ランサム野郎の手がかり
「それでは、侯爵が乗っ取られたパソコンを見せてもらえますか?」
あたしはまず、何が起きているのかを把握することにした。ランサムウェアにやられたってことは、そのパソコンがこの屋敷にあるはず。
「おお、そうだな。たしかに現物を見てもらった方が早いな。おい、じゃあお前」
デュラン・デュラン侯爵に呼ばれた使用人にあたしは案内されていく。これから侯爵の執務室へと入らせてもらえるみたい。
「しかしすいませんねえ。侯爵という地位にあるとはいえ、旦那様のしょうもない不祥事の火消しになんか呼んでしまって」
回廊を歩きながら、使用人の若い男が軽口を叩く。侯爵の前ではないせいか、かしこまった風ではなく軽薄な感じに見えた。素はこっちなんだろうな。容姿はそこそこ整っていて、いくらかズルそうな顔をしていた。
「別に気にしなくていいですよ。困った人を助けるのが、あたしのお仕事ですから」
「しかしねえ、いつかは戦場でワイルドボーイと呼ばれたあの侯爵様がねえ、こうもダルい下半身スキャンダルなんて知られたら、関係者の人々はさぞガッカリするでしょうね」
あたしはその言葉にこたえることなく、侯爵の執務室へと入った。机にはたくさんの書物と事務用品、そして公文書らしき書類が積まれていた。
机の端っこには魔法結晶端末――ノートパソコンが置いてあった。回りこんでディスプレイを見る。
『お前の社会的な死まであと72:16:23』
画面に映る数字はどんどん減っていく。たしか話では一週間あったはずだから、四日近く悩んだんだか自分で何とかしようとしたのかで浪費したらしい。お陰であたしにとっては実質的に三日ぐらいしか時間が無い。
「なるほど、こりゃあインパクトがありますね」
ピョンちゃんがゲスな薄笑いを浮かべる。このウサギにとっては他人事ってことだろう。
「これがゼロになれば侯爵のイキ顔が世界中に飛ぶってこと?」
「まあ、そうでしょうね。それがランサムウェアってやつですから。KADOKAWAもランサムウェアでひと騒動あったので」
「しれっと爆弾を落とすのはやめてもらえないかな? この作品がBANされたらピョンちゃんのせいだよ?」
あたしはピョンちゃんを厳重注意しつつ、ノートパソコンをいじくり回す。うん、完全に乗っ取られているというか、操作をまったく受け付けない。画面が真っ黒になったままで、これっておそらく専門家を連れて来てもどうにもならないやつ。
「どうですか? 修理は出来そうですか?」
あたしの傍で、期待を込めた視線を送る使用人。
「うん、これはどうにもならないね」
「えっ……」
あたしはアッサリと諦めた。だって、パソコンのこと、そんなに詳しくないし。それに、大してよく知らないあたしが下手に触って侯爵の恥ずかしい写真が全世界へ拡散、なんてなったらそれこそシャレになっていない。
とりあえずこの端末をいじってどうにかするっていうのは無理がありそう。きっとこの犯人はネットに通じているから、そいつを直接シメない限りはどうにもならない気がする。
そのためには情報収集だ。敵が魔の山の頂上にいるとか分かりやすい場所にいてくれれば良かったんだけど、今のコルヴム・パラディスはちょっと事情が違う。
さて、どこから調べようか。……考えてみたら、ここまでやり方が確立されているということは、それよりも前の段階で被害に遭った人がいるのではないか。そして、似たような状況から泣き寝入りして誰にも被害を訴えられていないだけなのではないか。そんな気がしてきた。
おお、冴えているぞ、あたし。
そうと分かれば、さっそく貴族で似たような状況の人がいないか調べてみよう。思うが早く、あたしは侯爵の屋敷を後にした。




