アプリ開発業者の災難
FUNZAの開発元は、王都の商業区画にある小さなビルだった。
表向きは「ソフト・エンタメクリエイター・オンデマンド」みたいな看板がかかっていて、中は転生者たちの巣窟臭プンプンする。あんだけハードなことをやっといてソフトの冠なんか付けてるんだから悪い冗談もほどほどにしてよって感じ。
エルウィン騎士団長が書いたことになっているあたし作の令状を握りしめて(自作自演)ピョンちゃんを肩に乗せたまま、怒号を上げながらドアを蹴り開ける。マル暴刑事のガサ入れをマネしてやってみた。言ってみてばカチコミみたいなもの。
「開けろゴラァ‼ 騎士団のガサ入れや‼ FUNZAの開発責任者、出て来んかい‼」
ロビーに響くあたしの声。自分で言ってから、ドアは自分で開けたじゃんと思った。まあ、そんなことはどうでもいい。こういうのは勢いが大事なんだから。
受付の水商売っぽいエルフの女性がビクッとして、慌てて奥に引っ込む。ピョンちゃんは半笑いでその様子を眺めている。
「完全に怯えてますね。一般人を恫喝する運命の女神って、慈愛はどこへ行ったんですか。これ、完全にヤクザの殴り込みですよね」
「うっさいわね。こうでもしないと『令状持ってきなよ』とか口ごたえする奴が出てくるでしょ?」
アドレナリンの滾っているあたしは、あえて荒々しい感じで現場に臨むことにしていた。悪党の手下っていうのは基本的に恐怖や暴力でコントロールされている。だからこそ早い段階でどちらがボスなのかを教えておく必要がある。サル山の群れと同じだ。
数分後に開発部長らしき男が現れた。三十代半ばのメガネ転生者風で、ニルヴァーナのTシャツにジーンズ、首にチャラそうなネックレスをかけている。ITオタクのチー牛が異世界デビューした感じ? なんだか見るだけでイラっとくるナリだった。
「あの、騎士団の方ですか? 何かご用ですか? っていうか本物ですか? 暴力団じゃなく?」
「失礼ね。誰が暴力団よ。暴力団の手先はあなたじゃない」
「いや、そう言われまして……」
「うるさいわね。あんたらの開発した違法アプリのせいで、貴族の人たちがあちこちでひどい目に遭っているの! この落とし前をどうつけるつもり⁉」
「いや、落とし前だなんて……ウチのアプリ、別に違法なことなんてやっていませんよ。すべて合意の成人向けコンテンツです。言いがかりはやめてくれませんか?」
あたしは舌打ちすると、ソファにドカッと座って足を組む。フリルスカートが少しめくれるけど、気にしてもいられない。ここでは威厳がモノを言う。ナメられる要素を見せたらおしまいだ。ピンクツインテールを揺らしながら、開発部長を睨みつける。
「素人のあたしには、ここで作っているアプリが違法かどうかなんて知らない。でも、そのアプリがランサムウェア被害の温床になってるの。侯爵や伯爵みたいな大物貴族が、動画閲覧中にイキ顔を撮られて脅されてるのよ。共通するのは急激に出てくるポップアップの乗っ取りに『アノニマス勇者』の署名。その裏では開発元であるこの会社が糸を引いてるんじゃないの? 白状しなさい!」
部長の顔が青ざめる。汗がダラダラ。
「え? ちょっと待って下さい。侯爵や伯爵のイキ顔ってなんですか?」
「……うるさいわね。話を逸らさないで頂戴」
勢いに任せて余計なことを喋ってしまったらしい。あたしは全力でごまかす。あたしの睨みが効いたのか、開発部長が慌てて弁明しはじめる。
「ランサムだなんて、うちのアプリにそんな機能は実装されていないです。当たり前でしょう? それにポップアップはただの広告ですよ? それにアノニマス勇者? 何ですかそれ。そんなの一度も聞いたことがない。ちょっと待ってください、ログを見ますから」
部長は慌てて奥の部屋に引っ込み、魔法結晶端末を叩き始める。あたしは後ろから覗き込んで、ピョンちゃんに囁く。
「正直、どう思う?」
「うーん、汗の量は本物っぽいけど……エロアプリの部長が潔白って、逆に胡散臭いかもしれませんね。差別するわけじゃないですけど」
五分後になって、部長が端末を抱えて戻ってきた。顔が真っ青で、手が震えている。
「ログは確認しましたが、ハッキングだとか他に怪しい痕跡は見られませんでした」
「本当に?」
「本当です! 見せるので確認して下さい!」
「あたしにプログラムなんて分かるわけないじゃないのよ!」
怒鳴りつけると、部長は銃でも突きつけられているような顔になった。
「あの、さすがにこの流れは理不尽過ぎるんじゃないですかね」
肩に乗ったピョンちゃんがツッコんでくる。たしかに「お前、プログラムに何か仕込んだだろう」と言われてそうではない証拠を出したのに「そんなモン見せられても分かるか」って言われたら開発者側からするとどうも出来ない状況になるかもしれない。
脅して吐かせる方式を採用していたけど、ちょっと考えを変えないといけないみたい。開発者犯人説が外れた場合、あたしは令状も無くシロの相手をただ恫喝しただけということになる。
運命の女神が一般人を誤認逮捕。被害者を悲劇の運命へと導く――そんな流れ、絶対に嫌だ。
しょうがないので、一度咳払いをして落ち着きを取り戻したあたしは、パソコンのことが分からない人でも理解出来るように解説を求めた。顔から大量の汗を流す開発部長は、どうしてFUNZAが犯人ではありえないのかを意外にも懇切丁寧に教えてくれた。
「……それで、ログは確認しました。たしかに、貴族のIPアドレスから深夜のアクセス多めですが、ポップアップのクリック率が高いんです。でも、ウチのサーバーにハック痕跡は無いです」
「うん、つまり内部からも外部からも、ここを経由して貴族たちをウイルスで恐怖に陥れたわけではないってこと?」
「そうです! 外部の誰かが、広告経由でランサム仕込んでるんですよ! 俺たちも被害者かも……アプリの評判が落ちたらウチも存続の危機になります」
懇願するような表情。あたしは端末を覗き込む。うん、この呪文みたいな文字列、あたしにはまったく意味が分からない。
ピョンちゃんが小声で囁く。
「スカですよ。これ。開発部はただの間接被害者……。というか、ボクたちは犯人の仕掛けた罠に引っかかっただけみたいです」
うっすら分かってはいたけど、あらためてそう告げられると力が抜ける。ため息をこらえながら椅子から立ち上がる。
「分かったわ。協力ありがとう。でも、もし嘘をついていると分かったら、この会社ごとデリートしてあげるからね」
「は、はい。それは構いませんが、次回はもう少し慎重なご判断を……」
あたしは最後まで聞かずにFUNZA開発部を後にした。
時間が無いのに、とんだ道草を食ってしまった。一度頭を冷やさないと。一旦依頼人のもとに戻ってみるか。何か新しい情報が得られるかもしれない。というか、それ以上に犯人を追う手が思いつかない。
あたしは一度、デュラン・デュラン侯爵のもとへ戻ることにした。




