第1章 ‐転送‐
西暦2082年 日本
ここ最近の日本の夏はとても生きている気がしない。
止まらない温暖化による異常気象の影響で僕が住む町も日中は50度近くまで上がっている。湿度も考えると…もうやめておこう、考えるだけでくらくらする。
アイスでも食べよう。
「先の大戦でご家族…亡くされた方に…き続き支援を…」
テレビから流れてくる途切れ途切れの感情のない声は官房長官らしい。
「もう誰が何の大臣かもわかんないね」
「政治家の名前なんて覚えるだけ脳の容量の無駄よ」と母が言う。
「明日、昼からバイトだから」
「お昼は食べていく?」
「うん」
テレビで官房長官が言っていた”先の戦争”とは僕が幼いころに起きた隣国との戦争のことだ。幼かったので記憶にはほぼないが短い期間で相当な命がなくなった、その中には僕の父と兄もいる。
「PCの調子が悪いな…またWiFiの方か?」
2階の自室に戻った僕は尋常じゃないスピードで溶けていくアイスと戦いながら自分のオンボロPCとも戦っていた。戦争は日本側の事実上の勝利で終わったが今でもインフラの復旧は間に合っていない上に隣国から電磁パルスとかいうテロ行為が頻繁に行われているためネットがつながる日はあまり多くない。おまけに繋がっても規制があるため長くは使えない。
「昔は毎日SNS使い放題だったなんていいよな」
棒だけになったアイスを歯と歯で噛みながらゴニョニョ言う。
戦後、国からは家族が亡くなった人や家などの財産を失った人に支援金という名目で賠償をしている、当然僕の家もその対象である。しかし支援金を受けとれるのは国が今から半世紀ほど前に設立した信用スコア制度のランクによって選別される。
簡単にいえば社会的信用度を様々な形でポイント化し人間一人一人にランクをつけるのだ。日頃の行いというものに近い。
「おっ、WiFi繋がった。」
カーソルを合わせてツブツブを開くとフォローしているアカウントの投稿が目に飛び込んできた。
”旧世代の通信端末をGET、果物マーク付きなので旧アメリカ製かも”
「画像が見れないじゃんか、くそっ」
どうやらまだ電波状況が良くないらしい、諦めてウインドを閉じる。
ドタドタドタッ
階段を滑るように降り1階のリビングに戻る。電気代が高いので自分の部屋のエアコンは使えない、ゆえに長くは居られない。
「電波戻んないわ、もう三日目なのに」
「今回はかなりひどそうね」
母はほとんど映っていないテレビから目をそらさずに言った。
「キーーーーーーーー!」
突然、頭を割くような耳鳴りが僕を襲った。
「うわぁ!何…これ…!」
母は僕の苦しむ声に反応しない。
体中から出る嫌な汗で気持ちが悪い、それどころか気を失いそうな音だ。
とにかく音が聞こえてくる外に向かった。
庭に出るとその音は一層大きくなりあまりの苦しさに膝をついた。
その時、音が鳴りやみ目の前に巨大な足が見えた。
「…え?」
上を見上げるとそこには15mほどはあろう人型の物体がそびえたっていた。
続く