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魔法少女の雷神拳

「あの、生きてます……?」


 結婚式の参列者に訊かれて、あたしはハッとした。


 しまった。生きていることに安心して気絶している場合じゃなかった。空の向こうにはまだ旋回している飛行艇が見えた。今頃エルウィン騎士団長はあたしの不時着を見てドン引きしている頃だろう。


「大丈夫、生きてますよ」


 とにかく明るく振舞い、あたしは跳ね起きで復活する。周囲からどよめきが起こった。


「なんだ君は」


 時間差であたしに気付いたリュシアンは顔を歪める。


「なんだ君はってか」


 あたしは全身の骨をゴキゴキ鳴らしながらエレオノーラ様と詐欺師のもとへと近付いていく。エレオノーラ様もあたしに気付いて驚いていた。


「そうです、あたしが結婚詐欺師をシバきに来た魔法少女です」

「そこは『変なおじさん』とは名乗らないんですね」


 ピョンちゃんのツッコミを無視しつつ、あたしはさらに距離を詰めていく。


「あなたは、チート能力を悪用した」

「何のことかな?」

「ふん、猿芝居もそこそこにしておきなさい。あなたが使っている【パーフェクト・ダーリン】、防御耐性無視のチャーム攻撃よね」

「さあ、知らないな。もしかしたら俺にそういう才能があったのかもしれないが」

「あらそう、そうやってシラを切るのね。じゃあいいわ。それなら力づくで吐かせるだけだから」

「これのどこが魔法少女なんでしょうね……」


 ピョンちゃんを無視して、あたしは臨戦態勢に入る。エレオノーラ様は心配そうにあたし達を交互に見つめていた。


「二人とも、やめてちょうだい。私はあなた達が争うところを見たくないわ」

「安心して下さい、エレオノーラ様。あなたはこいつの技にかかっているだけです。こいつを倒せば、すぐにこいつがしょうもない結婚詐欺師だって気付きますよ」

「戯れ言を。祝宴の機会に泥を塗った罪、しっかりと贖うがいい」


 リュシアンの目つきが鋭くなる。不良転生者としての本性を垣間見せた。


 だけど、あたしは運命の女神だからね。どっちの方が上か、ここで教えてあげるよ。


「死ねうらああああああああ!」


 無詠唱でラピッドの魔法を自分にかけると、あたしは一気に踏み込んだ。文字通り弾丸よりも速く相手に飛び込んでいく。


 薄笑いを浮かべるリュシアン。そのツラに、必殺の一撃を叩き込んでやるんだから!


 ふいにカインの瞳が金色に輝いた。しまった、【パーフェクト・ダーリン】をクロスカウンターのタイミングで使われた。勢いで止まれず、耐性無視の魅了スキルの発動する空間へとあたしは足を踏み入れてしまった。


 桃色の、空間。空気が甘く、頬が熱くなる。あたしの理性が歪んでいく。すぐに、何も考えられなくなった。


「なあ、タラッサ。君は俺のことが好きだろう」


 甘い声。あたしは知らぬ間に頷いていた。


「俺にとって、君は大切な人だ。だからこんなことはもうやめよう。そうして、ひと気のないところで二人ひっそりと暮らすんだ。素敵な未来だと思わないか?」


 ああ、うう。なんか、そんな未来も悪くないかも。


 なんだか、運命の女神をやっているのも馬鹿らしくなってきちゃった……。


「リュシアン様、あなたの膝の上でモフられたいのです」


 ハッとして肩を見ると、チャームがかかってよだれを垂らしたピョンちゃんが映った。


 ――しまった、あたしも落とされるところだった。


 冷静になったあたしは、衝撃波でチャームの効力を吹き飛ばす。スキル発動のフィールドを包み込む、ガラスみたいな壁が一気にバリンと割れた。


「そんな、バカな……」


 動揺するリュシアン。結婚詐欺師が、初めてひどく狼狽した表情を見せた。


「ふざけんじゃないわよ。誰かを好きになって、それで付いて行って、何もかも奪われて捨てられるなんて、そんなことがあっていいわけないでしょ!」

「クソ、もう一度【パーフェクト・ダーリン】を使えば……」

「させるかアホ!」


 あたしは一気に距離を詰めると、リュシアンの顔面に渾身の右を叩き込む。


「ぶべえっ……!」


 リュシアンは吹っ飛んでチャペルの壁に激突。詐欺師の体を中心に、蜘蛛の巣状のヒビがビキビキビキと広がっていく。


「あんたみたいな詐欺師がいるから……!」


 追撃でキリストのように壁へめり込んだリュシアンの腹に右ストレートを叩き込む。衝撃とともに、詐欺師はあまりの威力に目を見開いていた。


「女の子がみんな不幸になるんでしょうがあああああああ‼」


 そのままフルスイングの右アッパーでリュシアンの顎を打ち抜いた。轟音とともに、リュシアンの体は大空高く舞い上がっていく。


 しばらくすると、伝説の雷神拳を喰らった結婚詐欺師は落ちてきた。激しい音とともに、すっかり汚れたタキシードをまとった体がバウンドする。誰が見ても疑いようのないノックアウトだった。


「これ、死んだんじゃないですか?」

「大丈夫よ、これぐらいじゃ死なないから」


 さすがに怖かったのか、嘘結婚式の参列者がわれ先にと逃げていく。


「俺の、完璧な作、戦が……」


 虫の息となったリュシアンが呻く。まだ意識はあったみたい。


「乙女心をもてあそぶから、こういう目に遭うのよ」


 あたしは動けなくなった敵に言い放つ。


 色々とアクシデントはあったけど、これで国際ロマンス詐欺の主犯を捕まえることが出来た。このバカも二度と同じ犯罪に手を染めようとは思わないだろう。


「しかし右フックに右ボディー、そして右アッパーと、魔法少女の要素ってどこにあったんでしょうね……」


 ピョンちゃんの言葉を無視して、あたしは太陽を見上げた。この太陽がどんな闇でも照らし出すように、悪はあたしから逃れることは出来ない。


「任務完了」


 あたしは太陽に向かって、拳を突き上げた。

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