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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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36/85

第35話:【ファルソ・ヌエベ】

【あらすじ】

スペイン・バルシーノの育成組織に乗り込んだ吉良氏真。言葉も通じず、世界最高峰のパススピードと激しいプレスの「鳥かご」で孤立するが、相手の重心と呼吸を読み切る「雅」の体術で、天才肌のマテオの必殺パスを無力化。紅白戦が始まり、パスが回ってこないBチームの最前線で、氏真は究極の戦術を選択する。


1. 孤立無援の陣と、飛び交う異国の言葉


ピィィィィィッ!!


バルシーノの総合練習場に、11対11の紅白戦のキックオフを告げるホイッスルが鋭く鳴り響いた。


「¡Presión!(プレシオン/プレッシングだ!)」


「¡Abre el campo!(アブレ・エル・カンポ/ピッチを広く使え!)」


バァァンッ!


乾いた天然芝を噛むスパイクの摩擦音(ザザッ!)と、ボールが高速で行き交う重い打撃音を拾い上げる。


氏真が配置されたのは、Bチームの最前線。


しかし、彼の下へは一向にパスが回ってこない。それどころか、味方のミッドフィルダーと目が合っても、露骨に視線を外されて別の選手へとパスを出されてしまう。


無理もない。バルシーノの下部組織は、世界中から選りすぐられた超エリート集団だ。幼い頃から『Juego de Posición(フエゴ・デ・ポシシオン/配置の優位性を保つ戦術)』を叩き込まれた彼らにとって、戦術理解度が未知数である言葉の通じないアジア人に、大切なボールを預けるという選択肢は存在しなかった。


(……ふむ。見事なまでの兵糧攻めだな。前線で孤立させ、自滅を待つ。戦の常套手段ではあるが)


氏真は、頭上を越えていくボールを眺めながら、涼しい顔でピッチを歩いていた。


Aチームの司令塔である金髪の少年、マテオが、Bチームのプレスを軽々と剥がしながら嘲笑う。


「El japonés es un fantasma(あの日本人は幽霊だな)。……彼を無視して『Posesión(ポゼッション/ボール保持)』を続けろ。実質11対10だ」


味方からも敵からも透明人間として扱われる氏真。


2階のバルコニー(バルコン)から見下ろすカルロス監督は、サングラスの奥で目を細めた。


「さあ、どうするウジザネ。ボールが来ないからといって、無駄走りして体力を消耗する凡庸な選手フガドールか? それとも……」


---


2. 空白の地を征く、見えざる指揮棒


(鞠が来ないなら、鞠を使わずに陣地を制圧するまで。……戦場において真に恐ろしいのは、見えている刃ではなく、見えない『空間』なのだから)


氏真は、闇雲にボールを要求して手を挙げることをやめた。


彼は自身のポジションである最前線トップから、スルスルと中盤の低い位置へと下がり始めたのだ。


現代サッカーにおける『Falso Nueve(ファルソ・ヌエベ/偽りの9番)』の動き。


だが、氏真のそれは、ボールを足元で受けるための動き(サポート)ではなかった。


>> スキル発動:【軍略鑑定:死角の侵食:ランクC】

補助系 / 効果:自己バフ(空間把握・戦術眼) / 発動条件:極限の脱力と俯瞰視点

ピッチ上の全選手の重心、視線、戦術的連動の「網の目」を可視化し、守備陣形にとって最も厄介な「空白地帯」を導き出す。


氏真の黄金の瞳が、ピッチ上の22人の重心、視線、そして戦術的連動の「網の目」を可視化する。


彼は、Aチームのセンターバックの視界のブラインドサイドを滑るように横切り、守備陣形にとって最も厄介な「誰がマークにつくべきか曖昧な空間」へと、ピンポイントで歩みを進めた。


「……ん?」


Aチームのセンターバックが、目の前から消えた氏真の姿を探して、一瞬だけマークを受け渡すために首を振った。


そのコンマ数秒の「守備のノイズ」。


氏真は自らが『Señuelo(セニュエロ/囮)』となることで、Aチームの強固な守備ブロックに、目に見えない亀裂を生じさせたのだ。


「¡Ahora!(アオラ/今だ!)」


氏真が作り出したその広大な空白地帯スペースへ、Bチームの右サイドハーフが無意識に飛び込む。


そこへパスが通り、Bチームが初めてAチームの強烈なプレッシングを回避することに成功した。


「……Qué diablos(一体何が)……?」


ボールに一度も触れていない日本人の動きによって、味方のパスがスムーズに回り始めたことに、Bチームの選手たちがざわめき始めた。


---


3. 雅なるハッキングと、3人目の動き


(よいぞ。陣形に生じた僅かな綻びは、やがて大きな堤防の決壊を生む)


氏真の『Desmarque(デスマルケ/マークを外す動き)』は、次第にAチームの精密な戦術システムを内側から狂わせていった。


彼が右へ動けば、釣られたディフェンダーの裏に『Líneas de pase(リネアス・デ・パセ/パスコース)』が生まれ、味方がそこへ走り込む。


彼が左へ立ち止まれば、そこに『Triángulo(トリアングロ/三角形)』のパスネットワークが自動的に完成し、ボールが滑らかに循環し始める。


氏真は一切ボールに触れていない。だが、ピッチ上の21人の選手は、まるで氏真という見えざる指揮者マエストロが振るタクトによって、無意識に操作されているかのようだった。


「¡No le dejen espacio!(ノー・レ・デヘン・エスパシオ/奴にスペースを与えるな!)」


ついに異常事態に気づいたAチームの司令塔・マテオが、血相を変えてディフェンスラインに指示を飛ばす。


だが、遅すぎた。


マテオが氏真を捕まえようと陣形を崩して前へ出た、その瞬間。


氏真は、背後から迫るマテオの気配を『殺気』として察知し、スッと半歩だけ立ち位置をズラした。


すると、氏真とマテオの間にできた巨大なゲート(空間)を通って、Bチームのセンターバックから、前線へと一気に縦パスが打ち込まれたのだ。


バルシーノの育成哲学の真髄、『Tercer hombre(テルセル・オンブレ/3人目の動き)』。


ボール保持者(1人目)から、直接パスを受けられない選手(2人目=氏真)を囮に使い、最も危険なスペースへ飛び出した選手(3人目)へパスを通す戦術。


氏真は、言葉を交わすことなく、バルシーノの選手たちの脳内に染み付いた「戦術の最適解」を、完全に逆手に取って(ハッキングして)みせたのである。


「……嘘だろ。あのアジア人、ボールに触れずにピッチ全体を支配ドミナしているのか……!」


バルコニーから見下ろすカルロスが、持っていた戦術ノートを強く握りしめた。


---


4. 鳳凰の受肉トラップと、戦慄の剣閃


Bチームの前線へ通った完璧な縦パス。


しかし、Aチームの屈強なセンターバックが強引なスライディングでこれをカットし、ボールが中盤のルーズボールとなって高く舞い上がった。


ボールの落下地点。そこに、Bチームのどの選手よりも早く、静かに立っていたのは――吉良氏真だった。


(……さあ。十分にお膳立ては整えた。そろそろ、予も鞠と戯れさせてもらおうか)


氏真が空を見上げた瞬間。


「¡Mío!(ミーオ/俺のだ!)」


激しい怒りを露わにしたマテオが、圧倒的な『Intensidad(インテンシダ/プレーの強度)』で、氏真を背後から粉砕しようと突進してくる。


空中から落下してくるボール。そして、背後から迫る猛獣のようなマテオのタックル。


氏真は、空中のボールから視線を切り、マテオの方へと背中を向けた。


そして、ボールが着地する間際。


>> スキル発動:【心身一如:無拍子の歩:ランクC】×【極・雅技:鳳凰の羽休め:ランクB】

特殊系 / 効果:相手のベクトル無効化・自己の最適化 / 発動条件:相手の殺気を至近距離で感知・高速パスのインターセプト時


相手のチャージのエネルギーを「無拍子の歩法」で躱しつつ、飛来するボールの運動エネルギーをコンマ一秒の衝撃吸収で無力化し、自らの足元に完全に支配下におく。


氏真の右足が、落下するボールの側面にふわりと触れる。


次の瞬間、氏真の身体は、マテオの激しいチャージの直撃を紙一重で躱しながら、独楽こまのように滑らかに反転していた。


『Control orientado(コントロール・オリエンタード/方向づけられたトラップ)』。


ボールの勢いを殺すのではなく、相手のベクトル(力)を躱しつつ、自らが次に進みたい方向(ゴール前)へと一回のタッチでボールを完璧に置き直す、世界最高峰のファーストタッチ。


「……なっ!?」


空を切ったマテオが、バランスを崩して天然芝の上に手をつく。


氏真の目の前には、Aチームのゴールへと続く、黄金に輝くパシージョ(道)が開けていた。


Graciasありがとう、マテオくん。君の怒りが、最高のスピードをくれたよ」


氏真の右足が、鋭く振り抜かれる。


スパイクの芯がボールのスイートスポットを正確に撃ち抜き、放たれた弾丸のようなシュートが、地中海の空気を切り裂きながらゴールネットの右上隅エスクアドラへと向かって一直線に突き刺さっていった。


ズバァァァンッ!!


スタジアムを揺るがすような、凄まじい衝撃音。


静まり返るピッチ。カンテラの天才たちが、ただ呆然と、極東から来た少年の背中を見つめていた。


言葉は要らない。


この瞬間、吉良氏真という名の鳳凰は、圧倒的な「アート」の力で、スペインの青と赤の聖地を完全に制圧したのだ。


(……フフッ。さあ、次はどんな舞台が予を待っているのだろうか。この青と臙脂のピッチも、実に心地よい場所ではないか)


黄金の瞳を輝かせ、未来への知的なワクワク感を全身に漲らせる氏真。


彼の視線の先には、見知らぬ強敵たちとの熱い戦い、そして、自らが思い描く「雅」なサッカーの完成が待っている。


【次回予告】

バルシーノのカンテラで才能を見せつけ、瞬く間にチームのコラソンと認められた氏真。一方、首都マドリードでは、宿敵・織田凱斗が圧倒的なフィジカルでコーチ陣を戦慄させていた。互いの存在を強烈に意識する二人。スペインの地で、ついに「歴史」が交錯する!

第36話:【交差する宿命】。次なる天下へのパスを回せ!


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