ギルド激震
ワイバーン討伐のクエストを完遂したあたしは、王都バンクラプトのギルドへと戻って来た。
無言の帰宅にでもなると思っていたのか、前回にあたしの相手をしたポニーテールの受付嬢はひどく驚いていた。
「戻って来たよ」
「……良かった。生きていたのですね」
「それだけじゃないよ、ワイバーンも倒してきたから」
そう言ってあたしは背負ってきた袋から巨大なワイバーンの生首を取り出す。首を床に置いただけでドンと軽い揺れが起きた。ギルド中の空気が一瞬にして凍り付く。
「え? あの? これは……?」
ドン引きながらも何とかプロの矜持で自我を保ち、ポニテの受付嬢が訊いてくる。
「他のワイバーンも倒してきたんだけどさ、軒並み黒焦げになっちゃったんだよね。炭の塊を持ってきてもしょうがないし、それなら最後に出てきた大ボスの頭を切り落として持って来た方が早いかなって思ったから本当に持って来たの」
「これって、キングワイバーンではなくって?」
受付嬢のドン引き具合がさらに加速していく。そりゃそうか、こんなでっかい魔物の首だけを持ってきたらそうなるよね。
「よく知らないけど、このでっかい奴ってキングワイバーンって言うの?」
周囲がざわつきだしている。変に注目を集めているのが嫌だった。あたしをガン見する冒険者の一人が口を開く。
「そうだ。これはたしかにキングワイバーンだ。俺も話でしか聞いたことがないけど」
「おじさん、そのキングワイバーンってすごいの?」
「すごいも何も、出会ったら死が確定すると言われるほどの災害級モンスターだ。まさか、本当に存在するなんて」
「あらそうなの。たしかに魔法が効かないから殴って倒したんだけどね」
「「「ファ!?」」」
あたしの言葉に、ギルド中の人々が変な声を出す。え? なに? なんかまずいこと言った?
ざわつきが止まらないギルド。おじさんの冒険者が幻聴でも聞いたかのように耳に手を当てながら訊く。
「あの……今、殴ってと言いましたか?」
「うん、素手でバコーンとね」
そう言った瞬間、ギルド全体の時が止まる。時空魔法なんか使えたっけ、あたし?
時間差でさすがにワイバーンを素手で撲殺する魔法少女はおかしいことに気付いてハッとした。当然のこと、時すでに遅し。
「バケモノじゃん」
「ああ、バケモノだ」
「人間ちゃうな」
「魔人とかの亜種じゃねえの?」
「さすがに嘘だろ」
「じゃああのワイバーンの首は何なんだよ」
「ありえない。俺の剣でもまったく傷付けられなかったほど固い肌なのに」
「騎士さん涙目おつかれしゃーす」
ざわつきが大きくなっていく。とりあえず、あたしは今途轍もない失言をしたらしいことだけは分かった。ここに長居するべきじゃない。あたしの勘がそう言っていた。
「じゃあ、あたしはこれで」
とりあえず強引にでも引き返すことにした。
何やってんだ、あたし。悪い勇者たちを止めるためにコルヴム・パラディスに来たのに、気付けば上位モンスターを圧倒的な力で叩き潰して悪目立ちしている。
こんなはずじゃなかったのに……。
それでもタダでここを去るのも癪だったので、さっさと報酬を受け取ってギルドを後にした。
翌日になってすぐ、サクリファイスの丘で一般人の通行許可が下りたニュースと、キングワイバーンを素手で撲殺した恐るべき女がいるらしいという噂が王都中に広がっていった。
この世界にSNSで晒す文化が無くて良かった。もしスマホで撮られてツイッターにでも流されたら、今頃あたしは有名人になって秘密の任務どころじゃなくなっていただろう。
ピョンちゃんにことの顛末をバラされたあたしは、ルナリア姉さんに長い長い説教を喰らうこととなった。




