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『Answer / Another』  作者: 耀羽 絵空


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第9章『声なき声の中で』

 ミウはコーヒー片手にタブレットを眺めながら、飄々と口を開いた。


「“似たようなフレーズがあったらしい”って書いただけだけど……バズったね」


 灯里と奏介は、言葉を失って顔を見合わせた。


「……お前だったのか」


「“らしい”って便利な言葉でしょ? それに、誰もウソついてないよ?」


 ミウの悪びれない笑顔に、灯里は思わず苦笑した。


 その一方で、騒動は加速度的に広がっていた。


|  《Answer / Another》にはまだ誰も聴いたことのない答えがある


|  《Silent Prayer》はその返事だったのかもしれない


 SNSでは熱狂と憶測が交錯し、ニュース番組でも連日特集が組まれるようになった。


 だが、当の灯里はその熱に飲まれるどころか、むしろ距離を取るようになっていた。


 街中の広告モニターにはユナとレンの映像が映し出され、彼らの名前が“物語”として消費されていく。


「これは、彼女たちが望んだ形なんだろうか……」


 奏介がそっと尋ねた。


「……それでも、何も伝えなかったら、それこそ彼らがいなかったことになる」


「……わかってる。でも、《Answer / Another》は、ただの感動話に使われるために作られたんじゃない」


「じゃあ、君の言葉で“そうじゃない”って伝えればいい」


 灯里は、静かに息を吐いた。


-----


 その日の夜、灯里のもとに再び絢音から連絡が入った。


| ひとつだけ、ちゃんと話しておきたいことがあるの。あなたに。


 カフェの奥、以前と同じ場所で、絢音は彼女を待っていた。


「ごめんなさい。……私は、ほんとうに何もできなかった」


 そう前置きして、絢音は語り始めた。


「ユナは、“自分が何者か分からなくなる”って、よく言ってた。でも、レンと一緒にいるときだけは、ちゃんと笑ってた」


 灯里はうなずいた。


「ふたりとも、音楽の中でしか生きられなかった。だからこそ、あの夜、何があったのか……私は知りたかった」


「それは……あなた自身のために?」


 絢音は答えなかった。けれど、その沈黙が何より正直な返事だった。


 しばらくして、彼女は封筒を差し出した。


「これ、彼らが最後にレコーディングしてたスタジオの使用履歴と、機材ログ。きっと、まだ“誰かの痕跡”がある」


 灯里はその封筒を受け取ると、ゆっくりと頭を下げた。


「ありがとう。でも……それが真実でも、きっと全部は明らかにならない」


「うん。でも、声は残る。言葉は、受け取る人がいる限り、生き続けるから」


 絢音の言葉は、まるで“静かな祈り”のように、灯里の胸に染み込んだ。


 そして、ふっと微笑みを浮かべながら言った。


「あなたが声を継いでくれてよかった。私は……きっと、背負えなかった。あの子たちの声の重さを、本当の意味で」


 灯里は、そっと視線を落とした。


「これは、彼女の声じゃない。今は……私の声」


 その言葉は、自分自身にも向けた、ひとつの覚悟だった。


 “声”を届けるということ。

 それは、誰かを糾弾するためでも、物語として消費されるためでもない。


 ただ、そこに“確かにいた”ふたりの存在を、ひとりでも多くの人の心に灯すため。


 《Answer / Another》は、まだ誰も知らないまま。

 けれどその“声なき声”は、世界のどこかで、確かに響き始めていた。


絢音と別れ、沈黙が流れる。

奏介が静かに灯里を見つめた。


「……ひょっとして、ふたりが探していた“あかり”って、君のことかもしれないね。」


灯里は目を伏せ、少しだけ微笑んだ。

その言葉が、胸の奥であたたかく広がっていくのを感じながら。


 そっと深く息を吸い込む。

 それは、灯里にとっての“Deep Breath”。そして、誰かに向けた“Silent Prayer”だった。

『Silent Prayer』 / 神楽坂レン

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夜が明けるころ 何かが終わった

声にならない想いが 胸を打つ

触れられないまま 守ろうとした

優しさだけが 痛みになった


言葉は祈りにも 呪いにもなる

真実を選ぶ勇気がなかった

遠ざかる背中に「ごめん」が間に合わなかった

あなたの背中に触れた気がした


静寂に溶けた願い

誰にも届かなくていい

ただ君にだけ残れば

僕の罪は 赦されるから

涙のような旋律に祈りをのせて



夕暮れに染まる 写真の中

昔の笑顔が 胸を突き刺す

ゆるされない約束が

うつくしいままで閉じ込められて


なにもできずに 立ち尽くしていた

あの日の僕に さよならを告げた

空を見上げていた 君の癖を

思い出すたびに 少し救われる


繰り返し流れる旋律が

壊れた僕をつないでくれる

あの歌を聴くたび

君に還っていける


静かに響く声が

心の奥を照らす

誰にも見せなかった弱さを包むように

もう一度 君と会えたなら

ただ「ありがとう」と



罪も後悔も消えないけれど

愛したことだけは

誰にも奪わせない


静寂に祈るように

この歌を残していく

僕が消えてもいい

君を傷つけないなら


And you now…

君に届くと信じてる


-----

配信準備中

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