ですわ!」


ベンチから愛が悲痛な声を上げる。


隣で舞も、タブレットを叩きながら顔面を蒼白にしていた。


「ウジ様、基哉くん、気をつけて! 中森くんの筋肉、限界を超えて稼働してる! データの予測値が……スプリントの最高速度でエラーを吐いてるよ!」


氏真は、頭痛に耐えながら振り返り、迫りくる中森の背中を見た。


その背中から立ち上る熱量は、かつて今川の館を焼き尽くし、すべてを奪っていった戦国の「理不尽な現実」を彷彿とさせた。


美学も、家柄も、伝統も関係ない。ただ「勝利」という獲物を食らい尽くすことだけを目的とした、剥き出しの牙。


清水のセンターバックがスライディングで止めに入る。


だが、中森はそれをジャンプで躱すことはしなかった。


彼はスピードを緩めず、ボールごと相手のブロックに身体をぶつけ、強引に弾き飛ばした。


ファウルではない。正当なショルダーチャージによる、圧倒的なフィジカルと執念の勝利だった。


そのままペナルティエリアに侵入した中森は、キーパーの動きを見極め、右足を力強く振り抜いた。


シュートはキーパーの指先を弾き飛ばし、ゴールネットを野蛮に揺らした。


2 - 2。


後半16分、ジュピター磐田、同点。


「しゃあああっ! まだだ! 逆転するぞ!!」


中森が芝生の上に転がりながらも、闘志を爆発させて叫ぶ。


彼のユニフォームは汗と芝生の緑にまみれ、まさに「泥臭い」ストライカーの真骨頂だった。




2. 雅の崩壊:(ピッチ)に咲く牙


同点に追いつかれたインパルス清水の陣内には、動揺が広がっていた。


【3-3-1】の陣形は、司令塔の基哉が必死に声をかけて修復を試みるものの、磐田の「四連星(カルテット)」と中森の放つ圧倒的な熱量の前に、じりじりと後退を余儀なくされていた。


「吉良! 頭を振って目を覚ませ! まだ同点だ、同点なんだぞ!」


基哉がアンカーの位置から叫ぶ。


氏真は深く息を吐き、脳内の過剰な戦術情報の処理を強制終了させた。


(……いかん。情報を読み取りすぎた。だが、あの中森という(おとこ)……戦国にもあのような泥臭い猛将がおったな。ならば、予も『雅』の意地を見せねば!)


後半18分。基哉からの縦パスを受けた氏真は、磐田のゲームメーカー・みなみ 京太郎きょうたろうと対峙した。


氏真は得意の右足アウトサイドでのルーレット・ターンで南を抜き去ろうとする。


だが、南は抜かれることを前提に、氏真の進路を「外側」へ限定するディレイ・ディフェンスを行っていた。


抜いた瞬間に待ち構えていたのは、無尽蔵のスタミナを誇る西条、そして最前線から全速力で戻ってきた中森の二人だった。


「……なっ!?」


中森のディフェンスは、華麗でも論理的でもなかった。


彼は身を挺して、顔面から芝生に突っ込むような無謀とも言えるハードなスライディングで、氏真の足元からボールを刈り取った。


「……今の接触、一歩間違えれば大怪我に繋がる……! なぜ、そこまでして……!」


氏真が驚愕してバランスを崩す中、中森は口に入った芝をペッと吐き出しながら即座に立ち上がり、再び前線へと駆け出していく。


雅なステップ? 華麗なループシュート? そんなものは、中森の「勝利への執念」の前では、ただの飾り物でしかなかった。


「だらしねぇぞ清水! 勝てば、汗も汚れも、全部宝石に見えるんだよ!!」


中森の牙が、清水のゴールへと襲いかかる。


氏真の脳内に残っていた【軍略鑑定】の残滓が、絶望的な警告を赤く点滅させていた。


>> 警告:【雅の体幹】が相手の執念の前に揺らいでいます。

>> ターゲット:中森 権造

>> プレイスタイル:【不屈の捕食者(プレデター)

○ 効果: 成功率や体裁を度外視したハードワークにより、相手の「美学」を精神的・物理的に破壊し、チームに無限の活力を与える。


後半20分、アディショナルタイム。


一瞬の間合いを取って、南の左足から放たれたスルーパスが、清水の3バックのギャップを切り裂く。


そこにダイアゴナル(斜め)に走り込んだのは、三度、中森権造だった。


基哉が必死にスライディングでシュートコースを消しに行く。


だが中森は、執念で倒れ込みながら強引に体ごとボールをゴールへ押し込んだ。


ピーッ、ピピッ、ピーーーッ!!


試合終了のホイッスル。


氏真が自陣で立ち尽くす中、スコアボードは残酷な現実を告げていた。


2 - 3。


中森のハットトリックにより、ジュピター磐田FCジュニアの逆転勝利。


氏真は、青々と茂るピッチに膝をつき、自分の震える手を見つめていた。




3. 敗北の味、そして初めての「渇望」


「……負けた。予が、負けたのか。……こんなにも泥に臥されて」


試合後のロッカールームは、重い沈黙に包まれていた。


吉良コーチは「よく頑張った。これが公式戦の厳しさだ」と慰めたが、選手たちの耳には届いていなかった。


愛が急いで駆け寄り、タオルで氏真の汗を拭おうとするが、氏真はそれを静かに手で制した。


舞はタブレットを握りしめたまま、言葉を失ってうつむいている。


基哉は、ロッカールームの壁をドンッと殴りつけ、唇を強く噛み締めていた。


「……吉良。……僕たちが、甘かったんだ。……戦場ピッチを舐めていた。あいつらの、あの泥臭い執念に、僕たちは完全に飲み込まれたんだ」


基哉の声は、冷たい怒りに満ちていた。


自分への、そして相手の熱量を読みきれなかった司令塔としての未熟さに対する怒り。


その夜、三保の海岸。


満月に照らされた波打ち際で、氏真は一人、サッカーボールを蹴り続けていた。


波の音が、彼の心の中のノイズをかき消していく。


(……悔しい。勝ちたい。雅であることよりも、美しくあることよりも……予は、あの中森という男に、あの青い軍団に、勝利したい!)


五百年前、桶狭間で偉大な父を失った時も。

武田信玄に駿河を追われ、北条に身を寄せた時も。


氏真は、どこかで「諦め」を「雅」という言葉で塗り替えて、自分を納得させて生きてきた。


武将としての限界を悟り、芸術に逃げていたのかもしれない。


だが、現代で出会ったサッカーというスポーツは、彼の中に深く眠っていた「本物の魂」――闘争本能を呼び覚ましてしまった。


>> システム覚醒:【勝利への渇望(アンクエンチャブル)

○ 条件達成: 生涯初めて、絶対領域での「真の敗北」、および自己の美学の再定義。

○ 潜在能力が再構築されています……。


「……氏真様。……あの方は、今、本当の英雄になろうとしていらっしゃいますわ」


遠くから密かに見守る愛の目から、温かい涙が零れる。


「ねーさま……ウジ様、見たことない動きをしてる。データの限界を超えて、身体が『空』を求めてるよ……!」


舞の持つタブレットの画面には、氏真の身体能力が未知の領域へと跳ね上がっていく数値が弾き出されていた。




4. 覚醒:鳳凰の羽休め(アモルティ)


氏真の目の前には、激しく打ち寄せる駿河湾の波があった。


不安定な砂浜の足場、海から吹き付ける強風。


そこで氏は、空中に高く放り投げたボールを、これまでのように「地上で」待つのではなく、自ら空へと高く跳び上がり、迎えに行った。


「……鞠は、地上に落ちるから拾うのではない。落ちる前に、空中で慈しむのだ」


中森の「泥臭い牙」が地上で牙を剥くというのなら、自分はそれよりも高い、誰も触れられない「空」を自らの領土エリアにすれば良い。


跳躍。


重力に逆らうような滞空時間。空中で、ボールが氏真の足元に触れる。


普通なら、そこから着地してプレーを再開するか、ダイレクトで蹴り返す。


だが、氏真は空中でボールを足の甲で優しく「撫でた」。


ボールは重力を完全に無視したかのように、氏真の足元でピタリと静止し、そのまま彼が着地するまで「一緒に」空を舞い降りたのだ。


>> 新スキル獲得:【鳳凰の羽休め(アモルティ)】

○ 効果: 空中でボールの勢いを完全に殺し、着地するまでの間、敵のあらゆる干渉タックルやプレスを無効化する「絶対的空間」を作り出す、究極の空中トラップ。

○ 解説: 地上戦を避け、天空を統べる鳳凰の飛翔。


「……ふぅ。……基哉くん、見てたかい?」


いつの間にか後ろの砂浜に立っていた基哉に、氏真は汗を拭いながら微笑みかけた。


その顔にはもう、試合後の絶望はない。


汗と砂にまみれながらも、その黄金の瞳には「絶対に次は勝つ」という、戦国大名・今川氏真がかつて持ち得なかった強固な意志が宿っていた。


「……ああ。……気味の悪い、理不尽な動きだ。だが、それなら中森の野蛮な牙も届かない」


基哉は、奥の瞳を光らせ、不敵に口角を上げた。


「吉良。……次は、僕が君をその『空』へ一番良い形で送り出してやる。……天下を、獲るぞ」


「うん。……雅に、そして泥臭く。予たちは、最強のチームになる」


三保の海に、夜明けの光が差し始める。


真の敗北。それは、氏真が「ただの天才」から「勝利を掴む覇者」へと変貌するための、必要な儀式だったのだ。


少し離れた砂浜では、愛が疲労回復のための特製「極・薬膳スープ」を携帯コンロで温め始め、舞が中森の動きを攻略するための「対・野獣アルゴリズム」を徹夜で構築し終えていた。


敗北を知った鳳凰(赤鳥)は、今、より高く、より鋭く、その黄金の翼を広げる。


【次回予告】

敗北の味を噛み締め、初めて「勝利への渇望」に目覚めた鳳凰・氏真。だが、次の試合はすぐにやってくる! 愛と舞がプロデュースする、科学と伝統が融合した「地獄の三保合宿」がスタート! そこで氏真たちの前に現れたのは、謎の外国人だった!?

第8話:【地獄の三保合宿と、蒼い眼の門番】。次なる天下へのパスを回せ!


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