女神の剛腕
突如始まったボス戦、というか騎士団長エルウィン・フォン・ルミナスとの戦いが始まった。
「さあ、行くぞ。君の力を見せてくれ!」
未知との強敵と戦うことにワクワクが止まらない騎士団長。めんどくせーって思いながら、あたしはピンク色のツインテールをいじくりまわす。
「どうするんですか。この人、強いですよ」
肩に乗るピョンちゃんがいくらか思い口調で言う。エルウィンの放っているオーラから一般的な騎士とは何段も違う実力を嗅ぎとっているんだろう。
あたしが答える間もなく、エルウィンは半身になると、闘気をバチバチと滾らせながらスペルらしきものを呟きはじめる。
エルウィンの足元に魔法陣が浮かび上がる。これは上位のスキル、魔導剣術というやつだ。
しばらく念仏みたいに呪文を唱え続ける騎士団長。正直、隙だらけなんだけどな……。
そんなあたしの思いをよそに、ようやくエルウィンは長い呪文を唱え終わる。魔法陣を中心に、電気がバチバチいうような音が鳴り響く。
ゴゴゴって音を鳴らしながら、闘気を全開にする騎士団長。凛々しい蒼い目が、あたしをじっと見つめていた。
「喰らえ我が奥義、セイバー・レイ・スティング・ブラッドぐぼぉ……‼⁉」
騎士団長が必殺技の名前を言い終わる前に、あたしは音速で踏み込んでガラ空きのボディーに右ストレートを叩き込んだ。鎧の上から衝突した拳は、エルウィンの体ごと吹っ飛ばして後ろのステンドグラスを突き破った。
ガラスが派手に割れる音。ガシャァァン‼ という音とともに、金髪イケメンの姿は主の間から消えた。
ガルベスさんが驚愕に目を見開いたまま、割れて大きな穴の開いたステンドガラスの跡をお口あんぐりで見えていた。
「あれ? 終わり?」
てっきり「はっはー、やるな」とか言いながらガラスの穴から飛んで戻って来るかと思ったけど、騎士団長が帰って来ない。割れたグラスをジャリジャリと踏みながらでっかい穴の下を覗き込むと、全身にガラスが刺さって血だらけになったエルウィン・フォン・ルミナスその人がうつ伏せになって倒れていた。レフリーがいたらノーカウントで試合を止める感じのやつ。
「なんか、グリズリーに戦いを挑んだ格闘家の末路って感じですね……」
ピョンちゃんが「あーあ」という顔で言う。失礼な、こんな可憐な少女をつかまえてグリズリーだなんて。
いまだに呆然自失という感じのガルベスさんに訊く。
「ねえ、これってあたしの勝ちってことでいいのかな?」
ガルベスは答えない。ただのしかばねのようだ。軽口はさておき、あたしの実力を示すことは出来たみたいだ。ちょっとやりすぎた感じがしないでもないけど。
いまだに騎士団長は下で伸びたまま動かない。だんだん心配になってきた。マンションだと三階ぐらいの高さか。そこから落ちたぐらいじゃ死なないと願いたい。一応ここで一流の騎士様ってことだし。
「あれ、死んでないよね?」
「まあ、一人殺したぐらいで死刑にはならないでしょう。二人以上だと可能性がありますが」
「いや、答えになってないよね?」
「逆に聞きますけど、あれが生きているように見えますか?」
そう訊かれて、あたしは思わず言葉に詰まった。たしかに、正直死んでいるように見えなくもない。
どうしよう、いきなり王都の騎士団長に会ってワンパンで建物の三階から叩き落して殺したなんてことになったら、またルナリア姉さんから叱られる。
とりあえず助けて回復魔法でもかけてあげなくちゃ。正直ティック〇ックでやってたのをマネするだけだから怪しいけど、何もしないよりはマシでしょ。
騎士団長、こんなところで死なないでよ。




