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イケメン☆騎士団長

 馬車に揺られるあたしは、騎士団の生活する基地に隣接する騎士団長の館を目指して移動していた。


「それにしても、騎士団長に呼び出されるなんて思わなかったね」


 とくにすることもなかったので、肩に乗ったウサギのピョンちゃんに話しかける。


「そうですね。なんか嫌な予感がしないでもないですけど」

「嫌な予感って何よ」

「キングワイバーンはSクラスのモンスターでした。だからこそ、そのキングワイバーンの首を獲ってきたのは衝撃だったんでしょうけど、それを聞いた騎士団長から声をかけられるってことは、もっとヤバいモンスターを討伐させられる可能性もあるなって」

「ああ、なるほど。たしかに」


 言われてみれば、そもそもあたしの役割は凶悪な魔王がコルヴム・パラディスを支配しないように地球から勇者たち()をスカウトして送っていたわけで……。そうなると、下手をしたらあたしが直接魔王を倒しに出ないといけなくなるかもしれない。運命の女神をやってた意味が無くなるじゃんって話だよね。


 やっぱりキングワイバーンを素手で殴り殺したって話はするべきじゃなかったんだろうか。事実だけど、言わない方がいいことだってたくさんある。


「騎士団長があたしにわざわざ頼むことって何だと思う?」

「さあ。でも魔王討伐ぐらいは普通に頼まれるんじゃないですかね。今のあなたはこの世界の誰よりも強いデタラメな存在ですから」

「騎士団長ってイケメンかな?」

「どうでしょうね。っていうか何ですか、その幼稚な質問」

「だって、どうせお願いされるならイケメンの方がいいに決まってるじゃない」

「それを言うならアレですか? 騎士団長がブサイクだったら頼みは断るってことですか?」

「そんなの当たりまえじゃない。ブサイクに人権なんて無いんだから」

「やめて下さい。有名な配信者みたいに炎上するでしょ」


 軽口を叩き合いながら馬車に揺られていると、騎士団長の館に着いた。道中でガルベスさんの顔がこわばっていた気がしないでもないけど、あんまり考えないようにした。


 騎士団長の館はやはり立派な建物で、立方体の建築物には飾りよりも頑丈さや軍事的な機能を重視したような工夫があちこちに見られた。窓からは銃を構えられるようになっているし、砲台も置いてある。この館に立てこもったら攻め落とすのが難しそう。まあ、あたしなら建物ごと爆破するけど。


 そんなことを言ったら即テロリスト判定されそうなので、さすがに口をつぐんだまま騎士団長の館へと上がっていく。いかつい外装とは違って、中にはペルシャのカーペットを思わせる絨毯が敷いてあり、天井からはシャンデリアもぶら下がっている貴族風の家だった。


 館に入ると、階段を上がって主の間へと歩いて行く。豪華な装飾の施された両開き扉はすでに開いていた。


「団長、例の人をお連れしました」


 ガルベスさんが声をかけた先には、くだんの騎士団長とやらが魔王みたいに大げさな椅子に座っていた。


「え? ローランド?」


 二十代前半に見える騎士団長は肩ぐらいまでに伸びた金髪が特徴で、手足は長くモデル体型。整形でもしてるのかってぐらいに整った顔立ちに、額にはXを思わせる十字傷があった。


「ローランド? 知らないな。誰だそれは?」


 透き通るようなブルーアイがあたしを見つめる。これってアレなの? 恋が始まっちゃうってやつなの?


 一人で勝手に舞い上がるあたしを前に、金髪のイケメンナイトが口を開く。


「俺はエルウィン・フォン・ルミナス。王都バンクラプトの騎士団長だ」


 そう言う騎士団長の全身からはオーラが漂っていた。よく達人系の人が放っているような、見る者をゾッとさせる空気というか。


「あ、あたしはタラッサと言います。よろしくお願いしまひゅ」


 噛んだ。しょっぱなから女神の威厳も何もなく噛んだ。最悪だ。


「君の話は方々から聞いている。もっとも、その真偽には懐疑的な目を向けているが」

「そ、そうですか。まあ、噂なんて、無責任に尾ひれが付いていくものですからねっ」


 自分でもしゃべりながらすごい怪しいよなって思いつつ、面倒くさい方向へ話が進まないようにコントロールを試みる。


「そ、それで、あたしは何をすればいいんでしょうか?」


 ふいにエルウィン団長が薄く笑う。なんだか、嫌な予感がした。


「俺は何でも疑ってかかるのが好きなタイプでな。聞くところによると、君はキングワイバーンを素手で倒したそうじゃないか」

「え? あ、ま~そんなことも言ってんですかね? もしかしたら寝ぼけていたのかも……なんて」

「さすがに苦しすぎてすよ。もうちょっとマシな言い訳は思いつかないんですか?」


 肩に乗ったウサギのピョンちゃんが囁く。この使い魔は敵なのか味方なのか分からない。苦しい言い訳に走ろうとするあたしを、蒼い両目がじっと見つめていた。


「そうか。まあ、どちらでもいい話だ。何が真実であったとしても、本当かどうか試してみれば早い話だからな」

「へっ?」


 あたしが訊き返す間もなく、騎士団長は光る剣を鞘から抜く。


 え? え?


 困惑してガルベスさんを見ると、目を逸らされた。ちょ……。


「昨日からずっと楽しみにしていたんだ。そんなバケモノみたいな奴がいたらさぞ楽しい時が過ごせるだろうとな」


 エルウィンが光る剣をブンブンと振りながら戦闘モードへ入り出す。いや、待てよ。頭おかしいだろ。


 どうやら目の前の騎士団長は強い人がいると戦いを挑まずにはいられない悟空タイプの人らしい。あの端正な顔立ちで「オラ、ワクワクすっぞ」とか思ってるんだろうな。うわあ、めんどくせー。


「これから君の力を試させてもらう。いわばこれは実技テストというやつだ」

「テストって、そんな急に……」

「いついかなる時も、どのような相手とでも戦う。それこそが騎士の持つべき精神だ」


 達人っぽい口調で無茶苦茶な理論を語る騎士団長。ガルベスさんは他人のフリをしているし、もうこれは引き返せそうにもない。


「ダルいですね。このイケメン」


 肩の上でピョンちゃんがぼやく。


「たしかに面倒くさいけど、もうこれは戦うしかない空気だけど?」

「いいんじゃないですか。多分あのイケメン、体とプライドが粉々に砕かれるけど」


 ピョンちゃんの態度は完全に他人事だった。


「さあ、行くぞ!」


 目の前で荒ぶる騎士団長。これでもかと光る剣をブンブンと振り回している。ワクワクが止まらないらしい。


 ……ああもう、朝から戦いかよ。


 あたしは剣を構えるエルウィンを前に、素手でファイティングポーズを取った。

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