表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Answer / Another』  作者: 耀羽 絵空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

第4章『最後のメッセージ』

 USBに残されたファイル――"AA_DRAFT"。それが世間に公開されることはなかった。あの夜、ふたりが何を伝えようとしていたのか。灯里の中では、音楽はもう“証拠”ではなく、“遺言”のように響いていた。


 けれど、その感傷を打ち砕くかのように、世間はあまりに冷たく、速かった。


 拡散されかけていたアンサーソング説も、数日を待たずに沈静化した。「証拠がない」「思い込みだろう」と、ネットの海は静かにふたりの死を“風化”させていった。


 灯里は、自分の部屋の壁に貼った歌詞カードを見つめながら、焦りとも哀しみともつかない感情を噛み殺していた。何か、もっと確かなものがほしかった。


 そして、静かにひとつ、深呼吸をした。

 どこかで、すべてが繋がる瞬間を信じていた。


 その矢先に井上から連絡がきた。


「警察資料の件、昔の友達に頼んでみた。今はセキュリティ系ベンチャーにいるんだけど、いわゆる“手が早い”やつ。大学サーバーの教育用データに混じってる未整理ファイルを掘り出してくれるかもしれない」


 数日後、ふたりは大学近くのカフェにいた。そこに現れたのは、無地のパーカーを着た中性的な人物だった。


三浦慧みうら・さとる。ミウって呼んで」


 スマートフォンを机に置きながら、ミウは続けた。


「旧所轄の警官が大学の教授に資料を寄贈してたみたいでね。直接じゃないけど、教育用コンテンツの保管サーバーに数ファイルだけ混ざってた。普通には見えない構造だったから、解析して拾い上げた。見せるけど、絶対にネットには流さないでよ」


-----


 その資料には、冷たい文字列が並んでいた。


| 《死亡時刻:神楽坂レン、2021年12月16日 午後9時13分。死因:感電による心停止。スタジオ内機材に接触した形跡あり》

| 《一之瀬ユナ、2021年12月16日 午後10時02分。死因:高所からの転落による頭部外傷。ビル屋上に単独でいた記録》


「……連絡はしてなかったんだ」


 灯里が呟くと、奏介は小さく頷いた。


「お互いに会う予定だった形跡はない。少なくとも記録上は。でも、変なんです」


 彼は別のページを指差した。


| 《死亡者所持品:一之瀬ユナの所持端末にて、午前3時まで稼働ログ。端末使用中に撮影されたと見られる音声ファイルは未保存。再生・送信履歴なし》


「つまり……死ぬ予定の人間が、夜中の3時まで曲を確認してた。しかも、再生だけじゃなく“録音”してた可能性がある」


 さらに、ミウが一枚のスキャン画像を差し出した。


| 《配信ファイル準備:AA_RELEASE_2021_12_17.wav(MP3変換用データ)。メタデータ設定済/公開予定時刻:12月17日午前10時》


 灯里は息を呑んだ。


「じゃあ……あの曲、本当は翌日、公開される予定だった……?」


「意図的に止められたんです。誰かが、止めた」


-----


 さらに、封筒が一通。裏には「天野絢音あまの・あやね」の名前。


 灯里は震える手で手紙を広げた。手紙の文面は簡潔だった。


| あの夜、私は止めようとした。だけど、届かなかった。これは、あなたが託されたものです。あの子の“最後の言葉”を、どうか、あなたの手で。


 そのとき、奏介がふと声を上げた。


「これ……GPSログです」


 タブレットの画面には、ユナのスマートフォンが死亡直前に立ち寄った“予定にない場所”の座標が記録されていた。


「ビルの裏手。関係者以外立ち入れない駐車スペース……こんな場所に、なんで……?」


-----


 少しして、奏介は深く息を吐いた。

 けれどその表情には、悲しみではなく、何かを断ち切るような覚悟があった。


「まとめると、こうです。レンの死因は感電で、ユナは転落。記録上、ふたりは直接会っていない。でも、ユナの端末は深夜まで稼働してて、何かを録音していた。しかも翌日の午前10時に《Answer / Another》が配信される予定だった。誰かがそれを止めた。そして今、絢音さん宛ての封筒が出てきて、ユナの足取りも不自然だった」


 灯里は目を見開き、ふと笑ってしまった。


「あなた……コナンくんみたいね。あ、ごめん、コナンくんは小学生だから……工藤新一か」


 奏介は照れたように肩をすくめた。


「いや、推理っていうより、つじつまが合わなすぎて……」


-----


 灯里は、スキャン画像の片隅に書かれていた一行を思い出した。


| ──"君と、僕と、あの歌が重なる場所に、答えがある"──


 この“場所”とは、どこだったのだろう。


 そして、その“答え”は、本当にまだ見つかっていないのだろうか。


 ……いや。


 きっと、もう残されている。どこかに。誰かの中に。


 灯里は静かに目を閉じた。

 心の中で、静かに願うように。


 ——Silent prayer。


 ユナの声が、まだ耳の奥で震えていた。

『Deep Breath』 / 一之瀬ユナ

-----

少しだけ長く 君を見ていた

言葉にすれば 壊れそうで

「平気だよ」って 笑ったあとに

瞳が揺れて 気づいてた?


誰にも見せない ページに

綴った想いは まだここにある

光にも 影にも なれないまま

ただ、君を想う


深く息を吸って

最後の景色を胸に焼きつけた

涙のかわりに

「ありがとう」だけを置いて

さよならよりも遠い場所へ

行くと決めたの



駅のホームで 君を見つけた

笑う横顔に 胸が痛んだ


レインに濡れた夜を越えて

描いた未来が遠ざかっても

何も言わないで ただ抱きしめて


背中を押してくれた優しさに

ひとりきりで応えたくなかった


名前のない関係でも

守りたかった夢があった

息を詰めて笑うたびに

伝えられず 消えた言葉


深く息を吸って

思い出の中で生きていく

運命をほどいて

自由にさせてあげたい

君の未来に傷を残さないように

私は 消える



もしも もう一度だけ

名前を呼んでくれるなら

この声を手紙にして

空に届ける



深く息を吸って

君の世界に背を向けた

最後の願いは

「幸せになって」だったこと

どうかいつか 気づいて

(深く、深く…)

君を 愛してた


-----

2025/6/20リリース

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ