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あなたの沈んだ海で

作者: イトウ モリ



私はいま

あなたの沈んだ海にいる



あなたの近くにいきたいのに

私の足は砂浜から離れない



荒れ狂う海が怖くて


襲いかかる波が怖くて



私は砂浜で立ち尽くすばかり



*



私は再び

あなたの沈んだ海にいる



少しでもあなたに近づきたくて

ゆっくりと足をひたしてみる



あたたかい水は

とても心地良かったのに



引き波にさらわれるのが怖くて


底が知れない海の深さが怖くて



それ以上進めず立ち尽くすばかり



*



私は三度(みたび)

あなたの沈んだ海にいる



陸に嫌気がさして

すがる思いで海に飛びこんだ



海は悲しくなるほどあたたかくて

包みこまれるように孤独で

羊水のように私を満たしていく




あなたが沈んだ海

あなたが還っていった海

あなたが深く愛した海



もっとはやく来ればよかった


あなたがここにいるうちに



あなたと一緒に沈んでみたかった





ねえ


深く深く沈んだ先には


あなたのいる空が待ってるのかな






私はいま

あなたの沈んだ海にいる


あなたのかわりに

ここで新しい海が誕生するのを待っている



あなたがもう

沈むことができない海で



あなたのかわりに沈むために





挿絵(By みてみん)


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