最終章『Answer / Another』
その朝、灯里はひとりでラジオブースにいた。
通常の収録スタッフは控室に待機し、オンエアの指揮だけが別室で行われている。ここにいるのは、マイクと、灯里、そして彼女が選んだ静けさだけ。
秒読みのカウントが、ブースの隅で灯る赤いランプに重なった。
その直前——
灯里はポケットに手を差し込んだ。
そこには、小さく折りたたまれた一枚の紙。
ユナがノートの余白に書き残していた、断片的な手書きの言葉。
| もしも 声が消える日が来ても わたしは あなたの中にいる
その筆跡に、灯里はそっと指先を重ねた。
一瞬だけ、手が震えた。
だが、次の瞬間——
彼女は深く、静かに息を吸い込んだ。
その呼吸はまるで、《Deep Breath》の旋律が始まる前のような、澄んだ静寂をまとっていた。
そして、オンエア。
| おはようございます。灯里です。
その声は、いつものように穏やかで、けれどどこか芯のある響きを含んでいた。
| 今日は、少しだけ、個人的なお話をさせてください。
息を整え、マイクの先にいる“誰か”に向かって、灯里は語り始めた。
| いま、この世界では、たくさんの声があふれています。ニュースの声、怒りの声、誰かを正そうとする声。でもその中に、言葉にすらならなかった、あるふたりの小さな祈りのような声がありました。
彼女は、手元のノートをめくる。
| もう、彼らの声を新しく聴くことはできません。でも——彼らは、最後の瞬間まで、想いを残していきました。
灯里はマイクに近づいた。
| その想いは、悲しみではなく、問いでした。どうして私たちはすれ違うのか。なぜ大切な言葉ほど、届かなくなるのか。そして、それでも声を重ねようとすることには、どんな意味があるのか——
言葉が、少しだけ震えた。
その震えを、もう一度だけ深く息を吸うことでおさめる。
それは、彼女にとっての《Silent Prayer》——静かな祈りのような決意だった。
| この曲は、彼らの問いに対する、“もう一つの答え”です。
ブースの中の空気が張り詰める。
灯里は静かに告げた。
| タイトルは、《Answer / Another》。




