還付金詐欺のお仕事
ヘルワークをスマホにダウンロードすると「ウチの仕事はすべてホワイト案件」とか清々しいまでのフラグでツッコミ待ちをしている。
中を見てみると、どれもヤバそうなお仕事ばっかり。いきなり全部とっちめるのは無理として、攻略しやすそうなやつを選んでいこう。
そんなことを思いながらスマホをフリックしていくと、あるページが目に留まった。
『社会貢献☆☆☆☆☆還付金ビジネスのお手伝い』
怪しいタイトルとともに、「社会貢献が出来る素敵なお仕事です」とだけ書かれている。うん、これすごく怪しいぞ。
「これ、還付金詐欺ってやつですよね?」
ピョンちゃんがスマホの画面を見て言う。たしかに、あんまり詳しくはないけどそんな詐欺があるって聞いたことはある気がする。
「どっちにしても、参加しないと詳細は知ることが出来ないみたい」
あたしは画面に映る「このお仕事を受注する」を押す。すると同意事項みたいな画面が出てくる。こういうところはすごく地球っぽいなと思いながら見ていると、ちょいちょいヤバいポイントが出てくる。
『この業務で生じたトラブルや訴訟は請負の全責任をもって解決することを誓います』
『本業務で発生した怪我や死亡も含めた労働災害の責任は本人に起因するものとして訴訟には及びません』
『私はいかなる状況でも本業務で発生した紛争や損害賠償は自身の過失によるものと認識しており、それらを自らの責任で補填することを誓います』
他にも無茶苦茶なことがいっぱい書いてあって、最後の最後に「これらの条件を理解した上で同意します」という項目にチェックを入れないと先へ進めない仕様になっている。いや待て、おかしいでしょ、これ。
「これがホワイト案件ねえ……」
真っ白なピョンちゃんが、肩の上で黒い微笑を浮かべている。ウサギってこんな顔するんだな。いや、そうじゃなくて……。
王都バンクラプトの教育レベルは知らないけど、まともな人間であればどう見てもヤバいと分かる文章だ。それでも騎士団長のエルウィンから聞いた話だと手を出す人間が後を絶たないというから、単に知られていないアリ地獄にみんなで仲良く引きずり込まれていく感じなんだろうか。
「ここまで怪しい案件なら、正直分かっていて参加した方も分かってたんじゃないかと思いますけどねえ」
「そうは言うけどさ、こっちの人はちょっと前まではスマホも無かったし、ましてや特殊詐欺だって存在しなかったわけじゃない。それを知っているあたし達はどうとでも言えるだろうけどさ」
特に最近の特殊詐欺は進化していて、女神のあたしですら油断したら引っかかるんじゃないかってぐらい巧妙な手口が増えてきている。まだスマホも詐欺もよく分かっていない異世界の人たちなら、地球からやって来た悪党にとってはいいカモでしかないだろう。
「ヤバいのは間違いないけどさ、どっちにしても同意しないと先に進めないじゃない」
あたしは薄笑いを浮かべるピョンちゃんをよそに同意するを押した。すると、アプリ内の自動メッセージが送られてくる。LINEのパクリだった。
『こんにちは。担当のマシューです。あなたとお仕事出来ることを嬉しく思てます』
しょっぱなから誤字をかましているメッセージ。早くも詰めの甘さが露呈している気がするけど、とりあえず「こんにちは」と打って返信してみる。するとメッセージが連投されてくる。
『仕事とても社会性高いでし。頑張て下さい』
『やる仕事は還付金の窓口です』
『次のリストにある人たちに、払い過ぎた税金を還付するために電話をかけていきます』
『分かりましたか?』
とりあえず「はい」と送り返してみる。
『いいですね』
『次にそれぞれの人たちが出た時のスクリプトを用意します。出来たらメモして下さい』
『王都バンクラプト財務省租税徴収課の〇〇です。(〇〇は仮の名前を使って下さい)このたび国で税の徴収に関する調査が行われ、あなたの世帯から税金を取り過ぎていたことが判明いたしました。大変申し訳ございません。つきましては超過した租税を還付したく、次の手続きを行って下さい』
と、そんな感じで「マニュアル」は続いていて最後には「税金の還付作業については外部団体に委託しており、そちらに手数料を支払えば還付金が入金されます」とATMまで誘導して多額の「手数料」を振り込ませるとのことだった。
これって、絶対に手数料だけ取られて音信が途絶えるアレだよね。それと、ATMもこの世界に持ち込んだのね。まあ、便利だからいいんだけどさ。
なるほど。たしかに事情を知らない人が見たらホワイト案件というか、社会貢献すらしているように見えるところが怖い。
コルヴム・パラディスにはまだ特殊詐欺のリテラシーというか概念が存在しないから、しばらくは被害者が後を絶たないだろう。そういうことなら、あたしが潜入捜査する意義もありそうな案件ではある。
成功報酬は「還付金」の一割らしい。法整備が追い付いていないのもあって、ノーリスクで儲けまくる犯罪者がいそうな気がする。こんな犯罪、許していいはずがない。
この特殊詐欺の裏側にいるのは、あたしが送り込んだ転生者の誰かのはず。こっちの世界に特殊詐欺なんて無かったんだから。
ようし、ここはあたしがひと肌脱いで特殊詐欺を撲滅してやらなくちゃ。覚悟しなさいよ、闇堕ちした勇者たち。
あたしは犯罪者集団の殲滅を誓った。




