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『迷宮殺し』レインの英雄証明 ~勇者に憧れた少年、元勇者と大罪人の道を往く~  作者: 立華凪
光の章

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#028 『ライドという男』


「待たせてすまなかった。では、出発しようか」


「ああ」


 準備を終えたライドと合流し、今回の依頼の目的地である【メリオル大洞窟】へと向けて出発する。

 光の国ライトの首都であるアルターから、徒歩で大体2時間ほどの場所にあるその迷宮は、Fランクに該当する迷宮だ。ギルドの情報によると、迷宮全体が洞窟のようになっている為、常に視界が悪いのが特徴だとか。その点、俺は火系統の魔法を使えるので視界には困らなそうだな。

 まだFランク冒険者になったばかりだと言うのに、もうFランクの迷宮に挑戦しても大丈夫なのか、という事をカシュアに聞いてみると。


『本当はまだFランクの迷宮に挑戦させるつもりは無かったんだけどね。アルター周辺にある迷宮の中で唯一のGランク迷宮であるサナボラ樹海が閉鎖されたってのもあるけれど、今回の依頼は共同依頼だし、安全性が高いと踏んだ。……彼が現れるまではの話だけどね』


 との事だ。つまり、ライドの事を警戒していればそれで問題無いだろう。

 それに、カシュアが以前言っていたように迷宮内は魔力が濃い影響で成長する速度が違う。出来ればサナボラ樹海のコアを破壊しに行くまでの2週間の間は、可能な限り迷宮内で修行を進めていきたい。

 そんな事を考えていると、ライドが声を掛けてくる。


「レイン少年……で良かったかな」


「ああ。ナターシャさんから色々聞いたのか?」


「その通りだ。ここ数日、彼女から君の話を持ち掛けられる事が多くてね。今回の依頼も、冒険者の先達として彼を導いて欲しいって言われたから引き受けたのさ」


「……あの人、本当に心配性だな……」


 俺の要望通りに指名依頼が来たのは良いが、また無茶をするかもしれないと思われてしまったのだろう。彼女には知る由も無いが、俺にはカシュアが付いている。彼女の指示があったからこそ、俺はこれまでの危機を切り抜けてきたんだ。余程の想定外の事態が起きない限りは、大丈夫だろう。

 

「もし助言が必要だったら遠慮なく聞いてくれ。要らないのであればそれでも構わない」


「分かった。何か教えて欲しい事があったら聞くよ」


 いっそ不気味なまでに柔和な笑みを崩さないライド。だが、言っている事は至って普通どころかむしろ俺に対して好意的まである。そこが怖いと言えばそうなんだが。

 ふと、ライドの顔をじっと見て、思った事が口について出る。


「なあ、ライド。お前の顔どこかで見たことあるなって思ったら、何となくメルクって執行騎士に似てる気がするんだが……兄弟か何かか?」


 昨日、【迷宮殺し(ダンジョンスレイ)】と呼ばれる組織の構成員が処刑される際、執行騎士(エグゼナイツ)第一席を名乗っていたメルク・ラルフォンという男。

 ライドの眩い金髪は彼の髪色とそっくりで、整っている顔立ちも似通っている。だからこそそう思ったのだが……。


「完全に関係が無いかと言われるとそうでは無いが、兄弟では無い。それに、彼の息子はまだ6歳程だと聞く。……その息子も、行方知らずとなっているようだが」


 緩く頭を振りながら、そう回答するライド。

 兄弟でも息子でも無い。でも関係はある……メルクの親戚か何かなのだろうか。


「悪い、あまり聞かれたくない事だったか」


「たまに聞かれる事があるから別に気にならないさ。むしろ、そうやって相手の事を知ろうと接してくれている方がありがたい。……ギルドを出てから、かなり警戒しているようだったからね」


 余りにも的確な言葉にぎくりと肩を震わせる。やっぱり、ライドを警戒しているのはバレていたか。

 ライドはと言うと、少し困ったように、口元に手を添えながら上品に微笑んだ。


「君の反応は素直すぎるな。あまり謀略などの類に長けていないのだろう。だが、その方が今回の依頼の相方として安心できる。過去には、共同依頼の報酬を独り占めしようと襲い掛かってくる輩も居たからな」


「やっぱりそういう奴も居るんだな……。その相手はどうしたんだ?」


「無論、懲らしめておいたとも。命を奪うまではしなかったが、恐ろしい目には遭って貰った」


 穏やかな笑みのままそう言うので、背筋がひやりとする。

 命を奪おうと襲い掛かってきたのだろうから因果応報だろうが、何をしたのかが気になるな……。


 そんなこんなで、俺達は【メリオル大洞窟】へと歩き続けた。





 結論から言うと、当初警戒していたよりもライドは温和な人物だった。

 会話を振れば必ずちゃんと返してくれるし、出会った時に言っていた『仕事仲間だから対等に』という言葉通り、先輩冒険者として威張るような事も無かった。

 それ故に俺はすっかりライドに心を許し、冒険者としての知識など、様々な質問をライドに投げかけていた。その結果として。


『……むぅ、冒険者としての知識ならボクの方が色々知っているのに……』


 恐らくライドよりも冒険者歴の長いカシュアが拗ねてしまった。だが、迷宮が誕生してからの知識という点なら、ライドの方が情報を持っていたのでカシュアもそれについては認めていた。

 会話が一区切り付き、少し踏み込んだ話題をライドに聞いてみる。


「ライドはなんで冒険者になったんだ?」


「──私は、友を探しているんだ」


「友……? 行方が分からなくなった友達が居るのか?」


「いいや、そうでは無い。互いに背中を預けられる、相棒のような存在を欲している」


 カシュアと俺のような関係って事だろうか。でも、カシュアは今生身の肉体が無いから物理的には背中を預けられる状況ではないけど。


「冒険者として活動していく上で相棒が欲しいって事か?」


「……来るべき日に備えて、とだけ言っておこうか」

 

 来るべき日……か。

 それを聞いて、カシュアが言っていた『迷宮は魔王復活の為の祭壇』という話を思い出す。ライドもまた、全く同じ結論とまではいかずとも、近い未来、似たような状況になると推測しているのかもしれない。

 ライドは何か思い出したかのように一瞬だけ苦い表情になり、深くため息を一つ吐いた後、こちらに柔らかく微笑んでくる。


「──それとも、君が私の相棒になってくれるか?」


 そのライドの表情を見た時、何故かカシュアが俺に対して本音をこぼしたあの状況が脳裏に浮かんだ。あの時のカシュアの表情とは似ても似つかない、穏やかな笑み。だと言うのに、俺はどうしてかライドが救いを求めているような──そんな気がした。


「なんて、冗談だ。着いたぞ、少年」


 どう返答すべきか迷っていると、ライドは正面を指差した。

 そこには、巨大な遺跡のような建造物が立っていた。【メリオル大洞窟】の迷宮だ。俺達が入り口に近づくと迷宮内部へと繋がる転移門がゆっくりと起動する。


「今回は【異常事態(イレギュラー)】が起きないと良いけどな……」


「今回は発生しないから安心すると良い。君が不安なら、依頼を終えたらすぐに脱出しても良いが」


「ギルドの時にも言っていたけど、それは勘なんだろ? サナボラ樹海の時も見立てが外れたって……」


「いいや、今回は絶対に発生しない。そう()()で確信している」


 俺の言葉を遮るように、ライドはそうきっぱりと断言する。

 そんなライドの様子を不思議に思っていると。

 

「時に、少年」 


 声を聴いてライドの方へと顔を向けると、彼は静かに、恐ろしい事を言い放った。



「──もし【異常事態(イレギュラー)】が()()()()()()()()()()だと知ったら、君はどうする?」



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