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『Answer / Another』  作者: 耀羽 絵空


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3/11

第2章『祈りの構造』

 DMの返事は、意外なほど早く届いた。

 送信して数分後、既読マークがつき、ややあって短い返信が来た。


| こんばんは。

| 正直、誰かから反応が来るとは思ってませんでした。

| よろしければ、直接お話ししましょうか。都内ですか?


 灯里は少し戸惑いながら、画面を見つめた。

 慎重なやりとりを期待していた自分と、即座に進展してほしかった自分とが、心の中でぶつかり合う。

 だが結局、彼女はこう返した。


| 都内です。

| よかったら、カフェで。

| 明日、午後3時なら空いてます。


-----


 翌日、渋谷の人混みの中、灯里は一つのカフェの奥の席にいた。

 黒縁のメガネと、無地のTシャツにジャケットを羽織った青年が入ってきたとき、彼女はすぐにわかった。


 彼が近づいてくる。小さく会釈する。


 「朝比奈さん、ですよね」


 「はい。井上奏介さん……で、合ってますか?」


 「ええ。井上で大丈夫です」


 二人は互いにぎこちなく笑い、注文を済ませたあと、沈黙がひとつ流れた。


-----


 最初に言葉を発したのは、灯里だった。


 「その…あの投稿、すごく気になって。

  “REN”や“YUNA”の縦読みとか、最初に気づいたの、奏介さんですよね?」


 井上は軽くうなずく。


 「ええ。というか……実は僕、アンサーソングを作ってたんですよ、恋人と。

  って言っても素人の遊びみたいなものですけどね。

  互いに“気づかれるか気づかれないか”の仕掛けを入れたりして。

  で、その参考にいろんな既存曲の歌詞を読み漁ってて……見つけたんです」


 「《Deep Breath》と《Silent Prayer》の構造?」


 「はい。最初は偶然だと思った。でも――仕込んでます、あれは。絶対に」


 井上はスマホを取り出し、画面を見せた。

 そこには、音楽理論を応用した歌詞構造の図解、コード進行の比較、モチーフの繰り返し……彼が記録してきた、明らかに“本気の考察”があった。


 「これ、音楽だけじゃなくて“語りの構造”にもなってるんです。

 《Silent Prayer》は、明らかに《Deep Breath》への“返答”として構築されている。

 たとえば――この行。

 《深く息を吸って》と《静寂に溶けた願い》は、構造的に対応してる」


 灯里は、画面を見つめながら言った。


 「……音楽が、会話になってる」


 「そうです。会話です。だけど――声じゃない。

  名前を呼び合ってるのに、実際には、一言も“名前”を出していない」


 そこにあったのは、“言葉にできなかった言葉”の応酬。

 それが、5年間誰にも気づかれずに眠っていたことに、灯里は戦慄すら覚えた。


 会話の終盤、灯里はそっと息を整えた。

 この胸の中のざわめきを、見透かされないようにするために。

 静かな深呼吸。

 心のどこかが、ほんの少しだけ整った。


-----


 帰り際、井上がふと呟いた。


 「たぶん、まだあると思うんです。

  ……もうひとつ、ふたりだけの曲が」


-----


 井上との別れ際、「まだあると思う」と言われた言葉が、帰り道でもずっと灯里の中に残っていた。

 その夜、いつものようにスマホを開くと、タイムラインの空気が少しだけ変わっていた。


| あのユナの曲、縦読みで“REN”はマジだわ


| Silent Prayerも縦読み“YUNA”って、もう運命じゃん……


| アンサーソング説、地味に信じたい


| これ、もし本当だったら、やばくない?


 数時間前まではひとつの投稿だったスレッドが、引用とスクショで枝分かれし、拡がり始めていた。

 タグも生まれていた――#DeepBreathの真相、#SilentPrayer解析班。


 まだ、炎上というほどではない。

 でも、確実に誰かが誰かを呼びかけている空気が、画面の奥に漂っていた。

 灯里は息をひそめるように、投稿をひとつひとつ遡っていった。


 そしてふと思った。

 私は、何を探してるんだろう?

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