勇者たちの尻ぬぐい
ギルドを出ると、スマホに自動送信されてきたクエストの詳細を見てみる。
◆ワイバーン討伐◆
通常は山に潜んでいるはずのワイバーンがたびたび家畜や人間を襲う事件が頻発しています。王都の騎士団が討伐をするも、その凶暴さから手を焼いている模様。どこで討伐しても褒章金は変わりませんが、サクリファイスの丘で襲撃に遭う人が増えています。討伐の報酬は一匹につき三十万ボリーノ。ワイバーンのヌシを討伐すれば三百万ボリーノの賞金が出ます。
「ボリーノ?」
「コルヴム・パラディスの通貨ですね」
あたしの疑問に、肩に乗ったウサギのピョンちゃんが答える。
「このクエストを見る限りだけどさ、ここの人たちは野生のモンスターに困っているみたいだね」
「そうですね。ワイバーンって空を飛ぶ竜ですから、熊よりも出会ったら絶望的な状況になるでしょうね」
ピョンちゃんに言われて、ギルドの受付嬢がどうして涙目になったのか分かった気がした。たしかに「これから熊に戦いを挑むぜ」って言っている武道家がいたら止める方が普通かも。
伏線回収はともかくとして、あたしの挑もうとしているモンスターはガチで強そうな感じだった。
「で、どうするんです? 本当にワイバーンを討伐するんですか?」
ピョンちゃんが嫌味たっぷりに訊く。巻き添えは御免だとばかりに。
「もちろん行くに決まってるでしょ。あたしは約束をちゃんと守る主義なの」
「はあ、そうですか」
あんまり信頼されていないのか、ピョンちゃんのセリフは棒読みだった。ウサギの仏頂面を眺めていると、あたしはあることに気付いた。
「でもさ、思えばワイバーンが悪さしているのって、あたしの仕事と関係なくない?」
「たしかにそうですね。まあ、送り込まれた勇者たちが暴れている魔物をスルーしているって意味では十分に問題があるんですけど」
ピョンちゃんの言う通り、ワイバーンのせいで困っている人がたくさんいるのに何もしない勇者たちはどこで何をしているのだろう? 異世界転生させる前の審査では、どの人も真面目に見えたのにな。いざ異世界に来たらスマホを作ったりウーバーのニセ会社を作る方が楽しかったんだろうな。
とはいえワイバーンのせいで王都やその付近で甚大な被害が生まれているのは間違いない。あたしとしては、悪さをしでかすモンスターどもを野放しにしておくわけにもいかない。
ちょっとお門違いな気がしないでもないけど、困っている人がたくさんいるのであれば助けてあげよう。だって、あたしは一応女神サマだから。
スマホに送られてきた地図を見ると、緑色のフィールドにピンの立つ演出があって、サクリファイスの丘の場所が示される。どうやらここが狩場みたい。距離も王都をちょっと外れたぐらいの所だから、その気になればすぐに着くはず。
それじゃあ一丁、人助けでもやってみましょうか。
あたしの送り出した勇者たちが機能していないんだから、こうやって尻ぬぐいをするのもお仕事の一つだよね。
自分にそう言い聞かせると、あたしはサクリファイスの丘を目指して歩きはじめた。




