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文明の利器

 ギルドに行く途中で、あたしはこの世界でありえないものを目にした。


 なんかこの世界にしては高そうな自転車に乗った若者が、でっかいバックパックを背負ってペダルを漕いでいる。なんか、ウー〇-イーツを思い出させる。いや、っていうか思いっきりウー〇-イーツの人だよね、あれ?


 まあ、地球から呼び寄せた勇者たちはこちら側にも多数存在するわけで、中世っぽい世界にしては先鋭的過ぎる自転車があっても何ら不思議はない。転生者の中には色んな技術職の人もいるだろうし。


 あたしはウー〇-イーツの人を異世界転生させたのだろうか?


 まったく記憶がない。だけど、そういう人がいるってことはそういうことなんだろうとは思う。


 でも、たしかに馬車しか移動ツールの無い世界で自転車があったら便利だよね、とは思う。飛脚みたいに人力の物流だと果てしなく時間がかかるし、このシステムをコルヴム・パラディスに持ちこんだ人って今頃大金持ちになっているかも。


 そんなことを思っていると、ウー〇-イーツのお兄さんがポケットからちょっと大きめのカード大のものを取り出す。


「あっ」


 あたしは思わず声を出した。ウー〇-お兄さんはその端末を指で操作して、地図を確認していた。


「スマホですよね、あれ」


 あたしよりも先に、肩に乗ったウサギのピョンちゃんが言う。


「ちょっと待って。ここって一応、ナーロッパって呼ばれている中世風の世界観だよね?」


 ナーロッパっていうのは、「小説家〇なろう」あたりで用いられる中世ヨーロッパ風の世界観のことだ。一言で「異世界」で片づけられることが多いけど。


 そんな世界にスマホが存在していいはずがない。世界観がブチ壊しになる。


「こんなの、許されるの?」

「許されるも何も、この世界にスマホが存在するのは事実ですからね。それ以上の話はしようがないし」

「ねえ、どうしてここにスマホが存在しているの?」

「考えられる理由としては、スマホの技術者か何かが『勇者』の誰かに混ざっていた感じですかねえ」

「いや、でもさ。電気の問題とか、色々あるよ?」

「そこは魔力とか魔石もあるから、上手くやったんじゃないですかね。だましだまし」

「だましだまし……」


 バカみたいにオウム返しして、あたしはちょっとの間思考停止でフリーズする。ルナリア姉さんがどうして怒っていたのか、ちょっとだけ分かった気がした。十秒近く停止していたあたしは、ハッとして我に返る。


「ってことはさ、スマホの登場でここの人たちの生活基盤そのものが変わっていることになるよね?」

「そうですね。少なくともこの王都バンクラプトでは」


 気付いてから、自電車で街中を走り回るウー〇-お兄さんが思っているよりも多かったことに気付いた。ガチでこの世界を根底から変えようとしている「勇者」がいるらしい。


「まあ、でも? スマホがあればこの世界も便利にはなるわけだし?」


 ある種の自己弁護みたいに言うあたしは変な汗をかいていた。誰に向かって弁明しているのかは自分でも分からない。


「そうですね。スマホの利便性だけが上手いこと引き継がれていればいいんですけどね」

「そんな嫌味を言わなくても良くない?」

「嫌味ではないですよ。ただ、バカに文明の利器を与えてどうなるかなって思った個人の感想を言っているだけです」


 遠くを見つめるピョンちゃんの表情からは感情が読み取れない。いや、今のって絶対に嫌味だったよね?


 そんなことを思いつつも、異世界にスマホが存在することが明らかになった。あたしがテキトーに勇者たちの選別をしてきたツケは、早くも自分に回ってきそうな気がした。


 そして、その嫌な予感は決して間違いではなかったと割とすぐに思い知らされることになる。

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