新世界
少し前に書いたものなので文章が拙いですがご容赦ください。
「よし、準備できた?出発するよ。作戦どおりに頼むよ。」
「は、はい。わかってます。」
「初めての戦闘が神様とは、夕羽は運が悪いねー」
彼女―――白月はそういって意地悪そうに微笑む。
今は、旅に出るために宿から出発しようとしている。
私は昨日一昨日で買った(買ってしまった)、ローブや武器などを身につけた。なんだか服装を変えるだけでも、少しわくわくしてしまう。私は鏡に写った自分の姿を見て、少しニヤついてしまった。
「なーにニヤニヤしてんの。いくよー」
「待ってくださーい!おいて行かないで!」
―――エルナーリア郊外
「すみません、どこまで行くんですか?」
今現在、私は白月の背中にぴったりくっついて行動しているような状態だ。どんどんと都市から離れていっている気がするのは気のせいだろうか。
「うーんとね、森に行くよ」
「も、森ですか…?なんでまた森へ?」
「あのね、私たちの任務は、メラーティアという神様の怒りを鎮めること。それでね、メラーティアがいる場所は、ここから遠く離れてるの。歩いたら1年は余裕でかかるかな〜ってとこ。だから、早く行くためにテレポートを使う必要があるんだけど、テレポートって王様の許しなく使うと、犯罪になっちゃうんだよ。だから、バレないように森の中でテレポートを使うために森に行ってるの!」
「な、なるほどですね。」
この世界にも犯罪という概念は存在するのか。(当たり前)
「てかさ、ずっと気になってたんだけど、夕羽もしかして冒険者登録した?」
「え・・・なんでバレてるんですか」
彼女は自慢気に鼻をフフンと鳴らしながら言う。
「ポケットの中に冒険者カード入ってるでしょ?私にはお見通し。」
私は彼女に言われて、昨日買ったローブについているポケットに手をいれる。
・・・あった。この大きさこの形…。完全にここに冒険者カードを入れたことを忘れていた。でも、なぜわかるのだろう?怖いなこの人。
「夕羽も透視スキルを覚えれば簡単にできるようになるよ〜。今度教えてあげる。というか、メラーティアに会う前に一回ギルドに寄るから、そのときにパーティー登録しようか!」
彼女はそう言って屈託のない笑顔で笑った。なんでこんなに嬉しそうなのこの人。
◇ ◇ ◇
「ついたよ〜!ちょっとまってね。」
彼女はそう言って両手を大きく広げるやいなや、大きく深呼吸を3回した。
「セイクリッド・ヴァーリア」
彼女が静かにそう唱えると、私たちの周りに半径5メートルほどの小さな半球の形をした結界が張られた。
「これは・・・?」
「一応、周りから見えないようにするための結界。対魔物用ではないから、上級魔物とか出てきたらすぐ壊れちゃうよ〜」
彼女がそう言った途端に、今まで聞こえていたはずの鳥のさえずりや、虫の鳴き声が聞こえなくなった。
代わりに聞こえてくるのは、誰かの足音。先程の白月の発言はフラグだったみたいだ。
「静かに。夕羽はそこに隠れてて。大丈夫。私これでも結構強いから。」
そう言って彼女は右手の親指を立てて、グッドポーズを作った。
私は近くにあった物陰で息を殺して、白月を見守る。
「あっれれーっ、君、どっかで会ったことあるよねぇ?」
足音の主は白月を見るなりそう言った。足音の主は、狐の面をかぶり、和服をアレンジしたような服を着ている銀髪の少女だった。だが、この世界は見た目で年齢を判断できない。
「だれだっけ、あなた。私、あなたみたいな人と会った記憶ないですけど。」
いつもの白月と違って、彼女は今、険しい表情をしている。なんだか別人のようだ。かっこいいな。
「そんなに警戒しないでよぉ。アタシはアグレア。絶対に君とは一回会ったことあると思うんだけどなぁ。」
彼女はそう言いながら、右手を体の前に持ってきて、お辞儀をした。なんだかアグレアと呼ばれた彼女は、和服を着ていて服装は全くといっていいほど違えど、中世の執事のような雰囲気を身にまとっている。
「で、そのアグレアさんがここへ何しに来たんですか?」
「かたいかたーい!何しにって、そこに隠れてるお嬢ちゃんに用があってさー」
彼女はそう言って、物陰に隠れてこっそり彼女たちを見ていた私を指差す。
へ?私?私に用って何?
「夕羽に用?私が納得できる内容だったらいいですけど。」
「んー、君は納得してくれないかもなぁ。」
「何?私が納得できないような内容なんですか?とりあえず話してください。」
「はいはーい、多分力ずくになると思うけど。」
彼女はそう言って、ここに来た経緯を話しだした。
「アタシさぁ、これでも特級悪魔なの。でね、アタシが仕えてる主様が、稲波夕羽って人物をつれてこいって言ってて。詳しい理由はわかんないんだけど、稲波夕羽、なんかアンタ色んな奴から狙われてるみたいだよ?」
いろんな奴から狙われている?どういうこと?私なんかしたっけ?
私があっけにとられていると、アグレアはおかしそうに笑った。
「だからぁ、主様のとこにこいつを連れて行くためにここに来たの!」
アグレアは私を指さしながら白月を片目で見る。
「ふーん、なるほどね。あなたの願いはわかった。でも、あいにく今、私たちお取り込み中なの。だから今はあなたの願いを聞くことはできない。」
「だよねぇ、知ってた。やっぱり力ずくしかないみたいだねっ!!」
アグレアはそう言って、一直線に真上にとんだ。白月はそれを、先ほどと変わらない表情で見上げている。
「なーに、アグレアだっけ、私と戦うつもりなの?」
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味だけど。」
白月はそう言って冷酷な表情をアグレアに向ける。本当に別人じゃないのこの人。
「アタシに今まで勝てたやつは一人だけ!言い換えれば、アタシはそいつ以外には負けたことがないし、負けないの!」
「そう。なら、私がその一人だったら?」
「えっ」
白月が言葉を発した途端に、アグレアは驚いたようにして動きを止めた。
「やっぱりアンタ・・・そうなの・・・?」
「まだ今から戦う意思があるなら戦ってあげる。どうする?」
白月は相変わらず冷酷な表情でアグレアを見つめている。私の目の前で何が起こってるの?
「わかった。アンタとはもう戦いたくないからね。やっぱり一回会ったことあるじゃんか。」
「そうだっけ?」
白月はいつの間にか、元の優しい表情に戻っていた。この人もしかして、二重人格?
「じゃ、じゃあねっ!」
アグレアはそう言って、どこかに消えていった。嵐のような人だったな。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫!でも、ああいう奴はまた多分来るから、しばらくは私と行動したほうがいいかも。」
そう言って白月は、言葉に付け足すように笑った。
「じゃあ気を取り直して!テレポートするよー」
「は、はい・・・」
「あ、そうだった。先にさっき壊された結界を張り直すよー」
彼女は一回目のときのように、両手を大きく広げて、深呼吸を3回した。
「セイクリッド・ヴァーリア」
「よし!これでやっとテレポートできるよ。しっかりつかまっててねぇ!」
「は、はい!!」
「テレポート!」
彼女がそう言い放ったと同時に、私たちの立っている地面に魔法陣が出現した。そしてすぐに、目の前が真っ白な光に包まれ、思わず私は目をつぶった。
「もう目開けていいよー」
白月に言われ、私は目を開ける。
「わぁー!」
私はいつの間にか、そのような言葉を発していた。
目の前には透き通るような霧が流れ、幻想的な雰囲気の中に佇む家々が立ち並んでいた。
「ここは、アクアエレメント。異世界では珍しい森林都市。結構他の都市では見られないような武器とか防具とかが売ってたりするよ。しばらくここに滞在するから、よかったら見ていくといいかも。」
「は、はい」
先程から自分が「はい」としか言っていないことも忘れ、この街にとても魅力を感じてしまった。なんだろう、この郷愁感。まるで一度、ここに来たことがあるかのような不思議な感覚。
「そんなに気に入った?この街。」
白月は、いつの間にかどこかで買ってきたであろう、なにかを飲みながら言った。
「気に入っちゃいましたけど、それなんですか?いつの間に買ってきたんですか?」
私が不思議がる様子を面白がるようにして白月は言う。
「今さっき、夕羽がここの風景に浸ってるときに買ってきた!これさ、おいしいんだよね〜!ウーロン茶!なかなかこっちじゃ手に入らないからさ。」
「え、う、ウーロン茶・・・?」
なんか思ってたのと違う。もっとこう、カタカナの名前の飲み物を期待してたんだけど・・・。
「あー、今、しょぼって思ったでしょ?ねえ思ったでしょ!」
「い、いやぁ…思ってないですよ!!」
私はどうにか笑顔を取り繕った。絶対に今変な顔になってる・・・。
「まあいいや。あのね、一つ大事なことを言っておくけど、この都市はいろんな都市の中でも結構危険な都市なの。他のところに比べて、古代の文化とか風潮とかが根強く残ってるところが多くあって、あんまりここに住んでる人とは関わらないことをおすすめする。お店の店員さんとかは大丈夫なんだけど、一般の人は特に気をつけて。怒らせたらとんでもなくめんどくさいことになりかねないから。」
「は、はい・・・。」
白月がここまで念を押してくることは中々ないため、きっと相当面倒事になるのだろう。気をつけなければ。
「じゃあ、とりあえずここからは自由行動で!宿の場所のメモだけ渡しておくから、夜になったら戻ってきなよ〜」
白月は私にメモを手渡すと、唇が少し動くぐらいに小さく笑った。
「ほんとに、さっき言ったこと忘れないでね?」
「わかってますって。じゃあ、また夜に!」
私はそう言って早々にその場を立ち去った。少し乱暴だったか。
そのような言葉が私の脳内を駆け巡ったが、結局、この街を早く回りたいという好奇心には勝てなかった。
―――夜 宿
「楽しかったぁっ!」
思わず独り言がこぼれた。だって、異世界楽しすぎるんだもん。
この街は、王都とは違う良さがあった。武器や防具なんかは高すぎて買えなかったけど、見るだけでもワクワクするようなものばかりだった。
そんな今日の思い出に浸っていると、ふいにドアをノックする音が聞こえた。なんかこのシチュエーション、どっかで見たことある気がする。
ドアの先にいたのはもちろん、
「そんなに楽しかった?それなら良かったんだけど、もう少し静かにしてくれると嬉しいかな〜」
白月だ。私は恥ずかしさで思わず顔をうつむけてしまった。
「す、すみません。以後気をつけます・・・。」
私が恥ずかしそうにしている様子をみて、白月は少し笑いをこらえるような表情を見せた。
「そんなに気にしなくていいよ。それよりもさ、夕羽に渡したいものがあります!」
「渡したいもの?」
白月は私の質問に頷くと、背中から大きな袋を取り出した。綺麗にリボンやらなんやらで梱包されている。
「開けてみて。」
白月は自慢気に言う。
私は袋を手に取り、梱包をほどいた。
「わぁー!きれー!」
私は小さな子供のような感想しか出なかった。白月がくれたのは、私が昼間に街を巡っていたときに、一目惚れしたけれど値段が高すぎて買えなかった、魔法の杖だった。
「なんでこれを・・・?」
「今日1日ね、夕羽を観察してたの。あの、ほら。ここに来る前に会ったやつが夕羽が狙われてるーとかなんとか言ってたなーって思い出して。そしたら、夕羽が見たことないようなキラキラした目でこの杖見てたもんだから、これは買わなきゃ!ってなっちゃって、買っちゃった!」
白月はこんなふうに、簡単に買っちゃったなんて言うが、この杖の値段は日本円で20万ぐらいするものだ。初心者魔法使いが持っていていいような代物じゃない。
「ほ、本当にいいんですか?私なんかがこんなものをもらってしまって・・・。」
「いいのいいの〜!私、お金ならあるから!」
なんだろう。これをくれたことや、今までの旅の資金なんかを全額出してもらってるっていうのは本当に感謝してるんだけど、なんか今の言い方はすごく腹がたった。無性に。
「本当にありがとうございます・・・。何から何まで・・・。」
「いいってことよ!」
白月はそう言って、ニッと笑った。この人、本当に何者なんだ・・・?
彼女の謎は深まるばかりだ。
―――翌日 宿
「おはよぉー!!」
私は朝から、小鳥のさえずり・・・なんかではなく、白月の大声で起きた。
「なんですか!朝から大声だして!!」
私はベッドから飛び起きて言う。
「ああ、ごめんごめん。今日、メラーティアのとこに行くよってことを伝えたくて。」
彼女は平謝りもいいところだ。まあいいんだけどさ。
「あと!!今日、パーティー登録に行こう!」
「ぱ、パーティー登録?」
「そうそう!夕羽、冒険者登録してるでしょ?だから、私とグループ組もう!ってこと!」
私はRPG系のゲームを一切触ったことがなかったので、ギルドとかパーティーとかよくわからないけれど、なんだか冒険者は楽しそうだなーと思ったために冒険者登録をした。
だが、一緒に行動していた人が―――こんな人だったなんて。
◇ ◇ ◇
―――アクアエレメント内 ギルド
「ご要件は何でしょうか。」
今私は、白月と一緒にアクアエレメント内のギルドに来ている。それはもちろん、パーティー登録をするために。
「えっと、この人とパーティー登録したくてー」
「では、ここにお二人の冒険者カードをおいてください。こちらで手続きいたしますので、少々お時間をいただきますがよろしいでしょうか?」
「はい!ありがとうございますー」
白月はそう言って、めちゃくちゃ古そうな冒険者カードを取り出す。私も作ったばかりのピカピカな冒険者カードを、指定された場所においた。
手続きをしてもらっている間、私たちはギルド内にあるレストランと言うか食事をする場所で座って待っていた。
「どきどきするよね〜、はじめてのパーティー登録はさ。」
白月はなぜか、少し悲しそうな表情をして言った。
「白月さんはパーティー登録したことあるんですか?」
「んー、あるよ〜。一回だけ。」
白月さんはそう言ってから、一言も喋らなくなってしまった。やばい。なにか聞いてはいけないことを聞いてしまったみたいだ。
「なんか、すみません。」
「ん、ああごめんね。ちょっと昔の思い出が・・・。」
白月はそう言って笑っているが、笑顔が引きつっているのがひと目見てわかる。
私がなにか言葉をかけようとしたときだった。
「ええええええええええええええええええっ!!!!!!」
その悲鳴は、受付から聞こえてきた。ギルドにいた人たちが、一斉に悲鳴が聞こえた方向を向く。
すると、先ほど受付をしてくれた女の人が、すごい形相をしてこちらに向かって歩いてきた。
「白月さん、ですっけ、あなた、なんですかこのステータスの値!!」
受付のお姉さんは、そう言って白月の冒険者カードを見せる。
えーっと、なになに・・・?HP、Lv、力、知識、運、なんか他のステータスも諸々全部カンストしてるんだけどこの人?!
「あなた一体何者ですか?!」
受付のお姉さんは白月を驚いている表情で見つめる。一方の白月は、なんともないように言う。
「何者って、ちょーっと昔から冒険者してるただの一般人ですけど。」
「一般人って・・・」
受付の人は、意味がわからないといった表情を浮かべている。
白月って、こんなにすごい人だったんだ。
この騒動を見ていたまわりの冒険者たちも、みんなそろって白月の冒険者カードをみるために、こちらに押し寄せてきた。
「なんだこいつ、すげー!!」みたいな声があちこちから聞こえていて、白月は珍しく少し恥ずかしそうだった。
「白月さんって、こんなにすごい人だったんですね!」
私がそう言うと、白月は少し不機嫌そうな顔をした。
「そういうこと言われるの、あんまり好きじゃないからさ。こういうことあんまり話したくなかったんだよね。」
白月は目を伏せがちに言った。
「なんでですか!とても名誉なことですよ!自分の強さを誇ってください!」
私は、内心こんな人とパーティーを組んだら、私が足手まといになるだけなのではないかと思っているが、こんなことを言ったらきっと彼女は、もっと不機嫌になるだろう。
「ありがとうね、夕羽。パーティー登録も終わったことだし、出発しようか。」
「そうですね。私の世界の人のためにも、メラーティアに会いに行きましょうか!!」
私たちはそうしてやっと、メラーティアの住む宮殿に向かいはじめた。
まだ空は夕暮れには程遠い、透き通った青色をしていた。
続き頑張ります。