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ろくでなし達に告ぐ

 ティック〇ックで勉強したテキトーな回復魔法は意外に効いた。


 騎士団長の館三階から腹パンを喰らってステンドグラスを突き破りながら落下したエルウィン・フォン・ルミナスは正直虫の息だった。


 だけど、あたしが必死こいて見様見真似の回復魔法をかけたお陰で、騎士団長の傷はみるみる回復していった。最後の方で「グボァ」って血を吐いたから焦ったけど。


 ガルベスさんと一緒に団長の全身に刺さったガラスを抜いてから、さらに回復魔法で傷を塞いでベッドで寝かせると数時間で回復した。


 主の間はガラスが割れたせいで風がうるさいので、魔法を使って一瞬で修復した。その時もガルベスさんが死ぬほど驚いていたんだけど、あたしのせいで彼の寿命が結構縮んでいるかもしれない。


 まあそれはそれとして、あたしの力は証明出来た。団長の「テスト」はクリア出来たんだろう。さっきので出禁にならなければだけど。


 ある程度回復魔法をかけ続けるとエルウィンも話せるようになり、一撃で倒したせいかさしてトラウマも植え付けずに復帰することが出来た。


「生きてます、団長?」


 あたしがからかうように言うと、ベッドから半身を起こしたエルウィンが口を開く。


「ああ、なんとか。なんだか綺麗な金髪の女性に出会ったんだけど、その前に引き戻されたみたいだ。あそこから先に行ったら戻って来れない気がした。これが臨死体験っていうやつか」


 それって、ルナリア姉さんのことじゃあ……。そうなると、エルウィンは本当に死にかけていたってことらしい。また姉さんに怒られるところだった。


「それで、あたしは騎士団長の目にはかなったのかな?」

「ああ、もちろんだ。こんなバケモ……とんでもない力を持った戦士は初めてだ」


 あたし、戦士じゃなくて可憐な女神なんですけど。そうは思ったけど、また話が別方向へ行ってしまいそうなので黙っていた。


「それで、あたしに聞いてほしい話って何なんですか?」


 あたしはようやく本題に入る。正直すっかり忘れていたけど、イケオジのガルベスさんに呼び出されたのも、このイケメン騎士団長の指示があったからだ。


「分かった。それじゃあこんな身で失礼だが、このまま説明に入るとしよう」


 ベッドで半身を起こしたまま、団長は本題に入る。


「君はスマホを知っているか?」


 知っているも何も、あたしは地球人を散々異世界転生させているのだからスマホは当然持っている。お姉ちゃんとLINEもするし。


「はい。それがどうかしましたか?」

「君も知っているだろうが、スマホというツールが王都バンクラプトに現れてから、我が国の文明は急激に進化した」

「でしょうね。出来ることが色々あるでしょうから」


 電力の供給元とかサーバーとか、ツッコミどころはいくらでもあるんだけど。街でもウー〇ーの人とかがチャリンコで走り回っていたし、ギルドでもクエスタグラムってアプリをダウンロードしたし、あたしの送った勇者たち()、やりたい放題だろ。


「文明の利器というのは負の要素というものも持ち合わせている。それが近年に見られる社会問題だ」


 なんとなく、その先の話は分かる気がした。


「最近ではスマホを使った、手の込んだ犯罪が横行している」

「うわ~やっぱり。あたしの顔に泥を塗りやがった」

「え? どういうことだ?」

「いや、なんでも……」


 思わず出た本音をツッコまれ、あたしはゴニョゴニョとごまかす。


 スマホ慣れしていない異世界転生先で一人ぐらいやる奴もいるかなって思っていたけど、あたしが思っていた以上に事態は深刻だったみたい。


「強盗に詐欺、デマの拡散やらと色々な問題が起きている。勇者を名乗る者たちがモンスターより強くなってきた分、そちらの方が我々にとって厄介な問題にありつつある」


 うわ~最悪じゃん。何やってんだよ、あたしの送り込んだ勇者たち。そんな絶望も知らずに、イケメン騎士団長は続ける。


「タチが悪いのが、あいつらはネットの奥に潜んでいて見つけ出すのが難しい。一般人に隠れて悪さをしているようで、俺たちにも撲滅が困難となっている。ギルドで討伐対象にでもしてやろうと思ったが、どこの誰が犯人か分かっていない分、迂闊なことも出来ない」


 たしかにギルドで悪人討伐のクエストを出したら魔女狩りみたいに無関係な人たちが犠牲になりそう。それを見越して犯人たちも暗躍しているんだろうな。


 まあ、このナーロッパな世界観で剣と魔法しか知らない人は特殊詐欺なんて未知の世界でしょうからね。あいつらもさぞやりたい放題だったでしょうね。


 ようやくルナリア姉さんの言っていた話が見えてきた。そうか、あたしの送り込んだ転生者たちっていうのは、こっちにはなかったネット社会やスマホを持ちこんで悪さをしているってことか。


「それはお仕置きが必要だね」


 思わず口をついて出たセリフ。あたしの本心だった。


「ああ、何よりもこの世界の秩序が訳の分からない奴らに乱されていくなんてたまったものじゃない。君の力を見込んで、その見えざる敵を殲滅していただきたい」

「分かったわ。あたしに任せてもらえば、そんな奴らはすぐに全員シメてあげるんだから」


 実際に送り込んだ誰が悪さをしているかは知らないけど、あたしは彼らに好き勝手させるために異世界転生をさせたわけじゃない。責任を取らないヒーローはこの世界に必要ない。それを教えてあげる。密かにそう誓った。


「ありがとう。君が仲間になってくれるんだったら百人力どころじゃない。千人力はおろか万人力にでもなるだろう」

「当~然。任せておいて。あいつらあたしが漏れなくシメるから」


 ようやくこの世界でやるべきことが分かった。


 ろくでもない奴を勇者にしても、それは単に不良債権になる。それが今のコルヴム・パラディスで起こっている現象だ。


 元を辿ればあたしの怠惰が招いた結果だけど、だからこそあたし自身がその不良債権を回収することにした。


 ちゃんと勇者をせずに好き勝手やってきた奴ら、待ってなさいよ。あたしの顔に泥を塗った落とし前はきっちりとつけてもらうんだから。


 あたしは一人、この世界の安寧を取り戻すと誓った。

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