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被害者の声を聞け

 作戦を実行する前に、あたしは情報を集めることにした。こういう詐欺が横行しているってことは、それだけ被害に遭った人がいるはずだ。


 騎士団長のエルウィンに電話をかける。さすが騎士団長というか、文明の利器にビビらずすぐに出た。


「俺だ。何かあったか?」

「ああ団長、さっそくヘルワークを通じて特殊詐欺のお仕事が舞い込んできました」

「そうか。そいつは早かったな。それでどうなった?」

「さっそくですけど、今は還付金詐欺の犯人を追っています」

「還付金詐欺? ああ、あの税金が返ってくるとかいう与太話を信じ込ませる詐欺のことか。信じる方もなかなかのバカだと思うけどな。一度収めた税金が返ってくるわけないじゃないか」


 エルウィン騎士団長の言葉は思いのほか辛辣だった。まあ、国の抱える騎士としてはそういう考えになるのかな。それはいいとして、あたしは本題に入る。


「現時点で色んな人のリストをもらっていまして、片っ端から電話をかけろって指示が出ています。でも、これだけじゃ足りなくて、情報が欲しいです」

「おう、それでどうすればいいんだ?」

「これまでに還付金詐欺に遭った人っていますよね? その被害者たちに会ってどんな感じでお金をだまし取られたのか知りたいんですけど」

「なるほど。被害者に情報を聞いて回るってことだな。分かった。こちらで調べてすぐに連絡する」


 団長は通話を終えると、十分もしない内に連絡をくれた。さすが「しごでき」イケメンというか、何もかも持っている人だよね。あたしのボディー一撃で倒されたけど。


 団長から届いたLINEには被害者のプロフィールと住所が書いてあった。名前はエリザベス・パト、八十二歳。ここから割と近くに住んでいるお婆さんだ。そんなお年寄りをカモにするなんて許せない。


 すでにエルウィンがエリザベスさんに話を付けてくれていたそうで、後はあたしが向かえば話をしてくれるそうだ。イケメンの威力ってのはお婆さんに対してもすごいんだろうな。


   ◆


 特殊詐欺の被害者であるエリザベス婆さんが住んでいる家は、王都の外れにある古びた木造の小屋だった。石畳の道を少し外れた路地裏で、壁には蔦が絡まってて、ゲーム好きにとってはなかなかワクワクする物件だった。


 ピンクツインテールのあたしがフリルスカートを揺らしながらエリザベス婆さんのお宅を訪ねると、近所のドワーフのおじさんたちがチラチラ見てくる。エロいなって思うけど、そういう目で見られるのは悪い気はしない。だってあたし、ガチでかわいいし。


 木製の古びたドアをノックすると、中からガタガタ音がしてすぐに開いた。出てきたのは小柄なお婆さんで、白髪をポニーテールみたいにまとめ、目がキラキラしてる。八十二歳とは思えない元気さで、杖代わりに箒を持って立っている。


「まあ、こんな可愛らしいお嬢さんが騎士団からの使い? エルウィン坊ちゃんから話は聞いてるわよ。入んなさい、入んなさい!」


 エリザベス婆さんはあたしを引っ張るように家の中に連れ込んで、年季の入った木の椅子を勧めてくれた。部屋は狭いけど、棚にハーブの瓶や古い本が並んでて、居心地のいい感じはする。


 ピョンちゃんは肩から飛び降りて、婆さんの足元でピョンピョン跳ねてる。ウサギの使い魔が目立つけど、婆さんは「可愛いペットね」って撫でてくれて、警戒心ゼロ。


「ありがとうございます、エリザベスさん。あたしはタラッサっていいます。今日はお時間をいただいて、被害に遭った詐欺のことについて聞かせてください。どんな風に騙されたのか、詳しく知りたいんです」


 あたしはメモ帳代わりにスマホのノートアプリを開いて、同時に録音機能もオンにしながら婆さんの向かいに座った。ピョンちゃんは婆さんの膝に飛び乗って、耳をピクピクさせている。あんまり意図は分からないけど、和ませて話を引き出す作戦なんだろうか。


 エリザベス婆さんはお茶を淹れてくれながら、ため息混じりに話し始めた。声は少し震えてるけど、その視線には強い光が灯っていた。詐欺に遭った被害者なのに、怒りよりも悔しさが強い感じ。


「そうかい。それじゃあ話させてもらうよ。あのねえ、タラッサちゃん。あたしはね、毎月年金とギルドの老後基金で細々と暮らしてるのよ。そしたら、ある日スマホに通知が来てね。『財務省からのお知らせ』だって。アプリのメッセージで、ポップアップみたいに派手に出てきてさ。『税金の払い過ぎで還付金が出ます! 簡単手続きで今すぐ受け取り!』って。最初は怪しいと思ったけど、画面に王都の紋章みたいなのが光っていて、つい信じちゃったわ」


 婆さんはスマホをテーブルに置いて、画面を指差した。ヘルワークで見たのと同じ通知履歴だ。ポップアップに偽の公式ロゴが入ってる。転生者の細工、地球のフィッシングメールそっくりね。


「で、電話がかかってきたの。向こうの声は若い男で、丁寧だけどなんか変な感じ。『財務省租税課のマシューです。エリザベス様の還付金は五十万ボリーノですよ。手数料だけ払えばすぐ振り込みます』って。そりゃ怪しいかなとも思ったわよ。でも、あたしはその時、興奮しちゃってね。五十万ボリーノよ? あたしの家賃何年分か分かる? 『今だけ』とか『先着順』なんて言うものだから、つい指示通りにATMへ行っちゃったの」


 婆さんの目が少し潤んで、ピョンちゃんが膝の上で耳を伏せて慰めてる。あたしもその被害額を聞いて胸がざわついた。五十万ボリーノ、手数料として五万払わされたらしい。


 婆さんの貯金が半分近く飛んだってことか。許せない……あたしの送り込んだ勇者()が、こんなお婆さんをカモにしたかもしれないなんて。


「その電話の男、どんな感じでした? 声とか、特徴とか」


 あたしはメモを取りながら聞いた。ピョンちゃんも興味津々で婆さんの膝から身を乗り出している。


「声はね、若くてハキハキしてるけど、時々言葉が変なのよ。『手数料は外部の魔法ギルドに委託してるんで、アプリでスキャンして支払ってください』って。魔法ギルド? そんなの聞いたことないわ。でも、アプリで『ピッ』って音がして、支払いが完了した気になっちゃったの。後で分かったけど、偽の画面で本当は何も払ってなかったのよ。あの男、笑い声が少し混じってて……『おばあちゃん、簡単だったでしょ? 次は友達に教えてね』みたいな。英語混じりの変なアクセントだったわ。『オールドレディ』とか言ってたかも」


 英語? オールドレディ? あたしの背筋がゾクッとした。


 ……転生者だ。地球のスラングをポロッと漏らしたんだ。きっとあたしの審査で「善人顔」して通った奴。


 ピョンちゃんが肩に戻ってきて、小声で囁く。


「英語のアクセント……地球人確定ですね。女神の尻ぬぐいが本格化ですよ」


 あたしは表情を変えずに頷く。婆さんは話を続けた。


「一番怖かったのは、電話の後でアプリに『確認のため、追加の魔力スキャンをお願いします』って出てきてね。カメラで顔をスキャンさせられたの。そしたら、勝手にギルドの預金口座から引き落とされて……。あれ、きっとあたしの顔写真で偽の身分証作って、もっと大金を引き出そうとしたんだろうね。エルウィン坊ちゃんが止めてくれなかったら、全部持っていかれてたわ」


 魔力スキャン? 顔認証のフィッシングか。転生者がスマホの生体認証を異世界の魔力に置き換えて悪用している。グループの手口がクリアになってきた。電話でカモを釣り、アプリで個人情報盗み、手数料名目でATM誘導。最後にスキャンで口座ハックされるってオチ。


 全部、地球の還付金詐欺のテンプレだけど、この世界じゃ新兵器同然だわ。やっていることが完全に魔王じゃない。


「エリザベスさん、ありがとうございます。本当に参考になりました。あたし、絶対に犯人たちを捕まえて、お金返してもらいますから」


 本気だった。誰だか知らないけど、あたしの顔に泥を塗った勇者()は絶対に許さない。もう二度と生まれ変わりたくないと思うほどの恐怖を植え付けた上で、完全にこの世界から消してやる。


 あたしは立ち上がって、婆さんの手を握った。婆さんはニコッと笑って、ポケットから小さなハーブの袋を出し、あたしにくれた。


「いいのよ、タラッサちゃん。あなたみたいなかわいい子が動いてくれるなら、あたしも安心だわ。エルウィン坊ちゃんも、きっとあなたに惚れているのよ。あの子の目、輝いていたもの」


 惚れてるって……いや、あの腹にワンパンKOの後で? だとしたら相当なドMですけど?


 ピョンちゃんが肩でクスクス笑ってる。まったく、失礼なウサギだよ。


 エリザベス婆さんの家を出て、路地を歩きながらあたしはスマホを睨んだ。マシューとかいう担当のメッセージ履歴に、新着が来ている。


『今日の電話、成果どう? リストの半分は消化してね』


 進捗確認をしながら、ノルマのプレッシャーをかけてきている。こうやってかけ子をコントロールしているってわけね。


 よし、次はあたしの番。これからオールドレディを泣かせた罪、物理攻撃で返してやる。 ピョンちゃんが耳をピクピクさせて言う。


「さっきもらった婆さんのハーブ、恋の媚薬かもですよ。イケメン団長に効くかも?」

「バカ言わないで。あたしは魔法少女よ、恋より正義!」


 そうは言いつつも、心のどこかで少しドキドキしたのは内緒。でも、恋に落ちている場合じゃない。


 さて、これから潜入捜査のはじまりはじまりっと。

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