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プロローグ『夜明けのブースから』
あの日、名前を呼べなかった。
でも、あなたを想っていた。
声にならなかった言葉。
形にならなかった約束。
そして、最後に残された“もう一つの答え”。
これは、ふたりの未完成の歌をめぐる物語。
そして、それを継いだ“あなた”の物語。
その朝、街はまだ半分眠っていた。
駅へ向かう人の足音がまばらに響き、空は淡い青に滲み始めている。
ラジオ局のスタジオブース。赤いオンエアランプが灯ると、世界が一瞬だけ静まる。
朝比奈灯里は、マイクの前に座っていた。
カウントのゼロとともに、彼女の声が空気に流れ出す。
| おはようございます。灯里です。
ほんの一拍、間を置いてから、彼女は静かに告げた。
| 今朝は、ある一曲を、お届けしたいと思います。
イントロが始まる。
静かなギター。
揺れる空気。
夜明けの匂い。
そして——
| タイトルは、《Answer / Another》。




