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蛇の道は蛇

 屋敷を追い出されたあたしは、馬車の中で拳を握りしめたまま震えていた。


「くそー。あのニセロー〇ンド、絶対に許さない!」

「あの、怒るのは分かりますけど……とりあえず冷静に」


 使い魔のウサギになだめられる女神。何万年経っても精神年齢は子供のまま変わらない。


「あいつ、絶対に転生者ですよね。地球のホテル名とかロー〇ンドの顔とか、こっちの人がそれを知ってるわけがない」

「当たり前でしょ。でも、あんな奴転生させた覚えが無いんだよね」

「そりゃあ、顔を変えていれば……」


 いくらあたしが神だからと言って、転生後に顔を変えられたら元が誰なのかも分からない。本当に際限なく全知全能だったら良かったんだけどね。


 だけど、神だって何でもかんでも憶えているわけじゃない。そういう時のためにも対処法はある。


 あたしは即座に女神の権限で転生者データベースを閲覧することにした。


 指先で空中にウィンドウを展開し、顔認証検索を走らせる。地球で言うア〇パッドが電子化されて虚空に浮いているのをイメージしてもらうと、大体はそんな見た目のエア端末が出てくる。


 あいつの顔はさっきの会話で取り込んで保存してある。画像検索っていうか、顔面検索やら声とかであたしのデータベースで色々と検索をかけてみる。でも――


 ……該当者ゼロ。


「え……? なんで???」


 もう一度、声紋・口調・知識パターンまで含めて総当たり検索。どれかで引っかかるはず。だって、コルヴム・パラディスの転生者は絶対にあたしを経由するはずなんだから。


 だけど、どれだけ検索をかけようが、あのリュシアンとかいう結婚詐欺師は検索結果に出てこなかった。


「どういうこと?」

「検索結果に出てこないってことは、データベースにいないってことですね」

「そりゃそうでしょ。進次郎みたいなことを言わないでよ」


 当たり前のことを言いだしたピョンちゃんにツッコみながら、あたしの中にはある考えが浮かんだ。


「リストにいないってことは……もしかして正規ルートで転生してない?」


 ピョンちゃんが耳をピクッと立てる。


「つまり、無許可転生……いわゆる密航者ってやつですね。つまりは、運命の女神のを『すり抜けて』コルヴム・パラディスに潜り込んだ転生者ってこと」


 それを聞いて、背筋がゾクッとした。


 コルヴム・パラディスへの転生者は、あたしが地球人の死後、無作為に魂を拾って異世界へと送っている。


 でも、まれに「抜け道」を使う奴らがいるっていう噂はあった。どうやってそれをしているのかは知らないけど。


 あのニセロー〇ンドがそういう人だとしたら……?


 あたしの管理外でチートを手に入れた、完全なる無法者。それは、コルヴム・パラディスに現れた完全なる異物となる。


「……もしかしたら、最悪の敵かもしれない」


 この世界にいる異物は、あたしのあずかり知らない知識やら能力を持っている可能性がある。それが人畜無害なら問題ないけど、そもそもそんな「すり抜け」をする奴らがそんなまともな人間のはずがなくて……。


「匂うわね」

「え? ボクですか? たしかにウサギは風呂に入らないですからね」

「そうじゃなくって、あいつらって組織的に犯罪をする前に、きっとどこかで終結する場所があるはずなの」

「ああ、まあたしかに」


 いくらチート能力があるとはいえ、一人で出来ることには限りがある。それは悪党も同じことだから、彼らはどこかで寄り集まってアイディアを出して、それから力を合わせて悪事を実行しているに違いない。


 だけど、そんなのどこで……? 酒場でそんな話をしていたら誰かが聞いて通報するだろうし、そこまでバカでもないと思うんだけど。


「あ」

「……なんか分かりました?」


 考えてみたら、クエスタグラムにヘルワークと地球にあるアプリやサイトをそのままこっちに転用しているのだから、それ関係のコミュニティやらアプリがあるのではないか。


「ちょっと検索してみるね」


 あたしはスマホを手に「仲間」やら「ホワイト案件」やら色々と検索ワードを打ちこんで色々と探ってみる。ヘルワークが出てくるので、ヘルワーク案件は除くようにフィルターをかけた。


「うわ、ビンゴ」


 おそらく世界で一番テンションの低い「ビンゴ」を口にしたあたしは、見つけたサイトを見て回った。そこには地球で言う5ちゃんねるみたいな掲示板があって、「闇ヲチ板」と書かれているサイトがあった。


 中身を見ると、転生した奴らの犯罪自慢があちこちに書かれていて、どいつもこいつも自分がいかにヤバい奴かを競ってアピールしている。


「うっわ、なんですか、このヤバい人たち」


 ピョンちゃんもドン引きするレベルのクソスレに強盗やら性犯罪の自慢が書き散らされている。


「クソスレではあるけど、ここを探ったら何か出てくるかも」


 正直、可及的速やかに脱したいクソコミュニティであることは間違いないけど。それでも蛇の道は蛇ってやつだ。ここのログを辿るだけでも、ゴミの中に本物の情報が混ざっている可能性はある。


「とりあえず、移動しながら情報収集よ」

「難儀ですね。まあ、頑張って下さい」


 ピョンちゃんは速攻で関わらないことに決めたらしい。使い魔のくせに。


 まあいい。どうせ情報の選別になると、あたしが自分でやるしかなくなる。地味な作業ではあるけど、少しずつでも真実を見つけ出していかなくちゃ。

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