朝食中の訪問者
「はあ、長かった……」
老人並みに長いルナリア姉さんの説教を喰らい続けたあたしはぐったりしていた。異世界にやって来ても、ルナリア姉さんは運命の女神の特権を使ってその姿を現すことが出来る。あたしは亡霊のように浮かんだ姉さんに長い間似たような話を延々と聞かされていた。
疲れ果ててベッドに倒れ込む。そのまま軽く眠りに就けそうだ。キングワイバーンとの戦いの方がいくらかマシだった気がする。
「厳しいねえ、ピョンちゃん」
「今回悪かったのは明らかにタラッサさんですけどね」
小さな翼を持つ使い魔のウサギは容赦ない。まあ、たしかにあたしが悪かったんだろうけどさ。もう少しフォローしてくれたって良くない?
そうは思ったけど、考えてみたらピョンちゃんはルナリア姉さんから付けられた使い魔だから、姉さん側に付くのは当たり前か。うう、くそう。
ふてくされてそのまま眠りに就いてやりたいところだけど、そんなことで時間を無駄にしたくはないよなとも思ったのでさっさと起きることにした。夜通し怒られていたせいでもう朝だ。幸か不幸か、神族のあたしはそれほど疲れていない。
ダラダラしてもしょうがないので、さっさと起きることにした。
そこそこ高い宿なので、起きれば朝食が出る。食堂に行くとスープとパン、あとは手の平サイズの小さなリンゴが大きな皿に積まれていた。あたしはリンゴを五個取ると、コーヒーを飲みながら昨日の失態に想いを馳せていた。
テーブルに着くとリンゴをシャリシャリしながら物思いに耽る。あっという間に五個を食べきったのでおかわりにもう五個のリンゴを手に取ると給仕の人がドン引きしていた。別にいいじゃん、リンゴ好きなんだから。
しかし色々とやらかしたな。
人間の世界に慣れていないのもあるけど、ぽっと出でいきなり最凶クラスの飛竜を倒したのは冒険者たちにとってあまりにも刺激が強すぎたらしい。そうは言われても正直、あの程度の相手に苦戦なんてするわけないし。
あたしの放った勇者たちはどこをほっつき歩いているんだろう?
ここ王都バンクラプトにも勇者として送り出した人たちがたくさん潜んでいるのかな? 正直顔も名前も憶えていないんだけど。
スマホを作ったりウー〇ーのマネごとをしているぐらいだから、好き勝手に生きてスローライフを満喫しようとしている勇者も多数いるんだろうなって思う。異世界は介護施設じゃないんですけど。
でも、それもあたしがちゃんと人選をしなかったことに起因している。あたしがもっと彼らの過去を調べていれば。証言の矛盾を突いて厳密に審査を進めれば……。もうちょっとこの世界の在り方はマシだったかもしれない。
だけど後悔先に立たずってやつだ。あたしの送り出した勇者たちは異世界で好き勝手に生きて、何なら悪事を働いている。あたしが色々とケジメをつけてやらないといけない。
「タラッサ嬢というのは、あなたですかな?」
急にダンディーな声に呼ばれて、視線を上げるとイケオジが立っていた。漆黒の鎧を身に着けたイケオジの顔は凛々しく、目つきは鋭いながらもナチュラルにカッコいい。口ヒゲは綺麗に整えられていて、武骨な戦士のわりにすごく清潔感がある。なんだかハーレクイン小説なら恋でも始まっちゃいそうな雰囲気だった。
「そうですけど、何か?」
あたし的にはエレガントな感じで返したつもりだけど、魔法少女を目指していただけあって大人の女性の発する上品なオーラは皆無。自分でもそれを分かっていて背伸びしたので、数秒には軽く死にたい気分になっている。
「食事中に失礼する。私は王都の騎士団に従事するガルベスという者だ」
「騎士団の人? なんでそんな人がここに?」
ワンナイトカーニバルでも始めるつもりなの、この助っ人外国人って思ってから自分で、美少女設定を粉々にしたことに気付いて死にたくなる。まあ、あたし、見た目が同じだけで結構長い間生きてるから……。
そんな言い訳を自分に向けてしていると、イケオジのガルベスが口を開く。
「貴女の実力はギルドから王都の騎士団にまで届いている。なんでも、キングワイバーンを素手で撲殺したとか?」
撲殺って、もうちょっと言い方あるよね? って思ったけど、言っていることは少しも間違っていなかったのであたしも口をつぐむ。
「にわかには信じがたい。というか、私はとんだ与太話ではないかと思っている」
「ですよね~」
「して、貴女に一つ訊きたい。巷でまことしやかに流れている噂は本当なのか?」
「え~まあ、それは本当というか、本当じゃないというか~」
メチャクチャ怪しい回答をしながら、あたしは思考を巡らせていた。どっちで答えるのが正解なんだろう?
これって「はい、そうです。あたしがワイバーンを皆殺しにしました」って言えば「魔女がいるぞ」って言われてしょっ引かれてしまうパターンなんだろうか。まあ、そうなったところで返り討ちには出来るんだけどさ。でも、それをやったらあたし自身が魔王を超える厄災になってしまう。「女神のタラッサは異世界で厄災と呼ばれた」なんて結末は避けないといけない。そんなことをすればルナリア姉さんから数万年はそのネタで擦られ続けるに違いない。
チラっとイケオジを見ると、真っすぐな目であたしのことをガン見している。これは逃がす気がないみたい。
「はい、まあ、ちょっと運が良かっただけですよ」
苦肉の策として、ラッキーで勝てたストーリーラインで話を進める。今後は「楽勝だった」とか「相手がザコだった」とか言わないようにしないと。
でも、考えてみたらこの答えって結局キングワイバーンを素手で倒したことを認めたってことなんだよな。あ~失敗したかも。あたしはすっとぼけた顔で嫌な汗をかいていた。
「突然の申し出ですまないが、貴女に協力を願いたい」
「協力、ですか……。そりゃ一体何の?」
「詳しい話は騎士団長に会って聞いていただきたい。この後すぐにでも我々のところへ来てもらえぬか?」
と、すごい圧をかけてくるガルベスさん。いや、怖いって。絶対に断れないパターンだよね、これ?
とはいえ、ギルドのモンスターが原因でこのコルヴム・パラディスという世界が荒れているようにも感じられなかった。もしかしたら、ガルベスに付いていくことで何かが分かるかもしれない。女神の勘っていうか、この世界を統治する者だけに感じ取れる匂いがした。
「分かりました。力になれるかは分かりませんけど」
「感謝する。それでは準備が出来たらすぐに言ってほしい。外で馬車を用意して待っている」
良かった、リムジンで待ってるとか言い出さなくて。でも、この感じだとト〇タとか〇産みたいなメーカーを新たに作り出す人が出てきてもおかしくないよね。
うん、それはまずい。別にコルヴム・パラディスが栄えるのはいいんだけど、無秩序にそこの歴史や文明が破壊されていくはきっといいことじゃない。
なんだかあたしがテキトーにやってきたお仕事のツケが、この世界に多大な影響を及ぼしている感じがある。ルナリア姉さんに言われた落とし前が、取り返しのつくレベルにあればいいけど……。
そんなことを思いながら、あたしは残りのリンゴを一気にたいらげた。




