侯爵からの要請
マイク・ハントを血祭りに上げたことで、還付金詐欺でお年寄りをだます悪党たちは一網打尽となった。というのも、マイクが持っていたスマホが解析され、そこからかけ子になっていた人員の名簿が見つかった。
名簿には各かけ子の個人情報と弱みが書かれていて、足抜けをしようとすれば弱みを盾に骨の髄まで悪の道に浸からせるマニュアルが出来上がっていた。あらためて何て恐ろしい男なのって思った。殴り倒したけど。
潜入捜査員という建前もあり、あたしは表立っては賞賛されずに舞台裏でその功労を労われた。エルウィン騎士団長が「君の欲しいものなら何でもあげよう」って言われたから「一回だけデートして欲しい」って言ったら「既婚者だからダメ」って言われてテンションが下がった。何でもいいって言ったじゃないかよ。
それはそれとして、還付金ビジネスで不正に集めたお金は、被害者たちにいくらか返還された。もちろん満額とはいかなかったけど、被害を届け出た人を優先に酒や女へと流れるはずだったお金が戻っていくのは良かった。
とりあえずこれで少しは平和が戻るのかなって思ったあたりで、あたしはエルウィン騎士団長に呼ばれて彼のもとへと向かった。
◆
主の間。あたしが騎士団長をぶっ飛ばして全壊させたステンドガラスは元に戻っていた。部屋の内部に色とりどりの光が当たって神々しい感じになっている。
「タラッサか。よく来てくれたな」
金髪のイケメンが執務机から腰を浮かす。うん、やっぱりお仕事をしている姿はカッコいいよなって思う。
「はい、そりゃ団長の頼みならどこまでも」
「さすがだ。さすが、俺を病院送りにした戦士」
「団長、入院してたんですね……」
肩に乗るウサギのピョンちゃんがボソッと呟く。たしかに、あたしのパンチでぶっ飛ばされたエルウィン騎士団長は、全身にガラスが刺さったままマンション三階分ぐらいの高さから落下した。
お仕事の依頼はベッドに入ったままされた記憶があるけど、その後に本格的に入院していたらしい。あたしがマイク・ハント一味をボコボコにしている間にそんなことがあったなんて。まあ、主犯のマイクはもっとひどいことになったわけだけど。
それでもタフだったせいか、エルウィン騎士団長は療養生活については触れずに話を続ける。
「君が還付金詐欺の悪党を追いかけている間に、俺のところにデュラン・デュラン侯爵から連絡があった」
「まえだまえだみたいな名前の侯爵ですね」
「なんだそのコンビは。そんな芸人は知らないな」
「知ってるじゃん」
「とにかくだ、デュラン・デュラン侯爵から『非常に困っているので助けてほしい。そしてこの件は関係者以外極秘で』と言われている。デュラン・デュラン侯爵は王都にとっても非常に重要な立ち位置を占める要人だ。彼の助けになってほしい」
そりゃまた、えらく大げさなところから依頼が来ましたねって感じ。侯爵って言ったら結構偉い人だよね? たしか伯爵よりも上にいる人だったはず。
そんな人から依頼が来るんだから、結構国に関わる問題なのかもしれない。還付金詐欺の取り締まりから一気にお国の仕事にジャンプアップってやつ? それは熱いね。
「やりますやります。なんか面白そうだし」
「……お前、そんなので大丈夫か?」
「安心して下さい。あたしに任せてもらえば、どんなお仕事も朝メシ前です」
「そうか。なんか強烈なフリに聞こえなくもないけど、君がそう言うんだったら大丈夫なんだろう」
かくして還付金詐欺集団を潰した余韻も冷めやらぬまま、あたしは侯爵の屋敷に行くこととなった。




