写ルモノ
【写ルモノ】ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっちゃん! お前のスマホ、なんか写ってね?」
放課後の教室。サッカー部を怪我で休部中の淳は、暇つぶしに教室の写真を撮っていた。何気なく画面を確認した瞬間、彼は息をのんだ。
そこには、自分の座っていた席のすぐ後ろ、黒髪の女子が立っていた。
制服も古びていて、顔はぼやけ、どこか“ぬれて”いた。だが淳の後ろには、誰もいない。
「心霊写真かよ……」
軽くゾッとしながらも、好奇心が勝った。淳は写り込んだ女の正体を探るべく、ネット掲示板や動画サイトで“幽霊が写るカメラアプリ”の都市伝説を調べ始める。
《スマホのレンズは“あっち”と繋がる目だ》
《シャッターを切るたび、少しずつ“こっち”に近づいてくる》
不気味な書き込みに鳥肌が立つ。だが淳は試した。昼の教室、部室、駅のホーム、夜の自室……。撮るたびに、女の姿が少しずつ近づいてくる。最初は壁際、次は背後の窓、次は……彼の隣。
そしてある晩。
「……誰?」
スマホ越しに、耳元で囁かれた。
翌日、クラスメイトの一人が階段から転落し意識不明に。淳が最後に撮った集合写真には、その男子の肩に、濡れた手が添えられていた。
事故は続く。吊り橋からの転落、通学路の交通事故、そして誰にも開けられなかったLINEの“最後の既読”。
残されたのは、写真の中に写り込んだ女の“顔”。それは徐々に変化していった。最初は無表情、次は微笑み、そして——満面の憎悪。
ある夜、淳はカメラを向けられなくなっていた。
画面に映る“自分”の背後に、首を傾けながらこちらを見つめる女が写っていたからだ。
しかも、もう“濡れて”などいない。完全にこの世の質感を持ち、スマホのレンズを超えて“ここ”にいた。
恐怖のあまり、彼はスマホを叩き割った。だが、鏡にもテレビにも、窓ガラスの反射にも、その姿は現れる。
——あの瞬間、撮ってしまったから。
——一度、繋がってしまったから。
——もう、“彼女”はどこにでも映る。
その日から、淳は鏡を見ることができない。
スマホも使えない。
カメラ付きのあらゆる物を避け続けている。
それでも――誰かが写真を撮れば、また“あの顔”が映るかもしれない。
次は、あなたのスマホに。
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