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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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第55話:【空白を創る者】

【あらすじ】

冬のスペインを舞台にしたユース・ウインターカップ準々決勝。FCバルシーノはバオルビFCの包囲網に苦戦するも、絶対的司令塔フェリペと氏真の予測不能なエゴが奇跡の連動を果たし、勝利を収めた。ベスト4へ進出した全4チームによる準決勝が同時に開幕。バルシーノの前に立ちはだかるのは、圧倒的なフィジカルと堅守を誇るアトレFC。一方、別会場ではマフリットのエース・織田凱斗が檻の中で牙を研いでいた。


1. 40分の死闘、開幕する二つの準決勝


スペイン・カデテ(U-15)年代の公式戦は、プロの90分とは異なる80分(40分ハーフ)。わずか10分短いだけと思われがちだが、この10分の差は試合運びを大きく変える。序盤から主導権を握る「陣取り合戦」の比重は、プロ以上に重い。


限られた時間の中で、いかに主導権を握り、ゴールという名の本陣を陥落させるか。


ユース・ウインターカップ準決勝。決勝戦への切符を懸けた過酷な80分間の戦いが、二つのスタジアムで同時に幕を開けた。


「……チッ。つまんねえ鳥かご(ロンド)だぜ」


Bブロックの会場。マフリットのベンチで、背もたれに深く体重を預け、退屈そうに舌打ちをする男がいた。


背番号9を背負った極東の野獣、織田凱斗である。


ピッチ上では、都会的で洗練されたシステマチックなパスサッカーを誇る「FCレンシア」が、巧みなボール回しでマフリットのプレスをいなし続けていた。


前半30分を経過して、スコアは0-0。


「¡Tranquilo, Kaito!(焦るな、カイト!) お前は後半からだ」


マフリットのホセ監督が、テクニカルエリアから戻りながら腕を組んで凱斗に告げた。


「レンシアのパスワークは厄介だが、決定打には欠ける。奴らが走り回って体力を消耗した後半……お前の暴力的なまでの推進力で一気に蹂躙し、明日の決勝へ向けてスタミナを温存するぞ」


「……合理的な判断だこって」


凱斗は首をボキボキと鳴らし、ギラついた猛禽類の瞳でピッチを睨みつけた。


「だが、俺をこれ以上待たせたら……敵の前に、アンタをぶっ壊しちまうかもしれないぜ、監督さんよ」


檻の中に閉じ込められた魔王の放つ異常な殺気に、ベンチの控え選手たちが思わず身震いをした。戦場に出られぬフラストレーションが、彼の筋肉の奥底でマグマのように煮えたぎっている。


---


2. アトレFCの番犬たち、膠着するAブロック


その頃、もう一つの会場。


バルシーノが戦うAブロックの準決勝は、泥と汗にまみれた死闘の様相を呈していた。


「¡Aplastadlos!(潰せッ!) バルシーノの坊ちゃんどもに、本物の戦いを教えてやれ!」


アトレFCのキャプテンであり、圧倒的なフィジカルと統率力で最終ラインに君臨するセンターバック、ディエゴが怒号を飛ばす。


アトレFCのエンリケ監督の指示のもと、11人全員が自陣に強固な防壁ブロックを築き上げていた。それは、わずかな空間の歪みすらも屈強な肉体と無尽蔵のスタミナで埋め尽くす「究極のドン引き守備」である。


彼らは華麗な足技など持たない。だが、「絶対にゴールを割らせない」という労働者階級の誇りと、強者に屈するくらいなら倒れる方を選ぶ反骨の精神が、チームを一つに結びつけていた。


前半35分。スコアは1-1。


試合は序盤から荒れていた。アトレFCの鋭いカウンターから、一瞬の隙を突いた点取り屋のフォワード、シメオンに先制を許す。しかし直後、氏真が極限の脱力から生み出される流れるような重心移動で肉弾戦をねじ伏せ、同点ゴールを奪い返していた。


だが、そこから試合は完全に膠着状態に陥っている。


「っ……!」


バルシーノの心臓、フェリペが顔を歪めてピッチの芝に倒れ込んだ。


彼に執拗なマークについているのは、アトレFCのアンカー、ラウルだ。ファウルすれすれのショルダーチャージ、ユニフォームを引っ張る泥臭い密着マーク。ラウルは自らの美しさなど微塵も気にせず、フェリペの「思考する時間」を徹底的に削り取っていた。


「¡Levántate, genio!(立てよ、天才司令塔!) 綺麗なパスを出してみろよ!」


狂犬ラウルが、泥だらけになったフェリペを見下ろして挑発する。


「……汚い真似を」


フェリペは荒い呼吸を吐き出しながら、胸のエンブレムについた泥を指先で払った。


パスの供給源であるフェリペが機能不全に陥り、前線の氏真には闘将ディエゴが常に二人がかりで張り付いている。中盤のマテオが献身的に走り回りボールを引き出そうとするが、アトレFCの分厚い肉の壁を前に、決定的なパスコースはことごとく塞がれていた。


バルシーノのカルロス監督も、腕を組んだまま厳しい表情でピッチを見つめている。


---


3. 総大将の決断、天才たちの無言のシンクロ


(……厄介な壁だ。数センチの死角すら、ディエゴという男の統率力で即座に埋められてしまう)


前線で荒くなった息を整えながら、氏真は敵陣の盤面を黄金の瞳で冷静に俯瞰していた。


敵の呼吸、重心の偏り、味方の疲労度。戦場のあらゆる情報が、氏真の視界で処理されていく。かつて戦国を生き抜いた武将たちが乱戦を俯瞰したように、その視界は混沌の中に潜む、わずかな「空白」を探し続けていた。


前半残り3分。


マテオが激しいプレスを掻き潜り、氏真の足元へ鋭い縦パスを打ち込んだ。


ボールが到達した瞬間、即座にディエゴともう一人のディフェンダーが立ちはだかる。


「¡Ven aquí!(来い、日本人!) お前のステップの軌道は、俺の壁で完全に塞いであるぞ!」


ディエゴが咆哮し、巨大な体躯を沈めて迎撃の体勢をとった。


氏真はボールを足元にピタリと止め、極限まで重心を落とした。


その時、氏真は視線だけを動かした。


その先には、狂犬ラウルの激しいチャージを受け、泥に塗れながらも必死にパスコースを探す背番号10、フェリペの姿があった。


(……フッ。泥に塗れてもなお、王のプライドは折れていないというわけか)


『――遅れるな、フェリペ。』


『――言われるまでもない。君の混沌を、僕の論理で刺し貫く』


言葉は交わしていない。しかし、前戦で常識を放棄し、互いの才能の底知れなさを認め合った二人には、その一瞬の視線の交錯だけで十分だった。


「行くぞッ!」


氏真がボールをわずかに前へ押し出し、ディエゴたちアトレ守備陣の『正面』へ向かってトップスピードで突撃した。


「¡Idiota!(馬鹿め!) 真正面からなら、俺のフィジカルで弾き返せる!」


ディエゴが両足を踏み張る。中盤のラウルも「¡Cerrad el paso!(挟み潰せ!)」と叫びながら、氏真を背後から仕留めるべく急激にポジションを下げた。


アトレFCの強固なブロック守備の意識が、たった一人の守備組織そのものを歪ませるストライカーの存在によって、完全に一点へと収束した瞬間であった。


4. 前半39分、囮の真価


前半39分。


ディエゴとラウルを含む3人の巨漢が、氏真を完全に包囲し、強烈なタックルを見舞おうとしたその刹那。


氏真は、膝の抜きを利用した滑らかな重心移動で一瞬だけ間合いをずらし、強烈なシュートモーションへと移行した。


>> スキル発動:【虚実皮膜の舞:ランクC】

特殊・補助系 / 効果:敵の認識阻害・ヘイト集中 / 発動条件:極限の脱力と敵の殺気の誘導


シュートやドリブルの予備動作を誇張して見せ、敵の意識を自身に完全に固定させる。力みの一切ない身体操作から生み出される高度なフェイント技術。


「¡Bloqueadlo!(ブロックしろッ!!)」


ディエゴが顔面を覆うようにして身を投げ出す。


しかし、氏真の右足は、目の前の鞠を『蹴撃』しなかった。


振り下ろされた右足はインパクトの寸前で極限まで脱力され、足首が鞠の芯を優しく撫でるように捉えた。


それは、包囲網の足と足のわずかな隙間――敵の意識が完全に氏真に向いたことで生じた、ペナルティエリア手前のぽっかりと空いたバイタルエリアの無人の空間へと転がる、柔らかく優雅なヒールパスであった。


「……なっ!?」


ディエゴもラウルも、完全に虚を突かれ、目を見開いた。


常に自らのゴールを渇望する圧倒的なエゴの塊が、自らシュートを撃たず、ペナルティエリア内で完璧な囮に回ったのだ。


「……完璧な空間だ。ウジザネ」


その無人の空間に、一切の無駄のない美しいフォームで走り込んできたのは、狂犬ラウルのマークを完全に置き去りにしたフェリペだった。


氏真の理不尽な引力が作り出した、たった一瞬の完全なフリー。


フェリペの右足から放たれたコントロールショットが、美しい弧を描き、アトレFCの分厚い肉の壁の横をすり抜け、ゴールネットのサイドネットに深々と突き刺さった。


ゴォォォォォォルッ!!!


「¡Vamos!(よしっ!)」


カルロス監督が力強く拳を握りしめ、マテオが歓喜の雄叫びを上げてフェリペに飛びつく。2-1。バルシーノが、前半終了間際に執念の勝ち越しゴールをもぎ取った。


「……あはは。見事な射撃だ、フェリペ。泥に塗れた甲斐があったな」


包囲網から抜け出した氏真が、前髪をかき上げながら優雅に拍手を送る。


(……たとえ泥に塗れようとも、己の美学を証明するための布石となるならば、それもまた極上の雅というものよ)


「ふん。いいパスだった。……囮役、ご苦労。」


フェリペは口角を微かに吊り上げ、泥だらけの顔で不敵に笑い返した。


氏真の奔放な発想と、フェリペの精緻な構築。二人の異なる才能が、互いの意図を完璧に理解し合い、一つの攻撃として結実した瞬間であった。


ピィィィーッ!


ここで前半終了のホイッスルが鳴り響く。


同時刻。Bブロックの会場でも、前半終了を告げる笛が鳴っていた。


スコアは0-0。


「……さあて、準備運動は終わりだ」


ベンチから立ち上がった織田凱斗が、ジャージを乱暴に脱ぎ捨てる。


その分厚い背中には、マフリットの純白のユニフォーム。


対極の準決勝。バルシーノがチームとしての完璧な連動で強固な壁を突破したその時、もう一つの戦場では、魔王という名の災厄が、いよいよピッチへと解き放たれようとしていた。


自らの意志で盤面を操り、次なる戦いへと胸を高鳴らせる氏真。そして、抑えきれぬ破壊衝動を露わにする凱斗。


若き才能たちの熱狂は、スペインの冬空の下でさらに激しく燃え上がっていく。



【次回予告】

後半戦に突入したウインターカップ準決勝! Bブロックでは、ついにピッチに降り立った織田凱斗が、FCレンシアの守備陣をたった一人で粉砕していく! 一方のAブロック、リードを許したアトレFCも死に物狂いの猛攻を仕掛ける!

第56話:【戦術の死】。次なる天下へのパスを回せ!


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