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裁きの轟音

 豪華飛行艇のシルバーペガサス号が王都の街から離陸していく。


 コルヴム・パラディスの世界に飛行艇なんてあったっけ? きっとラピュタが好きな転生者たちに飛行機の設計士とかがいたんだろうな。知らんけど。乗り心地は結構快適だった。


 一等客室は静かで優雅……のはずが、エレオノーラ様は完全に暴走中。


「リュシアン……早く、会いたい」


 恋する乙女の顔で窓からを大空を眺めるエレオノーラ様。今の彼女に何を言おうが情報は入っていかない。厄介な状況に、あたしはエレオノーラ様の隣で舌打ちを堪えながら延々と貧乏揺すりをしていた。


 不健康な精神状態で三時間も過ごすと、隣国であるサルヴァドール王国の上空まで来た。


 着陸まであと三十分というところで、聞いたことのある声が機内に響き渡る。


「まあまあ~! こんなところにエレオノーラ様じゃない!」


 甘ったるい声とともに、見たことのある金髪美女が現れる。


 ミラ・マジビッチ――胸元全開のパーティードレスに、やたらとでかいサングラス。叶姉妹のバッタ物みたいで完全に怪しい。


「あらミラさん、あなたまでこの飛行艇に?」

「ええ~、もちろんですとも。実はリュシアン様が『エレオノーラにだけ会いたい』って言っていて。今から特別室にご案内しますよぉ~」

「ウソ⁉ リュシアン様はこの飛空艇に乗っているの?」

「あ、ごめんなさい。これって本当はサプライズのはずだったんですよね。テヘ♡」


 ミラが舌を出して照れ隠しをする。白々しい演技。こいつの「ポロリ」は確信犯だ。大根役者にもほどがある。


 それでも恋は盲目となるせいか、当のエレオノーラ様は目をキラキラさせている。


「本当に⁉ 行くわ、すぐに!」


 あーもう何してんの。あたしは静かに立ちはだる。


「ちょっと待ってください。特別室って、どこにあるんですか?」


 ミラが嘘くさい笑顔で答える。


「屋上デッキですよん。ヘリで直接病院まで搬送する手筈になってるから」


 屋上デッキにヘリ? この飛行艇にそんなものはない。そんなことをすれば、飛行艇のデッキから離陸する時にバランスを崩して墜落してしまう。とっさに吐いた嘘にしても、ずいぶんとお粗末だなって印象を受けた。


 だけど、問題はそこじゃない。きっとリュシアンことゲシュタルト・フォン・カインはそこからエレオノーラ様を誘拐しようとしているのだろう。それでどこかに監禁して、お金をすべて吸い上げてからポイ。いかにもこいつらのやりそうな手口だ。


「ダメです、エレオノーラ様。この女の言っていることはまったくのデタラメです。飛行艇からヘリなんかが飛べるはずがない。きっとバカだからそんなことにも気付けないだけの小悪党なんです!」


 あたしがその場に押さえつけようとすると、エレオノーラ様が手を振り払おうとする。


「邪魔しないで、リュシアン様が待ってるの!」


 エレオノーラ様はチャーム状態が抜けておらず、なおも抵抗を続ける。このままでは埒が明かない。


 そうだね、もうこうなったら力技を使うしかないよね。


 あたしは封じ込めていた力を一気に開放する。あたしを中心にして同心円状に風が吹き、飛行艇が揺れる。他の乗客たちから悲鳴が上がった。


 プリ〇ュアよろしく、あたしは悪の前に立ちはだかる正義のツインテールと化す。


「伯母様、そろそろ目を覚まして下さい」

「あなた……本当にタラッサ嬢なの? 何だか、」


 エレオノーラ様はそれ以上言えなかった。何だかバケモノにでも見えたのか、それとも魔王か何かにでも見えたのか。いずれにしても、そんなことはあたしにとってどうでもいい。


 さっきまで余裕をぶっこいていたミラの顔が一気に青ざめる。


「なに、このオーラ……? ガチでヤベーんですけど」


 そうだね、君は老婆に変装したあたしの姿しか知らないだろうからね。あたしはあえて昨日プリンセス・ドリームへと潜入した時の、老婆のそれに声色を変える。


「わたくし、リュシアン様と結婚出来るとあなたから聞いたのに、話が違うのではないですか?」

「あんた、その声は……!」


 バカギャルの知能でも、昨日出会った老婆の正体があたしだと理解しはじめたみたいだった。


「さてと、頭の悪いキャバ嬢さん。ここでゲームオーバーだよ」

「ま、まさか……あのババアが……⁉」

「当ったりー。ちょっと遅かったけどね」


 言い終わりに右ストレート。轟音とともに、ミラの体が車にでも撥ねられたみたいに吹っ飛ぶ。


 客室が騒然とする。ボクシングの試合ですら、こんな吹っ飛び方をして倒される人はいない。情報量が多過ぎてパニックになっているようだった。


 あたしはピョンちゃんを肩に乗せ、倒れたミラの前に仁王立ちした。


「あたしは運命の女神、タラッサ。今からあなたを国際ロマンス詐欺の容疑で逮捕します」


「令状は、あるのかよ……!」


 ミラは口から血を流しながら這い上がる。意外に賢いところを見せるなって思ったけど、異世界であるここに地球のルールは存在しない。あたしはその言葉を無視して、ミラへと距離を詰めて行った。


「クソ、こうなったら……!」


 ミラが謎のスプレーを噴射した。催涙スプレーか、それとも熊用かは知らないけど、それをまともに喰らうほどあたしもアホじゃない。


 光魔法のバリアでスプレーの効果を消し去ると、呆然とするミラめがけて一気に踏み込む。


「甘い」


 その言葉を言い終わる頃に、飛行艇に轟音が響いた。


 ――飛びこんでの左フック。マイク・タイソンが数多の敵を葬り去ってきた必殺の一撃が、悪徳転生者の顔面をとらえた。


 文字通りに吹っ飛ばされたミラは、床になんどもバウンドして大の字になった。


 ――このギャル、死んだんじゃね?


 何人もの人にそんな言葉が浮かぶ中、あたしは倒れたミラのもとへと歩いていく。


 あたしは気絶したミラの髪を掴み上げ、キス出来る距離で思いっきり睨みつける。


「答えんかい、コラ。お前らの描いている絵図はなんや」


 関西のマル暴刑事モードで圧をかける。ホシを脅すのに、これほど効果的な手は無い。


 気絶させてもらえなかったミラは、半泣きの震える声で吐いた。


「……百億ボリーノを貯めて、帰還チートを買うため……。貴族たちから金を巻き上げて、地球に帰る資金を……」 


 何となく、そんなこったろうかと思ったよという答えが返ってくる。怒りに震えそうになりながら、静かに拳を握りしめた。


「帰還チートなんて、最初から存在しない」

「え……?」

「そんなもの、誰かがテキトーに流した嘘に決まっているじゃない。根本的に生き方を変えないのであれば、転生後の世界でもただ地獄が続いていく。それも、自分でその道を選んだって知った状態でね。お前らは一生、この世界でクズのまま生きていくしかない」


 ミラの瞳から光が消える。ショックというより、どこか分かっていた事実を突きつけられたような表情に見えた。


 エレオノーラ様が、ポロポロと涙をこぼし始める。


「そんな……リュシアン様は、仲間を騙していたって言うの……?」


 あたしは優しく伯母様の肩を抱く。何か言葉をかけるよりも、その方が正しいように思えた。


 静寂が訪れる中、飛行艇はサルヴァドール王国へと着陸態勢に入る。


 さて、本当の戦場はここからだ。


 偽ロー〇ンド――ゲシュタルト・フォン・カインはこの先に待っている。


 次こそ、決着をつけてやる。

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