異世界国際ロマンス詐欺
犯人の逮捕までだいぶ苦労したけど、ジョン・ランサムの引き起こした侯爵、エロサイトでランサムウェア感染事件は幕を閉じた。
半殺しにしたジョンは騎士団に引き渡し、傷が癒えたら地獄の取り調べと起訴が待っている。転生後もデスマに苦しんだゆえの闇堕ちだったので、そこには情状酌量の余地もあるかなということで刑期を短くしてもらえるように助けてあげるつもり。
だって、彼を不幸にするために異世界転生をさせたんじゃないしね。生きていたって生まれ変わることは出来るんだって教えてあげるつもり。
さて、あたしはデュラン・デュラン侯爵のもとへと事件秋決の報告に向かった。
かつては死にそうな顔をしていた侯爵も犯人逮捕には安堵したようで、失いそうだったお金よりも彼の名声を守ったことでとても感謝された。
「良かった……あのイキ顔が世界中に拡散されていたら、私は生きていけたか自信が無い……。本当に感謝するよ」
「そんな、あたしは依頼を受けて犯人を捕まえただけですから」
そうは言いつつも、あの動画が拡散していたらこのイケオジも社会的どころかガチで死んでいたのかなと思うとネットのトラブルって本当に怖いよねって思う。リベンジポルノだって拡散する奴がいなければ広がらないわけで、広がるべきではないものを黙殺せずに指先ひとつで拡散してしまう現代人の恐ろしさを再認識することとなった。
「今回の犯人逮捕で他の貴族の名誉も守ることが出来た。君には本当に感謝しかないよ」
感謝しきりの侯爵だけど、根本的な原因はあたしが異世界に転生させる勇者の選定を杜撰にやったせいなんだよね……。まあ、それは言えるはずがないんだけど。
「褒美はたんまりとやろう。五千万ボリーノだ」
「えっ……そんなにもらえるんですか?」
「ジン・ランサムから要求されていた金額に比べれば小銭のようなものだ。どうか受け取ってくれ」
「どうします? 不動産でも買って家賃収入を得るっていう手もありますけど」
ピョンちゃんの囁きを聞こえなかったことにして、あたしは伯爵に礼を言う。これで事件は一件落着かと思ったけど、舌の根も乾かないうちに侯爵がふいに真顔になって口を開く。
「して、タラッサ嬢。立て続けに申し訳ないが、ここで私からのお願いを聞いてもらえないか?」
「どうしたんですか? 急にかしこまって」
「私には伯母がいてな、彼女について相談したいことがある」
「はあ……あたしは貴族のパワーバランスについてはよく知らないんですけど」
その言葉の通り、貴族は家のつながりや王家との関わり合いが複雑になっている場合が結構多く、おおざっぱな仕事しかしてきていないあたしにとっては正直面倒くさい話題だ。
「伯母は一度結婚していたのだがな、子供には恵まれず、叔父は病気でこの世を去った」
「はあ」
「それ以降は縁談が無かったようだが、伯母はそれほど未亡人であることに肩身の狭さは感じていなかったようで、そのまま現在にまで至っている」
貴族で子供がいないとなると、財産の分与とか面倒だよね。そのあたりでいざこざでも起きたのかな?
そう思っていると、侯爵はさらに話を続ける。
「それがだ、最近になって新しい恋人が出たと聞く」
「……まあ、いいんじゃないですか。女の子は何歳になったって女の子ですしね」
あたしの実年齢、万の単位なんですけど。何歳になったって誰かを好きになることは不思議じゃない。ものすごく晩婚の人だっているぐらいだし。
だけど、侯爵はどこか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「あ、もしかして、その伯母様の新しい恋人がろくでもない奴ってことですか?」
「それだったらこちらも対処しやすいのだが……」
侯爵は困り切った顔になる。なんだろう、敵国の王子でも好きになっちゃったとか?
「伯母の新しい恋人というのは、マッチングアプリで出会ったそうだ」
「う~ん、時代ですねえ……(棒読み)」
っていうかマッチングアプリまでこの異世界に「移植」されているわけ? マジですか?
そんなあたしの驚きをよそに、侯爵はさらなる爆弾を落としていく。
「いや、出会ったというのは正しくないな。なんでも、二人は一度も会わずに結婚まで決めているそうだ」
「えっ」
それって――
「国際ロマンス詐欺ってやつじゃないですか?」
「国際ロマンス……なんだそれは?」
「ええっと、海外の人が『恋人になって下さい』って近付いて来て、財産も何もかも奪ってさよならする詐欺のことですね。地球……じゃなくて、外国では問題になったそうです」
マッチングアプリとともに国際ロマンス詐欺まで「輸入」しているだなんて、本当にろくでもない奴が転生してきたわね。あたしは表情を変えずに一人で呆れる。
っていうか何してるんだよ。チートの能力があったらクソほどモテるでしょうに。
なるほど、話が見えてきた。つまりネットの特殊詐欺に免疫のない侯爵の伯母様は、詐欺師にうまいことからめとられてしまっているってことね。未亡人の恋心を狙うなんて、絶対に許せない。
「とりあえず話は分かりました。侯爵の伯母様から話を聞いて、その詐欺師を捕まえてみせます」
「おお、引き受けてくれるか。お願いだ、今の伯母は恋の魔法にかかっていて、私の声がまるで届かないのだ」
そんなところにランサムウェアでイキ顔を撮られて、侯爵のキャパを超えてしまったってことね。今さらの伏線回収。
とにかく休む間もなく次のお仕事に取り掛からないといけないみたい。
今度も色々と難儀しそうな気はするけど、犯人を絶対にシメてやる。




