命知らずのクエスト受注
「いらっしゃいませ。クエストをお探しですか?」
ギルドに入ると、デザインはかわいいけどやたらフリルの多いブラウスの制服を来た受付嬢があたし達を迎えてくれる。ブラウスの下は黒いスカートで、砂時計みたいに細い腰回りの女性ばかり。それだけ見れば、支配人が見た目でギルド嬢の採用していることが読み取れた。カウンターにずらっと並んだギルド嬢は、やたらとポニーテールの率が高かった。これも支配人の趣味なんじゃないか。
制服好きのオッサンたちがいかにも好きそうな見た目をした女性の一人があたしの相手をする。
「あの、なんか良さそうなお仕事があればって思ってるんですけど」
自分で言ってから、一番ハローワークの相談員を困らせる質問を言ったなって思う。自分で何をやりたいか決めていなくて、相手にすべてを委ねる物言い。きっと今の一言で担当のポニテはあたしのことを面倒くさい客だと思ったはず。
「クエスタグラムはダウンロードしていますか?」
「クエスタグラム? 何それ」
訊いた瞬間にポニテの笑顔が引きつる。はい、二個目の地雷を踏みました。その表情から相当愚かな質問をしたんだろうなってことぐらいはあたしでも分かる。
「クエスタグラムというのはギルドの仕事を請け負うために必要なアプリです。使ったことはありませんか?」
ポニテはまるで、老人にスマホの使い方を教えるような口調で言う。うう、やめろ。その優しさが、あたしの自尊心を傷付けるんだから。
「ごめんなさいね。世間知らずで」
「いいえ、そういう冒険者様もいらっしゃいますから」
それって老人の冒険者たちの話だよね? という言葉は言わずに飲みこんだ。
とりあえずスマホは出せるので、時空のはざまに手を突っ込んで誰のかも知らないスマホを拝借する。地球側では誰かのスマホが神隠しみたいに忽然と消える怪現象が起きているはずだけど、それは運が悪かったと思ってもらうしかない。
スマホを手に入れると、受付嬢に言われてクエスタグラムをダウンロードする。うん、要はメジャーなSNSのパクリなんだろうね。こっちの世界でもインスタとか欲しいよなって思った人がいたんだろうね。
アプリを開くと、現在受注可能なクエストがずらーっと出てくる。ゲームでもしているみたいなビジュアルだった。
「その中から、それぞれのレベルに合わせたクエストの選択が可能になります。好きなのを選んだら、私に教えて下さい」
お姉さんの言葉に従ってスマホをいじくると、ずらっと並んだクエストがサーっと流れていく。「スライム討伐」みたいな子供向けのものから、どんどん討伐相手のモンスターが強くなっていく感じ。
「じゃあ、とりあえずこれにしてみようかな」
あたしは目についたクエストを選択する。
「お客様、それはちょっと……」
またお姉さんの顔が引きつる。嫌な汗をかいているようだった。
「何か問題でも?」
あたしが選んだのは「ワイバーン討伐」のクエストだった。
「お客様、ワイバーンというのはですね、こう……何て言うか、とっても凶悪なモンスターなんです。分かりますか」
「いや、それぐらいあたしだって知ってるし」
「一応ですけど、犬や猫を相手にするのとはワケが違いますよ?」
「うるさいなあ。スライムなんか虐待しているヒマがあったら、これぐらいの相手を選んだ方がいいに決まっているじゃない」
ポニテのお姉さんが天を仰ぐ。まるで神に許しでも乞うみたいに。いや、目の前のあたしが神様なんですけど。
「もう一度訊きますけど、本当にいいんですか? 失敗をすればまず命が助からないと思いますけど」
「安心して。こう見えてもあたし強いから」
あたしの言葉がまるで信じられないのか、ポニテのお姉さんがため息を吐く。「分かりました」と言ってから虚空に十字を切ると、クエストの受注がなされたのを端末で確認して手続きを行った。
「これで手続きが終わりましたので、後はスマホに送られてくる地図をもとに討伐を開始して下さい」
「ありがとう。それじゃあ頑張るからね」
「最後にですけど、どんなお仕事も健康があってこそ出来るものです。死んでしまえば元も子もありません」
「うん」
「ですから、危ないと思ったら一目散に逃げて下さい」
20世紀少年で聞いたようなセリフを吐くお姉さんの目にはうっすらと涙が溜まっているように見えた。なんだかあたしの挙動がトラウマを刺激してしまったらしい。
まあ、大丈夫だよ。あたし、一応運命の女神だし。見た目はロリ顔の桃色ツインテールだけど、あなたを悲しませるようなことなんてしないからさ。
そうは思ったけど本当のことを言うわけにもいかないのであたしはギルドを後にする。周囲から視線が注がれるのを感じる。きっと誰もがバカな冒険者が死にに行くのを見ているような気分なんだろうな。
まあいいや。とりあえずモンスター討伐で遊んで来よう。




