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水たまりはいつも、そこにある

作者: しゅうらい

 セミがうるさく鳴く、夏の午後。

 十歳の僕と、兄で十五歳のミナトは、クーラーのある部屋で、寝転んでいました。

「はぁー……やっぱり夏は、クーラーに限るな」

「そうだねぇ」

「あっ、そうだ!」

 僕がくつろいでいると、兄さんは何かをひらめいたかのようにとび起きた。

「どうしたの、兄さん」

「せっかくの夏なんだし、海行こうぜ!」

「えーっ、暑いし嫌だよぉ……」

「そう言うなって。じゃぁ、母さんたちに頼んでくるから」

「あっ、兄さん!」

 兄さんは、いつもそうだ。

 相手の言い分なんか聞きやしない。

 僕はため息をつきながら、もう一度寝ることにした。

 兄さんの要望は、すぐに了承された。

 一週間後、僕たちは海に来ていた。

「おーい、早く泳ごうぜ!」

「兄さん待って、ちゃんと準備運動しないと」

「もうちゃちゃっとやったから、平気だって」

「もぉー……」

 あいかわらずの兄さんに、僕はため息をついた。

 そして、運動をして振り返ると、泳いでいたはずの兄の姿は、どこにもなかった。

「あれ……兄さん?」

 その後、家族皆で必死に探した。

「ミナトーっ、どこだーっ!」

「こっちには、いなかったわ!」

「兄さーん、返事してーっ!」

 近くの人にも協力してもらったけど、結局見つからなかった。

 それ以来、両親と僕は、兄さんのことを話さなくなった。

 だけど、そのあとだろうか。

 僕の周りで、不思議なことが起き始めたのは。

 振り返るといつも、そこに水たまりがあったんだ。

 雨も降っていないのに、である。

 それが、何日も続いた。

「なんだろう……気味が悪いな……」

 僕は怖くなって、急いで家に帰った。

「はぁっ、はぁっ……なんでいつも水たまりがあるんだよ!」

 僕は震えながら、家の廊下を歩く。

 しかし、おかしなことがあった。

「なっ、なんで、ここにも水たまりが……」

 もしかして、お母さんが水をこぼした?

 その割には、量が多くないか?

 僕がおろおろしていると、水たまりはどんどん広がっていく。

 そして、ザバーっと音を立てて、なにかが現れた。

「ひっ……なんで兄さんが……」

 現れたそれは、兄さんだった。

 でも、僕の知っている兄さんではなかった。

 だって、姿が全然違うものになっていたから。

 辛うじて、兄さんとわかったのは、右手にしていたブレスレットがあったからだ。

 海でも、それをしていた。

「あぁ……あぁ……」

「兄さん、兄さんだよね!」

 僕は、必死に呼びかけた。

「あぁーっ!」

 だけど、僕の声は届かず、兄さんらしきものは襲ってきた。

 僕は怖くなり、強く目を閉じた。

「ぎゃぁーっ!」

 しかし、聞こえてきたのは相手の悲鳴だった。

 目を開けると、兄さんも水たまりも消えていた。

「えっ、助かった?」

 どうして、助かったんだろう……

 僕は、ふとあることを思いだし、首に下げていた物を取り出す。

 それは、おばあちゃんからもらったお守り。

 海に行く車の中で、兄さんと話したことを思いだす。

「えっ、兄さんお守り失くしちゃったの?」

「あぁ。でも、どうせきかないだろ?」

 その後、兄は姿を消した。

「もしかして、あの時も今も、僕を守ってくれたのかな……」

 それから、あの水たまりを見ることはなくなった。

 でも、今でも思うのです。

 兄さんは、僕を道連れにしようとしていたんじゃないかって。

 後日、おばあちゃんにこの出来事を話しました。

 すると、おばあちゃんは優しく微笑みます。

「あんたたちのお守りは、二人を守ってくれるように、おばあちゃんが願いをこめて作ったからねぇ」

「そうだったんだ……」

「お兄ちゃんのことは、辛かったねぇ。あんたは、お守り失くすんじゃないよ」

「うんっ、わかった!」

 僕は泣きそうだったけど、ぐっと我慢しておばあちゃんと指切りをした。

 そして、また夏がやってくる。

 僕は、何気なく空を見上げ、歩きだそうとした。

『絶対、お前も連れていくからな……』

 ふと、兄さんの声が、聞こえたような気がした。

 僕は立ち止まり、お守りをそっと握りしめる。

「どうか、僕を守ってください……」

 また兄さんが、僕を連れていかないように……

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
お前も連れて行く、って確かに相手の言い分を聞かない兄だ。 というか、兄よ。 キミの死の起承転結は全部キミが切っ掛けなんじゃないかと思えてきたんだが、どうだったんだい?
 僕を守ってくれたのは、おばあちゃんの愛だったんですね  おばあちゃんとのお話が分かり、良かったです!
長男がいなくなっただけでも相当に辛いのに、弟君までいなくなってしまったら御両親は耐えられないでしょうね。 そうならなかったのはお守りという祖母の愛だったのですか。
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