真夜中の事故 :約2000文字 :宇宙人
「ヌプアモモア! プアピピバア!」(えらいこっちゃ! やってもうたでえ!)
夜。外灯もまばらな山道を、腹ごなしがてら散歩していたときだった。ふと何気なく見上げた空に、ぽつんと浮かぶ黒い点が目に入った。
鳥か? それとも気球か? いや、ボールか――黒点は異様な速さで膨れ上がっていくかと思えば、実は一直線にこちらへ向かってきており、「あっ」と思った瞬間には、おれの眉から上が跡形もなく吹き飛んでいた。
「ポポアイミニニノノノヌククカアアアビブ!」(現地生物の脳みそぶっ飛ばしてもうた!)
どうやら、おれの頭を消し飛ばしたのは宇宙船の機体の一部だったらしい。船から飛び降りてきた宇宙人は、現場の惨状を見て頭を抱え、地面の上をぴょんぴょん跳ね回った。
「ノモムジュジュガ……ポオノノイムミニノア。ヌアイコウショツ!」(バレたら逮捕やぞ……せや、おじさんは闇医者なんや。まだ間に合うかもしれん!)
宇宙人は慌てて、ブロワーのような機械を取り出した。季節は夏。アスファルトの上に飛び散ったおれの脳みそには、すでに虫が群がり始めていた。だが、宇宙人は器用におれの脳みそだけを吸い上げていった。
きれいさっぱり回収し終えたあと、宇宙人はおれの体を真空パックのような透明な袋に詰めた。その袋を肩に担ぎ、宇宙船の中へと運び込んだ。そして宇宙船はあっという間に地上を離れた。
補足だが、なぜ脳みそが吹き飛んだにもかかわらず、おれがこの一部始終を把握しているかというと、連中がおれの脳みそを再生したからである。
「おじさんおじさん、えらいこっちゃやで!」
「どうしたんだ。藪から棒に」
「新車慣らしとったら、現地生物の頭にブチかましてもうたんや!」
「どれどれ……おお、これはひどいな」
「せやけど、おじさんなら治せるやろ? 頼むわ。捕まりとうないねん。明後日デートなんや!」
「彼らはたしか、指定保護動物だったはずだ。残念ながら無理だ。治療も許されておらんのだ……」
「とか言いつつ、おじさん、このアホたれの身体調べたいんやろ? よだれ垂れとるで」
「ひひひ、こりゃうっかり。あー、オホン。よし、治してやろう。ただし、内緒だぞ」
「おじさん、おきに! このアホクソ、夜中に一人であんな山道ほっつき歩いて、ほんま迷惑なやっちゃで」
“おじさん”なる宇宙人は、バラバラになったおれの脳みそを一つの透明な容器に入れ、そこへ何種類もの薬液を垂らした。すると脳みそは、まるで発酵したパン生地のようにむくむくと膨らみ始めた。ひっつき合い、欠けていた部分までも再生され、そしてその頃には、脳だけの状態のまま、おれは意識を取り戻していた。
どうやら、バラバラの脳の状態でも連中の会話を聞いていたらしく、薬品の効果なのか宇宙人の言葉は自動的に翻訳され、意味として理解できるようになっていた。つまり、おれの脳は大幅にバージョンアップされたわけである。
おじさんは完成した脳みそをおれの体へ戻し、頭蓋骨をかぶせ、皮膚を手際よく縫い合わせていった。
「これでよし……あとは元の場所に戻してやるだけだ」
「おじさん、おおきに! ……って、あかんやん! こいつ、おれらみたいな頭の形しとるで! 違和感ありありや!」
奴らの頭は異様に大きく、額の上に二つ、こぶのような膨らみがあり、中央が少しくぼんでいる。平たく言えば、ケツみたいな形だ。クソみたいな言動をするのも納得である。
「おお、これはうっかりうっかり。ひひひ。つい、我々仕様で仕上げてしまった」
「ほんま頼むでえ。こいつら、脳みそ一個しかないねん。急に二個になったら大騒ぎや。そないなったら、うちの警察の耳に届いて、全部終わりやぞ」
「わかったわかった。かわいい甥っ子のためだ。すぐに一つ取り除いてやろう。ひひひ」
なんと連中には脳みそが二つあるらしい。にもかかわらず、女のことで頭がいっぱいになり、わき見運転をするのだから、一つひとつの性能は大したことがないのだろう。
おじさんはおれの脳みそを一つ切り取り、薬液の入った瓶に浸した。そしてもう一つを頭に戻し、再び縫合し始めた。
「……よし、完了だ」
「おじさん……あんた、天才や」
二人はがっしり抱き合い、背中をばんばん叩き合った。
「あ! でもおじさん。こいつの記憶、どないなってんの? このクソ、誰かにチクるかもわかれへんで」
「それなら問題ない。お前に頭を吹っ飛ばされる直前までの記憶しか残っていないだろう。現場に戻しておけば、『あれ……? 寝てたかあ』くらいに思うはずだ」
「そなら安心や! ふー、一時はどないなることか思たで。ほな、さっそくこのアホ捨ててくるわ!」
「おー、安全運転でな。いひひ」
宇宙人はおれの体を袋に詰め、部屋を出ていった。おじさんは、おれの脳みその片割れが入った瓶を顔の前に掲げ、うっとりと眺め始めた。
おれは今、瓶の中にいる。




